人工知能(AI)ツールに関連して、歴史をさかのぼると、画期的なテクノロジーの登場が既存分野に大きな影響を与えた事例があると思ったので、それを紹介して一連の話を終わりにします。
どこで見た話か出典を忘れてしまったので、以下は「~という説もあるらしい」くらいに聞いていただきたいのですが。
アート(美術)の世界では、19世紀後半に印象派が登場しました。印象派は(目に映る色彩や形状そのまま情景を描こうとした人たちですので)ある意味で、写実主義の流れをくむものでもありました([1]p.142)。その後、1888年にロールフィルム式のカメラが発売されると、急速にカメラが大衆に普及したそうです(たとえば[2]より)。そこで、美術史の本でその前後の有名画たちを見比べてみると、1888年頃を境にして絵画は写実的な表現から離れていったように見受けられます([1]p.142~168など):
- たとえば、風景そのものよりも感情を描いたと解説されるムンク『叫び』は1893年でした。
- また、マティスをはじめ、写実的な色使いから離れた表現を追求した「フォーヴィスム」の人たちは、1905年から数年間が運動のピークだったとあります([1]p.159)。
- やはり写実的とは言い難い「ドイツ表現主義」も同じころでした([1]p.160)。
- さらに、抽象画の可能性を追求したカンディンスキーは、1910年に(彼の)初めての抽象画を描いています([3]p.49)。
つまり僕の理解だと、ロールフィルム式カメラという画期的なテクノロジーの登場で、人間が描く絵画は大きな変革を余儀なくされていった、ように思います(5年10年スパンですが)。
その一方、カメラはカメラで、現在のビデオやスマホ動画にまでつながる爆発的な発展をしてきたのは明らかです。写真芸術という言葉もありますし、メディアアートではビデオ・動画も普通に使われています。テレビや映画も言わずもがな。また少し前まで、フィルム写真の現像や撮影をする専門のカメラ屋さんや写真館が街のいたるところにありました。つまり、カメラの普及によって色々な表現やビジネスが新たに生じたわけです。
AIツールも同様にかなり画期的なテクノロジーではないでしょうか。ですからそれによって変革を余儀なくされる分野もあるかもしれませんし、それと同時に、AIツールを用いた新しい表現やビジネス形態も生じるのだろうと思います。(まだそれがどんなものか自分にはわかりませんけれど。)
お話は以上で終わりです! 想像半分のよもやま話にお付き合いいただきありがとうございました。
References
[1] 高階秀爾(監修)、『増補新装[カラー版]西洋美術史』、美術出版社、2002年。
[2] 『日本大百科全書』-「カメラ」の項 https://kotobank.jp/word/%E3%82%AB%E3%83%A1%E3%83%A9-46851 。
[3] 千足伸行、『すぐわかる20世紀の美術―フォーヴィスムからコンセプチュアル・アートまで』、東京美術、2008年。