自今生涯(じこんしょうがい)は、リンガーハット社長の秋本 英樹(あきもと・ひでき)さんの座右の銘です。堀場製作所の堀場雅夫最高顧問の人生哲学としても知られる。「過去にとらわれず、いま全力を尽くすことで未来は無限大に広がるという意味です。失敗しても明日を変えられる、とみんなに伝えています」
秋本英樹さんは、1954年長崎県生まれ。近畿大学第二工学部(現産業理工学部)卒業後の1978年浜勝(現リンガーハット)入社。1998年取締役東日本営業部長就任。専務取締役営業本部長兼マーケティング本部長、代表取締役専務営業本部長兼マーケティング本部長、リンガーハット開発代表取締役社長、リンガーハット副社長執行役員管理部担当を経て、2014年代表取締役社長就任。
                                                                                                  (秋本英樹さん)
イメージ 1時代に合わせて味も変化させる育麺

いまや全国区になった長崎ちゃんぽん。赤い三角屋根の店舗もリンガーハットの店名も外食ブランドとして広く認知されている。だが、競争の激しい外食業界では立ち止まることは後退を意味する。ちゃんぽんの味も変え、野菜や、麺・ギョーザに使う小麦粉を100%国内産にするなど、変化や進化し続けることで40年ものれんを守ってきたという。

 --リンガーハットが40年続いた理由は
 「おいしさが第一でしょう。ちゃんぽんの味を変化させたから生き残れたのだと思います。昔の味をいまも出していたとしたら、脂っこくて濃すぎると感じられるでしょうね」
 --味の見直しはどのように
 「味の変化はお客さまの変化です。スープや調味料も変えました。脂も以前はラードを使っていたんですが、健康志向を反映させて、いまは植物性のものを使っています。キャベツやニンジンの切り方も食べやすいように変えているんですよ」
 --海外食品の問題がクローズアップされていますが、国産野菜への切り替えも早かったですね
 「2009年からすべて国産野菜です。私は当時、営業を担当していましたが、輸入品との価格差をどう吸収するかが課題でした。自社工場で加工して原価を下げる努力や、国内の生産地を回って量を確保する苦労もありました。契約農家さんから工場に届いた野菜を毎日店に配送していることをご存じないお客さまもいらっしゃるので、アピールしていきたいですね」
 --外食産業では人手不足や従業員の労働環境も問題になっています
 「パートさんはわが社の命です。利益が出たときはパートさんにも大入り袋を出しました。福利厚生も充実させているつもりです。人手不足の問題は当社にもあるので、店舗内のコミュニケーションが大事だと考えています。外国人の従業員にも、日本の文化などについてトレーニングしています。人に対する投資が必要だと考えています」
 --女性社員の育成にも力を入れているそうですね
 「幹部候補を含めて女性社員を増やす取り組みをしています。いま約500人の正社員のうち女性社員は70人ぐらいですが、これを3割、150人程度にまでもっていきたいですね。女性が働きやすい環境を作るためのセミナーも開きました」
 --女性が増えると店も変わりますか
 「もちろんです。いまも店舗作りに女性の感性が入っていますが、女性社員が増えることで、さらにサービスや商品にも反映されると期待しています」
 --4月から消費税率が8%に引き上げられましたが、影響は?
 「第1四半期(3~5月)は良くなかったですね。ただ、現状は価格が安ければいいという方向とは違ってきています。付加価値を高くして、いかに値段以上のものを提供できるかの競争が主流になってくるでしょう。一部の店舗で、お客さまがお好みで具材をアレンジできる『my(マイ)ちゃんぽん』というサービスを実験的に始めたのもその試みの一つです」
 --フードコートへの進出も積極的ですね
 「ショッピングモールの出店は絶好調で、お誘いもたくさんいただいています。来客数が多く、深夜時間帯の営業もないので利益が上がりやすいというメリットもありますね。年配の方からサラリーマン、家族連れまで多くの方にご来店いただいています」
 --今後の目標は
 「リンガーハットやとんかつの『浜勝』を含めて2017年で1000店を目指しています。海外展開の拡大も考えています。ただ、数を増やすだけでなく、利益を出しながら成長したいですね」

 【家族】 転勤が多かったが、「単身赴任は1度しかありません。私が何もできないからですよ」。いまは2男1女は独立し、妻と4歳オスのチワワ「こたろう」と暮らす。
 【音楽】 学生時代にブラスバンドや交響楽団でフルートやトロンボーンを吹いていた。「大学では友人とフォークソングをやっていました。さだまさしや井上陽水、五つの赤い風船などが好きで、髪も長くしていましたね。友人がギターで、私はオカリナや縦笛を吹き、歌っていました。いろんな大学の大学祭を回り、オリジナル曲も2曲作りましたよ」
 いまも年に1度スナックを貸し切り、フォークデュオを復活させているという。
 【鍋振り】 入社のきっかけは「長崎出身なので、地場企業に入りたいというのが最初でした。公務員になりたくなかったという思いもありましたね。元々は外食に興味はなかったんですが、今後外食が伸びるという考えはありました」。
 入社後すぐに福岡に転勤した。「当時の店長は鬼軍曹みたいな人で、寒い時期に外で何時間も鍋を振る練習をしました。最初は『何でこんなことしてるんだろう』と思ったこともありました。ただ、店長までやって新規オープンにも携わるなど、店の経験はいまでも生きています。米国のチェーンストア理論の勉強もしましたが、現場を知っておかないと応用できませんから」
 【ゴルフ】 ゴルフ歴は約20年で、スコアは100ぐらい。「台湾で初めてコースに出たとき、80で回りました。OBでもなぜかボールが真ん中においてあるんですよ」と徹底した接待ぶりを振り返る。「その後、正式に回ると140ぐらいでした」
 【酒】 「労働組合活動が長かったこともあって強そうに思われるんです。酒は好きで何でも飲むんですが、次の日はだめですね」
 【健康法】 妻と日曜日に散歩をする。「東京では、ダイエットも兼ねて人形町から日本橋あたりを歩いています」
 【仕事で最高の瞬間】 「労働組合の団体交渉で労働条件の向上を勝ち取ってみんなに感謝されたとき。そして最初に関東に店舗を出したときにパートのみなさんと喜んだことですね」
 【もしいまの仕事に就いていなかったら】
 「旅行会社の添乗員ですね。いまは仕事をしているので夏の北海道など国内旅行ばかりですが、女房と宿も決めずに電車の旅に出ることもあります。会社を辞めたら海外にも行くつもりです」

 【会社メモ】長崎ちゃんぽんの「リンガーハット」やとんかつの「浜勝」などを展開する。グループ本社・東京(登記上の本店は長崎市)。1962年長崎市に「とんかつ浜勝」創業、70年浜勝商事設立。74年「長崎ちゃんめん(現・長崎ちゃんぽん)」を主力商品にしたリンガーハット1号店を長崎市に開店。82年現商号に変更。2000年東証1部上場。14年8月末時点のリンガーハットの店舗数は国内外に560店。14年2月期連結売上高は367億円、営業利益17億円、最終利益7億円。

MSN産経ニュース20141021日)
 
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