「我々」--。
エンドウさんはそう言った。
約20人の理事のうち、「我々」とはいったい何人を指すのだろう。
ボクたちもまた「我々」の一員なのだろうか…?
管理組合にしろ、自治会にしろ、基本的に参加者同士は「対等」である。
上下関係などは存在しない。
…いや、してはいけない。
にも関わらず、この閉鎖された空間には、明らかに「力がある人」「そうじゃない人」の線引きが感じられた。
もちろん、事情に通じている「理事経験者」、つまり先輩という意味では発言力が強い人はいて当然なのだが…。
ボクが座ったのは、そんな「力がある人」の隣だった。
運が悪かったとしか言いようがない。
「今回は三役を決めなければいけないとの事なんでね」
と、エンドウさんはボク達に言った。
もともとミハラさんが言っていたことだが、それが今回集まった趣旨らしいので確かにやっておく必要はある。
エンドウさんは長々と喋り始めた。
「新顔の方もいらっしゃるようですので、…念の為、説明しておきます。
当マンションには 『管理組合』 と 『自治会』 の二つがあります。
管理組合はマンションの建物。
設備や、住民同士の大きな取り決めをする組織ですね。
どこを修繕するのにいくらかける、その場合どこの業者に依頼する…
…とか、建物内の喫煙を禁止する・あるいは許可する…。
そうした事を決める為の機関です。
一方、自治会は町内会みたいなものです。
みなさんご存じの餅つき大会やバーベキューは自治会が主催します。
防犯パトロールや町内美化運動なんかもそうですね。
この二つは同じ輪番制ですが、同じ人間一年兼務する事となっています」
そこで一度切ってから、
「今日決めるのは管理組合の三役、つまり理事長 1名、副理事長 2名。
それと自治会の三役、自治会長 1名、副自治会長 2名です。
これを最初に決めておかないと、管理会社の方が困る事になるのでね。
決めて、登録するところまでが今回の内容となります」
と言った。
お恥ずかしい話だが、ボクは今まで管理組合と自治会をなんとなくごっちゃに考えていた。
エンドウさんお説明は簡潔で、とてもわかりやすく、ようやく両者を切り離す事ができるようになった。
(以下、その後調べた事も含めて図式化しておく)
ともに輪番制、しかも兼務というところがごっちゃになりやすいポイントだ。
面倒なので両者をいっしょくたにして「管理組合」とするマンションもあるらしい。
エンドウさんは続けた。
「管理組合も自治会も、それぞれ役職というか、係のようなものがあります。
名称だけ違って似たような役割をもつものも多いので、兼務する上ではそれをベースに考えるといいでしょう。
たとえば管理組合の「駐輪係」と自治会の「交通」は分野が同じなので、同じ人がやった方が面倒が少ない。
…ですが、理事長と自治会長だけは兼務できません。大変ですからね」
ボクはなんとなく今後の展開が予想できた。
それはその場の誰もが思っていた事だろう。
「…では、最初に管理組合の理事長を決めましょう。みなさん、よろしいですか?」
全員が一斉に目を伏せた。
まるでエンドウさんと目を合わせた人が理事長にされるかのように…。
<続く>
人気ブログランキングに参加中!
1クリックお願いします。