「ええっ !? やらないのぉ !?」
ワダさんは悲鳴にも似た叫び声を響き渡らせた。
ボクはあわてた。
冗談じゃない! やりませんよ!
心の中で叫んだ。
ワダさんは味方だと、勝手に思い込んでいた。
なのに気が付けばいきなり背中から矢を打たれていた。
なんという誤算!
そもそも「味方」とは何か?
ボクにとっての「味方」とは、ボクの思惑に沿って力添えをしてくれる相手の事だ。
つまり自治会で負担を負わずに一年を無事過ごしたいという願いに対して、力添えを
してくれる…それがボクにとっての「味方」だ。
だがワダさんは、自治会長を進んで受けるような人物である。
人命救助を共に行う事で、ワダさんにとってボクは「味方」…つまり「地域の責任を
進んで果たそうとする人物」と位置付けられてしまっていた!
それを裏切られたと思っての悲鳴であろう。
ワダさんの悲鳴は、周囲の人々に恐ろしい影響を与えた。
ボクはついさっきまで事前に根回しが行われた可能性を考えていた。
エンドウさん、ヒカワさん、ワダさん、シバタさん。
この四人は、あらかじめ互いを三役にするよう決めてあったか、あるいは暗黙の了解が
あったかのいずれかではないかとボクは疑った。
ボクがそう思ったという事は、その場の他の人もそう思ったに違いない。
ワダさんの悲鳴は、その根回しがボクにも適用されていると印象付けるものだった。
『カゲオさんは副自治会長』
そう決めてあったのに、この場で覆すつもり?
ワダさんの悲鳴は、まるでそう言っているかのように聞こえただろう。
エンドウさんはもう一度ボクの方を見た。
「あんた、やりませんか。副自治会長」
…ボクは窮地に追い込まれていた。
<続く>
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