「Momotaro」(英文) | 世界文学登攀行

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世界文学の最高峰を登攀したいという気概でこんなブログのタイトルにしましたが、最近、本当の壁ものぼるようになりました。

図書館を利用するときは事前予約をするので、図書館で本を探すことはほとんどない。
だが、この前、妻と図書館に行った時に、久しぶりに本棚を眺めながら歩いた。

たまたま目に止まったのが、英語の本のコーナー。
日本の物語をやさしい英語に書き改めた、多読・速読に最適な英文リーダーという触れ込みのシリーズのレベル1の本を手に取った。
ちなみにレベル1の使用語彙は中学校で学習する単語約1,000語だそうである。

AIの翻訳機能が飛躍的進化を遂げる中、今さら英語をマスターしたいという願望もないけれど、英文の本を読む知的趣味に興ずる自分、という姿を思い浮かべてにやにやしながら借りた。

本書は「Long-ago Stories of Japan vol.1」とある通り、日本昔話の1巻である。
本記事はその中に収録された「Momotaro」の感想である。

面白いなと思った部分をいくつか書いてみる。

「It bobbed and rolled and rolled and bobbed」(P4)
桃が流れてくるときの描写である。
bobは上下に動くという意味の動詞であり、rollは転がるとか横揺れするなどの意味のある動詞である。(このシリーズは使用した全単語の意味が巻末に載っているという親切設計なのが特徴である)
つまりこれは「どんぶらこっこ、どんぶらこっこ」の英訳。
桃太郎なんて、あまりにも小さい時から知っている話だから、どんぶらこっこの意味なんて考えたこともなかった。
なるほど確かに、桃は、どんぶらこっこと流れてくるのだから、上下に動き、横揺れしながら流れてくるという英語の表現は正しいものなのだろう。じゃあ、今度これを日本語で表現しなおすとどうなのだろう。桃が上下に動き、横揺れしながら流れてきましたでは、まったく物語の情景を損ねてしまう。
そう考えると、「どんぶらこっこ」は、桃太郎の中で1回でてくるだけの言葉なのに、日本中のみんなが知っているパワーワードなのだなと妙に感心した。

あと、気になったのは、桃太郎と名付ける場面。
「"Well, he was born from a peach," said the old man."So let's call him Momotaro."」(P7)
「ピーチから生まれたから桃太郎にしよう」なんて、日本人にしか伝わないだろう、というツッコんでしまう。
また、鬼のことを「demons」(P8)、鬼ヶ島のことを「Demons Island」(P8)と呼んでいるが、鬼とデーモンはちょっと違うなと思ってしまう。
僕は、世界の名作を読むということをやっていて、それはもちろん翻訳されたものを読んでいるわけだが、外国語→日本語のものを読んでいるわけだから、外国語の原文がどうだったかなんていうことはわからない。
でも、日本語→外国語のものを読んでみて、言語が違うというのは文化が違うということなのだから、言葉の背景にあるものを別の文化圏の言葉に移し替える翻訳者の苦労を改めて知ることができた。これはまだAIにはできない仕事であろう。

さて。
日本語で内容を知っている物語を易しい英文で読む。
思ったよりもするすると読めるのだが、これは、英文として読めているのか、日本語で知っている内容が脳内再生されているだけなのか、議論の余地がある。
ただ、思っていたよりも、英文書籍を読むことは、パズルにも似た楽しい遊戯であると思う。