「分度、推譲」は日本チームコーチング協会社長の今給黎 勝(いまきゅうれい・まさる)さんの座右の銘で、江戸時代後期の思想家・二宮尊徳の言葉で、「『分度』とは、収入の枠内で一定の余剰を残しながら支出を図る生活のこと。ひと月に100万円も使っていい身分なのか、ひと月10万円の身分なのか、自分をわきまえようという教えです。計画経済ですね。『推譲』は、分度生活の中から生み出した余剰、余力の一部を分に応じて蓄えること。何かが起こったときのための蓄えをしときなさいというのは、現在で言うところのリスク・マネジメントです。そういう言葉を残した二宮尊徳は、日本のコンサルタントの第1号だと思っています」

同じ鹿児島県人の西郷隆盛が好んで使う「敬天愛人」(天を敬い、人を愛する)も好きな言葉。
今給黎 勝さんは、1942年、鹿児島県生まれ。大阪工業大学工業経営学科卒業後、機械機具メーカーを経て、1977年「日本LCA」に入社。1989年、専務。経営コンサルタントとして経営診断指導や人材育成プログラム開発に参画。LCA大学大学院教授も歴任。1993年、学校法人の経営コンサルティング会社「ヒューマン・リンク」設立。2010年、「日本チームコーチング協会」設立と同時に現職。著書に『躾・教育をシフトするキーワード40』。中小企業診断士。PHP研究所認定ビジネス・コーチ。

                                           (今給黎 勝さん)
イメージ 1「責任感ある組織」へ導く案内役
 
 日本では耳慣れない「チームコーチング」は、英国と米国で実施されている組織開発の新しい手法。このチームコーチングの専門組織として設立された「株式会社 日本チームコーチング協会」の今給黎(いまきゅうれい)勝社長が、「組織をダイナミックに変えることにより、個々のメンバーにハイレベルの成果をもたらすことができます」と、新しい人財育成プロセスを語る。 

 --「チームコーチング」の「チーム」って何ですか
 「2011年の女子サッカーW杯ドイツ大会で優勝した『なでしこジャパン』が、私たちの考える『チーム』の概念に近いですね。彼女たちには『東日本大震災の被害に遭った方たちに素晴らしいニュースを届けたい』『これまで女子サッカーを支えてくれた人に恩返ししたい』というように、『なぜ優勝しなければいけないのか』と目的が明確でした。大会中、メンバーは被災地の映像を見て思いを強くし、試合後も復興をサポートした世界の人々に感謝の気持ちを伝える横断幕を掲げて競技場をまわりました。『なぜこのチームがあるのか』と自覚すれば、モチベーションは上がります」
 --そんな「チーム」になるよう「コーチ」するのが仕事ですか
 「『この商品を売る』という共通目標があるものの、一人一人が自分の担当する役割だけやっていればいいと考える集団、これはワーキンググループという作業集団です。それに対し、連帯責任をとると自覚する人たちで構成されるのが『チーム』なんです。グループから『チーム』に変容するプロセスをサポートするのが私たちの仕事です。このプロセスを通じ、メンバーのリーダーシップも開発されます」
 --最近の具体例を教えてください
 「ある食品会社の依頼で、8人の支店長に集まってもらいました。まず『自分たちは誰か?』と質問し、話し合って出された『この会社を強くする集団』という答えについて、『この答えでワクワクしますか?』と、もう一度話し合ってもらいます。で、出てきた答えが『私たちは創造力とチャレンジ精神でこの会社を強くするエンジン』。それまで仙台支店長は仙台の業績だけ考えればいいと思っていましたが、この言葉を作った途端、仙台支店長ではない目線で共通認識を持つわけです」
 --自分たちで作ったことがポイントですね
 「そこから議論が進展し、『若手がのびのびと営業していない』とか『加工度の低い商品が多い』など、それまで傍観者的に見ていた会社の問題点を『エンジンであるわれわれが作っている』と意識が変わり、『8人全員が成功しなくてはいけない』という意識が芽生えてきます。これが『チームコーチング』の成果です。たった2日の作業でグループは『チーム』に変わります。皆さん、目の輝きも変わります」
 --チームコーチングが生まれた背景は
 「戦後、日本の産業は製造業を中心に発展しました。大学生のころ、大量生産する扇風機の製造ラインで働いたことがありますが、仕事はボルトを2本締めるだけという単純化、標準化、そして専門化された作業で、創造性を発揮する必要はありませんでした。しかし、産業構造は大きく変化し、サービスを中心としたビジネスに移行しました。仕事の質もモチベーションの高さが決め手になってきて、大量生産から小さな組織を活性化して生産性を高める手法に変わりました」
 「集団が成長して変容していく『チームコーチング』には、大きな可能性があります。この会社の構想は、企業、あるいは学校、自治体も強くなって、さらには『チーム・ニッポンの創生』という思いから立ち上げました」

【経営コンサルタント】 34歳のときから始めた経営コンサルタントの仕事は、かつて大量生産だった時代には、経営者の要請することを聞き、それを実現するにはどうすればいいかを考えるだけだった。
 「しかし、サービスを中心としたビジネスの時代になって、仕事の本質は『自分で決めた』という内発的モチベーションがポイントになり、これまでのコンサルタントのやり方では通用しなくなりました。それで、欧米から入ってきた『チームコーチング』の勉強を始めたわけです」
 【芋焼酎】 酒は結構イケるクチ。鹿児島出身なので、やはり芋焼酎になる。
 「家の中ではグータラしていますが、外にいるときはしっかりしているようで、『昨夜、すごく酔っ払っていたんだけど、何もなかった?』と聞くと、『いや、帰るまで、何もなかったですよ』とよく言われます」
 【朝の散歩】 93年に学校法人の経営コンサルティング会社「ヒューマン・リンク」を設立したのを機会にゴルフはまったくやらなくなった。
 「体重を維持するために、朝、30分から1時間、歩いています。72キロと肥満気味だったのが、現在は63キロぐらいになりました」
 【読書家】 1カ月に10冊、1年に120冊以上は本を読もうと考えている。
 「仕事柄、組織改革の本も読みますが、葉室麟(はむろ・りん)らの時代劇小説も大好きです。新幹線などで移動するとき、ほとんど寝ないで読んでいます」

 会社メモ 日本で初めて「チームコーチング」を実施する専門組織として2010年に設立。本社・京都市中京区。「チーム・ニッポンの創生」をビジョンに掲げ、本音を話せるようになる「一枚岩会議」の実現に向け、企業向け個別教育プログラムを提供する。メンバーは、PHP研究所「チームコーチ養成講座」の07年第1期生が中心。メンバー全員がビジネスコーチであると同時にコンサルタント、人材育成、教育などさまざまな分野の専門家集団。それぞれが独立している。資本金500万円。売上高ほか非公開。

MSN産経ニュース20141028日)

 
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