カフカの『変身』の第二文・第三文の「ドイツ語原文」「邦訳」「英訳」のリストです‼️ | 「絶望名人カフカ」頭木ブログ

「絶望名人カフカ」頭木ブログ

『絶望名人カフカの人生論』『絶望読書』『絶望図書館』、NHK『絶望名言』などの頭木弘樹(かしらぎ・ひろき)です。
文学紹介者です(文学を論じるのではなく、ただご紹介していきたいと思っています)。
本、映画、音楽、落語、昔話などについて書いていきます。

 

月刊『みすず』(みすず書房)で、

「咬んだり刺したりするカフカの『変身』」

という連載をさせていただいています。

隔月連載で、第1回が昨年の8月号、第2回が10月号、第3回目が12月号で、

4回目が掲載された4月号が刊行されました。

 

 

 

 

 

 

その4月号の連載の中で、こう書きました。

 

私のブログのほうに「ドイツ語原文」「英訳」「邦訳(既訳)」をすべて掲載したいと思うので、興味のある方はそちらをご覧いただきたい。

 

というわけで、

カフカの『変身』の第二文・第三文の

「ドイツ語原文」

「邦訳」

「英訳」

を全種類ずらりと、ここに並べてみたいと思います!

 

私の新訳は、連載のほうをご覧いただけましたら幸いです。

 

なお、リストの作成は、

校正者で、個人的にも親しくさせていただいている、

岡上容士(おかのうえ・ひろし)さんが行ってくださいました。

この場を借りて、御礼申し上げます。

ここまで詳細なリストは、これまでなかったと思いますので、

ご興味のある方には、いくらかお役に立てるのではないかと思います。

連載と合わせてお楽しみいただけましたら幸いです!

 

 

———————————————————————

 

 

●カフカの『変身』の第二文・第三文の

「ドイツ語原文」

 

Er lag auf seinem panzerartig harten Rücken und sah, wenn er den Kopf ein wenig hob, seinen gewölbten, braunen, von bogenförmigen Versteifungen geteilten Bauch, auf dessen Höhe sich die Bettdecke, zum gänzlichen Niedergleiten bereit, kaum noch erhalten konnte. Seine vielen, im Vergleich zu seinem sonstigen Umfang kläglich dünnen Beine flimmerten ihm hilflos vor den Augen.

 

———————————————————————

 

 

●カフカの『変身』の第二文・第三文の

「邦訳」リスト

 

※訳書の発行年順。発行年のみを記し、同じ年に複数の訳書が出ている場合にかぎり、月も記してあります。個々の訳書名や詳しい発行年月日は、邦訳リストをご参照下さい。

カフカの『変身』の邦訳リスト

※同じ訳者で本が複数回出ている場合には、最初に出た年の分のみをあげてあります。

※ただし、高橋訳と中井訳と城山訳は、あとで出た本で訳文が変更されていますので、最初に出た年の分のほかに、変更された本が出た年の分もあげてあります。

また、これらの訳に関しては、あとのほうでもう一度それぞれの訳文を発行年順に並べて、変化がわかるようにしてあります。この全体の一覧であげた以外の訳書がどの訳文になっているかということも、そこで示してあります。

※旧仮名づかいと旧字体は、新仮名づかいと新字体に直してあります。

※ルビは、こちらの判断で、読みにくいと思われる語に入れました。

 

 

○彼は鎧(よろい)のように固い背を下にして、仰向(あおむ)けに横たわっていた。頭を少し持ち上げると、アーチのようにふくらんだ褐色(かっしょく)の腹が見える。腹の上には横に幾本(いくほん)かの筋がついていて、筋の部分はくぼんでいる。腹の一番ふくらんでいるところには、蒲団(ふとん)が今にもすっかりずり落ちそうに掛かっていた。沢山(たくさん)の肢(あし)が彼の眼の前に頼りなげにぴくぴく動いていた。胴体の大きさにくらべて、肢はひどくか細かった。(高橋義孝[1952.6])

 

○彼は鎧のように固い背を下にして、仰向けに横たわっていた。頭を少し持ち上げると、アーチのようにふくらんだ褐色の腹が見える。腹の上には横に幾本かの筋がついていて、筋の部分はくぼんでいる。腹のふくらんでいるところに掛かっている蒲団は今にもすっかりずり落ちそうになっていた。沢山の肢が彼の眼の前に頼りなげにぴくぴく動いていた。胴体の大きさにくらべて、肢はひどくか細かった。(高橋義孝[1952.7.28])

 

○固い甲殻(こうかく)の背中を下に仰向けになっていて、ちょっとばかり頭をもたげると、まるく脹(ふく)らんだ、褐色の、弓形の固い節で分け目をいれられた腹部が見えた。その腹の盛りあがったところに掛蒲団(かけぶとん)がかろうじて引っかかっているのだが、いまにも滑り落ちてしまいそうだ。昨日までの足の太さにくらべると、いまは悲しくなるほど痩せこけて、本数ばかり多くなった足が頼りなく目の前でひらひらしている。(中井正文[1952.7.30])

 

○彼は甲羅(こうら)のようにかたい背中を下にしてねており、ちょっと頭をあげると、褐色の腹のせりあがっているのがみえた。弓なりになったつっかえ棒のような幾つもの環節(かんせつ)で仕切られていて、その腹のてっぺんには、今にも布団(ふとん)がごっそりずり落ちんばかりになりながら、辛(かろ)うじてまだふみとどまっていた。たくさん生えている足は、ありし日の大きさにくらべたらなさけないほどかぼそくて、それが彼の目のまえに頼りなげにちらついていた。(山下肇[1958])

 

○彼は甲殻のように固い背中を下にして横たわり、頭を少し上げると、何本もの弓形のすじにわかれてこんもりと盛り上がっている自分の茶色の腹が見えた。腹の盛り上がりの上には、かけぶとんがすっかりずり落ちそうになって、まだやっともちこたえていた。ふだんの大きさに比べると情けないくらいかぼそいたくさんの足が自分の眼の前にしょんぼりと光っていた。(原田義人[1960])

 

○彼は鎧のように固い背を下にして、仰向けに横たわっていた。頭を少し持ち上げると、アーチのようにふくらんだ褐色の腹が見える。腹の上には横に幾本かの筋がついていて、筋の部分はくぼんでいる。腹のふくらんでいるところに掛かっている布団は今にもすっかりずり落ちそうになっていた。たくさんの足が彼の目の前に頼りなげにぴくぴく動いていた。胴体の大きさにくらべて、足はひどくか細かった。(高橋義孝[1964])

 

○よろいのようにかたい背中を下にして、仰向けになって寝ていたが、頭をすこしもたげてみると、弓なりのかたいすじで、いくつもに仕切られ、こんもりともりあがった褐色の腹が見えた。そのもりあがった腹の上には、掛けぶとんが今にもすっかりずり落ちそうになって、やっとのことでまだふみとどまっている。大きな胴体にくらべると、情けないほどかぼそいたくさんの足が、目の前で頼りなげにちらついていた。(辻瑆[1966.4])

 

○甲殻のような固い背を下にして横たわっていたのだ。そして少しばかり頭をもたげてみると、幾本かの弓形の梁(はり)で支えられたように褐色の腹がこんもり盛り上がっているのが見えた。お腹(なか)の天辺(てっぺん)にかかっている蒲団は、すっかりずり落ちそうになりながら、かろうじてふみこたえていた。ふだんの大きさに比べると悲しいほど細い肢がたくさん生えていて、それがかれの目の前で頼りなげにふるえていた。(高本研一[1966.8])

 

○彼は鎧のように固い背を下にして、仰向けに横たわっていた。頭を少し持上げると、アーチのようにふくらんだ褐色の腹が見える。腹の上には横に幾本かの筋がついていて、筋の部分はくぼんでいる。腹のふくらんでいるところに掛っている布団は今にもすっかりずり落ちそうになっていた。たくさんの足が彼の目の前に頼りなげにぴくぴく動いていた。胴体の大きさに比べて、足はひどくか細かった。(高橋義孝[1966.9])

 

○よろいのように固い背なかを下にして寝ているらしく、すこし頭を上げて見ると、ふくらんだ褐色の腹が目にはいったが、それはいくつかのこわばった弓形の輪で区切られていた。盛り上がった腹の上から掛けぶとんが今にもずり落ちそうになって、あやうくひっかかっていた。からだのほかの部分にくらべてなさけないほどかぼそい脚(あし)がたくさん生えていたが、それが彼の目の先でたよりなげにふるえていた。(高安国世[1967])

 

○固い甲殻の背中を下にして、仰向けになっていて、ちょっとばかり頭をもたげると、まるくふくらんだ、褐色の、弓形の固い節で分け目をいれられた腹部が見えた。その腹の盛りあがったところに掛け蒲団がかろうじて引っかかっているのだが、いまにも滑り落ちてしまいそうだ。昨日までの足の太さにくらべると、いまは悲しくなるほど痩せこけて、本数ばかり多くなった足が頼りなく目の前でひらひらしている。(中井正文[1968])

 

○彼は甲冑(かっちゅう)のような堅い背中を下にして横たわっていた。頭をすこし持ちあげると、弧(こ)をなした肋骨(ろっこつ)のようなもので筋がつけられている、もりあがった茶色の自分の腹が見えた。そのもりあがった上に、掛けぶとんがいまにもすっかり落ちそうになっていた。ふとったほかの部分にくらべると、ひどく細いたくさんの足が彼の目の前でどうにもならずにもがいていた。(神品友子[1969.1])

 

○彼は鎧のように堅い背を下にして、あおむけに横たわっていた。頭をすこし持ちあげると、アーチのようにふくらんだ褐色の腹が見える。腹の上には横に幾本かの筋がついていて、筋の部分はくぼんでいる。腹のふくらんでいるところにかかっている蒲団はいまにもずり落ちそうになっていた。たくさんの足が彼の目の前に頼りなげにぴくぴく動いていた。胴体の大きさにくらべて、足はひどくか細かった。(高橋義孝[1969.5])

 

○彼はこうらのように固い背中を下にあおむけにひっくりかえり、頭をすこし持ちあげてみるたびに、幾本もの弓形の硬直した筋が入ったふくらんだ褐色の腹が見えた。腹のてっぺんには、かけぶとんが、ほとんどずり落ちそうになって、辛うじてひっかかっていた。体のほかの部分にくらべるとあわれなほどかぼそい無数の足が、目の先で頼りなげにちらちら動いていた。(菊池武弘[1969.7])

 

○彼は鎧のように堅い背を下にして、あおむけに横たわっていた。頭をすこし持ちあげると、アーチのようにふくらんだ褐色の腹が見える。腹の上には横に幾本かの筋がついていて、筋の部分はくぼんでいる。腹のふくらんでいるところにかかっている布団はいまにもずり落ちそうになっていた。たくさんの足が彼の目の前に頼りなげにぴくぴく動いていた。胴体の大きさにくらべて、足はひどくか細かった。(高橋義孝[1970])

 

○かたい甲羅のせなかを下にした寝姿だった。ちょっと頭をもたげてみると、せりあがったアーチ型の腹部が見えた。鳶色(とびいろ)の、固い環節でいく重(え)にも仕切られている。そのお腹のてっぺんには、掛けた布団がいまにもずり落ちそうなかっこうで、やっとこさふみとどまっているしまつ。いつもの大きさにくらべると、哀(あわ)れなくらい細く小さないく本ものあしが、目のまえで頼りなげにちらちらしている。(川崎芳隆[1973])

 

○甲鉄のように堅い背を下に、仰向いて寝ていたが、頭をすこし挙げると、弓なりの堅い節で幾筋にもくぎられ、まるく膨(ふく)らんだ、褐色の腹が見えた。その膨らみの上には、掛蒲団がいまにも滑り落ちそうに、危うく懸(か)かっていた。軀(からだ)のほかの部分にくらべると、憐(あわ)れなほど細い多くの脚が、眼の前で顫(ふる)えた。(城山良彦[1974])

 

○よろいのように固い背を下にして横たわり、ちょっと頭をもちあげてみると、こんもりと盛りあがってアーチのように筋目のはいった褐色の腹がみえ、そのてっぺんのところに、ふとんがいまにもずりおちそうな感じで辛うじてひっかかっている。胴体の他の部分にくらべてひどくか細い沢山の足が、目のまえで頼りなげに、ヒクヒクとうごめいていた。(片岡啓治[1976])

 

○かたくて鎧のような背を下に横たわっていて、頭を少し持ちあげてみると、アーチ状にふくらんだ褐色の腹がみえ、それが丸みをおびた甲殻によって幾重にもくぎられているのだ。その腹にのっかっている蒲団などはいまにもずり落ちそうである。そして、胴体にくらべてひどくか細い、たくさんの脚が、彼の目の前で頼りなげにひくひくとふるえている。(立川洋三[1977])

 

○鎧のように固い背中を下にして、ごろんと転がっている。頭をすこし持ち上げるとこんもりとふくらんだ茶色の腹が見え、これが蛇腹(じゃばら)みたいにいくつもの横筋で区切られた腹だ。身体の大きさに較(くら)べてひどくか細いたくさんの脚が、目の前で頼りなげにひくひくとうごめいた。(種村季弘[1979])

 

○あおむけに寝ている背中は鎧のように固く、首を少しもたげて見ると、腹は、茶色にまるくふくれ上り、弓なりにたわめた何本もの支柱で区切られた様子、そしてふくれた腹の上では、毛布はきちんとかかっているわけには行かなくて、今まさにずり落ちる寸前、といったていたらく。図体(ずうたい)にくらべて情(なさけ)ないほど細いたくさんの脚が、眼の前にちらついているのは、いかにもよるべない風情(ふぜい)だった。(川村二郎[1980])

 

○固い甲殻の背中を下にして、仰向けになっていて、ちょっとばかり頭をもたげると、まるくふくらんだ、褐色の、弓形の固い節で分け目をいれられた腹部が見えた。その腹の盛りあがったところに掛け布団がかろうじて引っかかっているのだが、いまにも滑り落ちてしまいそうだ。ほかのところの太さにくらべると、悲しくなるほどやせ細って、いまは本数ばかり多くなった足が頼りなく目の前でひらひらしていた。(中井正文[1988])

 

○甲鉄のように堅い背を下に、仰向いて寝ていたが、頭をすこしあげると、弓なりの堅い節で幾筋にもくぎられ、まるく膨らんだ、褐色の腹が見えた。その膨らみの上には、掛蒲団がいまにも滑り落ちそうに、危うく懸かっていた。軀のほかの部分にくらべると、憐れなほど細い多くの脚が、眼のまえで顫えた。(城山良彦[1989])

 

○甲冑のようにかたい背中をしてあおむけに横たわり、頭を少しもたげるたびに、褐色のお腹がアーチ状の節で区切られながらドームのようにもりあがっているのが目に入った。そのお腹のてっぺんには、掛ブトンがいまにも完全にすべり落ちそうになりながらも、かろうじてひっかかっていた。ほかの部分の大きさと比べると哀れなほどにか細い無数の脚が、ザムザの目のまえでたよりなげにチラチラ動いていた。(三原弟平[1995])

 

○甲羅のように固い背中を下にして横になっていた。頭を少しもち上げてみると、こげ茶色をした丸い腹が見えた。アーチ式の段になっていて、その出っぱったところに、ずり落ちかけた毛布がひっかかっていた。からだにくらべると、なんともかぼそい無数の脚が、目の前でワヤワヤと動いていた。(池内紀[2001])

 

○甲羅のように硬い背中を下に、仰向けで彼は寝ており、ちょっと頭を持ちあげると、円くもりあがった褐色の、弓なりにいくつもの環節に分かれた自分の腹部が見えたが、てっぺんには掛けぶとんが、今にもずり落ちそうになりながら、かろうじてなんとか踏みとどまっている。目の前には、からだに比べて情けないほどにか細い脚が、おびただしく頼りなげにちらちらしていた。(山下肇・萬里[2004])

 

○甲羅みたいに固い背中をして、あおむけに寝ている。頭をちょっともちあげてみると、アーチ状の段々になった、ドームのような茶色の腹が見える。その腹のてっぺんには毛布が、ずり落ちそうになりながら、なんとかひっかかっている。図体のわりにはみじめなほど細い、たくさんの脚が、目の前でむなしくわなわなと揺れている。(丘沢静也[2007.9])

 

○甲羅のように固い背中を下にして仰向けに寝ており、頭を少しもち上げると、弓形に硬(こわ)ばった節のつらなる、丸く膨らんだ褐色の腹が見えた。その膨らみの上に、毛布が、完全にずり落ちそうになりながら、どうにかまだ引っ掛かっていた。図体の大きさに比べてひどく細いたくさんの脚が、目の前で、途方にくれたようにちらちら震(ふる)え動いていた。(浅井健二郎[2008])

 

○彼は、鎧のように固い背中を下にして仰向けに横たわっていた。頭を少し持ち上げてみると自分の湾曲した、茶色い、弓形の節によって分割されている腹部を見ることができた。その腹の盛り上がったところに、毛布が、今にも完全に落ちそうになりながら、かろうじて引っかかっていた。たくさんの、その他の身体の部分の大きさと比べると哀れなくらいか細い脚が、彼の目の前で途方に暮れたようにゆらゆらと揺れていた。(野村廣之[2011. 3])

 

○ぷっくりふくらんだ褐色の腹。硬い背中。仰向けの状態で起き上がることができない。身体を揺すってみたが、どうにもならなかった。(酒寄進一[2012.1])

 

○甲殻のように固い背中を下にして寝転がっているのだった。頭を少しもち上げると、丸っこい茶色の腹が、弓なりの段々に分かれているのが見えた。盛り上がった腹からは毛布がずり落ちかけていて、今にも完全に滑り落ちてしまいそうだった。目の前では、身体のサイズと比べてみすぼらしく細い脚がたくさん、途方に暮れたようにモゾモゾしていた。(川島隆[2012.5])

 

○彼は甲羅のように堅い背中を下にして横たわっており、頭を少し持ち上げると、弓形の節に分かれた、ふくらんだ茶色い腹が見えた。腹の上には布団がかかっていて、今にもずり落ちそうになりながら、かろうじて持ちこたえていた。いつもの大きさに比べると情けないほど細い数多くの脚が、目の前にチラチラと光っていた。(真鍋宏史[2013.3])

 

○背中はこうらのように固くなっています。おなかは黒っぽい茶色でアーチのように何段にもわかれていて、細くて短い足がたくさんはえていました。(須田諭一[2015.4])

 

○鎧のように硬い背中を下にしてあおむけに横たわっていて、頭を持ち上げてみると、腹部は弓なりにこわばってできた幾筋もの茶色い帯に分かれていて、その上に乗った掛け布団を滑り落ちる寸前で引き留めておくのは無理そうだった。脚は全部で何本あるのか、身体全体の寸法と比べると泣きたくなるくらい細くて、それが目の前で頼りなさそうにきらきら震えている。(多和田葉子[2015.10])

 

○彼は甲冑のように硬い背板(せいた)を下にして横たわっており、頭を少し持ち上げると、幾つもの弧状の硬い節からなるふくらんだ茶色の腹部が見え、掛け布団はそこから下にほとんど落ちかかっていて、やっと持ちこたえていた。体の他の部分と比べて貧弱で細い何本もの脚が、眼の前で弱々しくうごめいていた。(田中一郎[2018])

 

 

高橋義孝

 

○彼は鎧のように固い背を下にして、仰向けに横たわっていた。頭を少し持ち上げると、アーチのようにふくらんだ褐色の腹が見える。腹の上には横に幾本かの筋がついていて、筋の部分はくぼんでいる。腹の一番ふくらんでいるところには、蒲団が今にもすっかりずり落ちそうに掛かっていた。沢山の肢が彼の眼の前に頼りなげにぴくぴく動いていた。胴体の大きさにくらべて、肢はひどくか細かった。(文芸誌「新潮」[1952.6])

 

○彼は鎧のように固い背を下にして、仰向けに横たわっていた。頭を少し持ち上げると、アーチのようにふくらんだ褐色の腹が見える。腹の上には横に幾本かの筋がついていて、筋の部分はくぼんでいる。腹のふくらんでいるところに掛かっている蒲団は今にもすっかりずり落ちそうになっていた。沢山の肢が彼の眼の前に頼りなげにぴくぴく動いていた。胴体の大きさにくらべて、肢はひどくか細かった。(新潮文庫[1952.7.28]、旧版カフカ全集3[1953.7]、現代世界文学全集7[1954])

 

○彼は鎧のように固い背を下にして、仰向けに横たわっていた。頭を少し持ち上げると、アーチのようにふくらんだ褐色の腹が見える。腹の上には横に幾本かの筋がついていて、筋の部分はくぼんでいる。腹のふくらんでいるところに掛かっている布団は今にもすっかりずり落ちそうになっていた。たくさんの足が彼の目の前に頼りなげにぴくぴく動いていた。胴体の大きさにくらべて、足はひどくか細かった。(世界文学全集48[新潮社、1964]、世界文学全集39[新潮社、1969.10]、世界文学全集44[新潮社、1971])

 

○彼は鎧のように固い背を下にして、仰向けに横たわっていた。頭を少し持上げると、アーチのようにふくらんだ褐色の腹が見える。腹の上には横に幾本かの筋がついていて、筋の部分はくぼんでいる。腹のふくらんでいるところに掛っている布団は今にもすっかりずり落ちそうになっていた。たくさんの足が彼の目の前に頼りなげにぴくぴく動いていた。胴体の大きさに比べて、足はひどくか細かった。(新潮文庫改版[1966.9])

 

○彼は鎧のように堅い背を下にして、あおむけに横たわっていた。頭をすこし持ちあげると、アーチのようにふくらんだ褐色の腹が見える。腹の上には横に幾本かの筋がついていて、筋の部分はくぼんでいる。腹のふくらんでいるところにかかっている蒲団はいまにもずり落ちそうになっていた。たくさんの足が彼の目の前に頼りなげにぴくぴく動いていた。胴体の大きさにくらべて、足はひどくか細かった。(世界文学全集56[集英社、1969.5])

 

○彼は鎧のように堅い背を下にして、あおむけに横たわっていた。頭をすこし持ちあげると、アーチのようにふくらんだ褐色の腹が見える。腹の上には横に幾本かの筋がついていて、筋の部分はくぼんでいる。腹のふくらんでいるところにかかっている布団はいまにもずり落ちそうになっていた。たくさんの足が彼の目の前に頼りなげにぴくぴく動いていた。胴体の大きさにくらべて、足はひどくか細かった。(新潮世界文学38[1970]、新潮文庫改版[1985, 2011.4])注:新潮文庫の訳文は、1985年の改版までは、1969年の改版での訳文のままとなっています。

 

中井正文

 

○固い甲殻の背中を下に仰向けになっていて、ちょっとばかり頭をもたげると、まるく脹らんだ、褐色の、弓形の固い節で分け目をいれられた腹部が見えた。その腹の盛りあがったところに掛蒲団がかろうじて引っかかっているのだが、いまにも滑り落ちてしまいそうだ。昨日までの足の太さにくらべると、いまは悲しくなるほど痩せこけて、本数ばかり多くなった足が頼りなく目の前でひらひらしている。(角川文庫[1952.7.30]、三笠版 現代世界文学全集26[1953. 12])

 

○固い甲殻の背中を下にして、仰向けになっていて、ちょっとばかり頭をもたげると、まるくふくらんだ、褐色の、弓形の固い節で分け目をいれられた腹部が見えた。その腹の盛りあがったところに掛け蒲団がかろうじて引っかかっているのだが、いまにも滑り落ちてしまいそうだ。昨日までの足の太さにくらべると、いまは悲しくなるほど痩せこけて、本数ばかり多くなった足が頼りなく目の前でひらひらしている。(角川文庫改版[1968, 2007.6])

 

○固い甲殻の背中を下にして、仰向けになっていて、ちょっとばかり頭をもたげると、まるくふくらんだ、褐色の、弓形の固い節で分け目をいれられた腹部が見えた。その腹の盛りあがったところに掛け布団がかろうじて引っかかっているのだが、いまにも滑り落ちてしまいそうだ。ほかのところの太さにくらべると、悲しくなるほどやせ細って、いまは本数ばかり多くなった足が頼りなく目の前でひらひらしていた。(同学社対訳書[1988]) 注:角川文庫の訳文は、現在に至るまで1968年の改版と同じです。

 

城山良彦

 

○甲鉄のように堅い背を下に、仰向いて寝ていたが、頭をすこし挙げると、弓なりの堅い節で幾筋にもくぎられ、まるく膨らんだ、褐色の腹が見えた。その膨らみの上には、掛蒲団がいまにも滑り落ちそうに、危うく懸かっていた。軀のほかの部分にくらべると、憐れなほど細い多くの脚が、眼の前で顫えた。(愛蔵版 世界文学全集30[集英社、1974]、世界文学全集74[集英社、1979.1])

 

○甲鉄のように堅い背を下に、仰向いて寝ていたが、頭をすこしあげると、弓なりの堅い節で幾筋にもくぎられ、まるく膨らんだ、褐色の腹が見えた。その膨らみの上には、掛蒲団がいまにも滑り落ちそうに、危うく懸かっていた。軀のほかの部分にくらべると、憐れなほど細い多くの脚が、眼のまえで顫えた。(集英社ギャラリー・世界の文学12[1989])

 

〔参考〕英語からの重訳

 

○固い、いわば鎧をつけたような背中を下に横たわっていた。頭を少しもたげると、丸屋根のようにふくらんだ褐色の腹が見え、波形にしわよった部分に分かれている。腹の天辺に掛かっている布団は落着きなく、いまにもずり落ちそうだ。太い図体とくらべて哀れにもか細い脚がおびただしく生え、彼の目の前で頼りなげにゆらゆらとうごめいている。(ナボコフ、野島秀勝、英語からの重訳[1982])

 

○鎧のように硬い背中を下にして横たわり、頭を少し持ち上げれば腹が見えた。丸く膨らんだ茶色い腹は、アーチ状の仕切りによっていくつもの部分に分割されている。掛け布団では覆いきれず、いまにも蒲団がずり落ちてしまいそうだった。何本もある、体全体と較べると情けないほど細い足が、彼の目の前でじたばたとあがいた。(アッペルバウム、柴田元幸、英語からの重訳[2013.8])

 

 

 

———————————————————————

 

 

●カフカの『変身』の第二文・第三文の

「英訳」リスト

 

※初出の年代順にしています。ただし、外国のことでもあり、確定できなかったものもありましたので、正確かどうか断言できないものには「?」を入れてあります。

※洋書では、出版年のみで月日までは書かれていないものが多いですから、出版年のみを記してあります。同じ年に複数の訳書が出ている場合にかぎり、月も記してあります。これは主にアマゾンのデータに基づいていますが、アマゾンのこうしたデータは必ずしも正確でない場合もあります。

※冒頭の文の英訳リストでは入れていたKing訳は、販売が中止されていて見れなくなっており、冒頭の文以外は把握していませんので、今回は入れていません。

※次のような語は、同じ訳者の本であっても、本によってハイフンが入っていたり入っていなかったりすることがあります。armorlike, armor-like; domelike, dome-likeなど。

 

 

○He lay on his back, which was as hard as armor plate, and, raising his head a little, he could see the arch of his great, brown belly, divided by bowed corrugations. The bedcover was slipping helplessly off the summit of the curve, and Gregor's legs, pitiably thin compared with their former size, fluttered helplessly before his eyes. (A. L. Lloyd [1937]) 

 

○Lying on his plate-like, solid back and raising his head a bit, he saw his arched, brown belly divided by bowed corrugations, on the top of which the blanket was about to slip down, since it could not hold by itself. His many legs—lamentably thin as compared with his usual size—were dangling helplessly before his eyes. (Eugene Jolas [1938])

 

○He was lying on his hard, as it were armor-plated, back and when he lifted his head a little he could see his dome-like brown belly divided into stiff arched segments on top of which the bed quilt could hardly keep in position(本によってはstay in place) and was about to slide off completely. His numerous legs, which were pitifully thin compared to the rest of his bulk, waved helplessly before his eyes. (Willa & Edwin Muir[1948?])

 

○He was lying on his back as hard as armor plate, and when he lifted his head a little, he saw his vaulted brown belly, sectioned by arch-shaped ribs, to whose dome the cover, about to slide off completely, could barely cling. His many legs, pitifully thin compared with the size of the rest of him, were waving helplessly before his eyes. (Stanley Corngold [1972]) 

注:インターネット上では、vaulted brown → brown vaulted、compared with → compared to というものも出てきますが、いずれも他の本やサイトでの引用としてですので、写し間違いの可能性もあります。

 

○He was lying on his hard, as it were armor-plated, back and when he lifted his head a little he could see his dome-like brown belly divided into corrugated segments on top of which the bed quilt could hardly keep in position and was about to slide off completely. His numerous legs, which were pitifully thin compared to the rest of his bulk, flimmered helplessly before his eyes. (Vladimir Nabokov [1980]) 

 

○He was lying on his back, which was of a shell-like hardness, and when he lifted his head a little he could see his dome-shaped brown belly, banded with what looked like reinforcing arches, on top of which his quilt, while threatening to slip off completely at any moment, still maintained a precarious hold. His many legs, pitifully thin in relation to the rest of him, threshed ineffectually before his eyes. (J. A. Underwood [1981]) 

 

○He was lying on his hard shell-like back and by lifting his head a little he could see his curved brown belly, divided by stiff arching ribs, on top of which the bed-quilt was precariously poised and seemed about to slide off completely. His numerous legs, which were pathetically thin compared to the rest  of his bulk, danced helplessly before his eyes. (Malcolm Pasley [1992]) 

 

○He lay on his hard, armorlike back, and when lifting his head slightly, he could view his brown, vaulted belly partitioned by arching ridges, while on top of it, the blanket, about to slide off altogether, could barely hold. His many legs, wretchedly thin compared with his overall girth, danced helplessly before his eyes. (Joachim Neugroschel [1993])

 

○He lay on his back, which was as hard as an armour plate, and saw, as he raised his head a little, his vaulted brown belly divided by stiff, arch-shaped ribs, and the bed covers which could hardly cling to its height and were about to slide off completely. His many legs, pitifully thin compared with the rest of his bulk, waved about helplessly before his eyes. (Karren Reppin [1995])

 

○He lay on his hard armorlike back and when he raised his head a little he saw his vaulted brown belly divided into sections by stiff arches from whose height the coverlet had already slipped and was about to slide off completely. His many legs, which were pathetically thin compared to the rest of his bulk, flickered helplessly before his eyes. (Donna Freed [1996.1])

 

○He lay on his back, which was hard as armor, and, when he lifted his head a little, he saw his belly—rounded, brown, partitioned by archlike ridges—on top of which the blanket, ready to slip off altogether, was just barely perched. His numerous legs, pitifully thin in comparison to the rest of his girth, flickered helplessly before his eyes. (Stanley Appelbaum [1996.4?])

 

○He lay on his armour-hard back and saw, as he lifted his head up a little, his brown, arched abdomen divided up into rigid bow-like sections. From this height the blanket, just about ready to slide off completely, could hardly stay in place. His numerous legs, pitifully thin in comparison to the rest of his circumference, flickered helplessly before his eyes. (Ian Johnston [1999?])

 

○He lay on his armour-like back, and if he lifted his head a little he could see his brown belly, slightly domed and divided by arches into stiff sections. The bedding was hardly able to cover it and seemed ready to slide off any moment. His many legs, pitifully thin compared with the size of the rest of him, waved about helplessly as he looked. (David Wyllie [2002.5?])

 

○He was lying on his hard shell-like back, and when he lifted his head a little he could see his dome-shaped brown body, banded with reinforcing arches, on top of which the blanket, ready to slip right off, maintained its precarious hold. His numerous legs, pitifully thin in relation to the rest of his bulk, danced ineffectually before his eyes. (Richard Stokes [2002.9]

 

○He lay on his hard, armored back and saw, as he raised his head a little, his domed, brown belly, divided into arched segments; he could hardly keep the bed sheets from sliding from his stomach's height completely to the floor. His numerous legs, lamentably thin in comparison to his new girth, flickered helplessly before his eyes. (M. A. Roberts [2005])

 

○He lay on his tough, armoured back, and, raising his head a little, managed to see— sectioned off by little crescent-shaped ridges into segments—the expanse of his arched, brown belly, atop which the coverlet perched, forever on the point of slipping off entirely. His numerous legs, pathetically frail by contrast to the rest of him, waved feebly before his eyes. (Michael Hofmann [2006])

 

○He lay on his back, which had become as hard as armour. Raising his head a little, he saw the arch of a brown abdomen, divided into stiff, domed segments. The quilt was perched precariously on top, and looked as if it might slide off at any moment. A regiment of puny legs, horribly thin compared to the rest of him, quivered wretchedly before his eyes. (Will Aaltonen [2009.6])

 

○He lay on his hard, armour-like back, and if he lifted his head a little, he could see his curved brown abdomen, divided by arch-shaped ridges, and domed so high that the bedspread, on the brink of slipping off, could hardly stay put. His many legs, miserably thin in comparison with his size otherwise, flickered helplessly before his eyes. (Joyce Crick [2009.7])

 

○He lay upon his armor-plated, hard back and saw, when he lifted his head a little, his dome-like, brown belly, divided into stiff, arched segments, the top of which barely held the bedspread, then about to slide off completely. His many legs, pitifully thin in comparison to the remainder of his body, flutterd helplessly before his eyes. (Charles Daudert [2010])

 

○He lay on his hard shell-like back, and when he raised his head slightly he saw his rounded brown underbelly, divided into a series of curved ridges, on which the bedding could scarcely stay in place and was about to slip off completely. His numerous legs, which were pitifully thin relative to the rest of his body, wriggled helplessly in front of his eyes. (John R. Williams [2011])

 

○He lay on his armor-hard back and saw, when he slightly lifted his head, a rounded, brown stomach, divided by arched braces. The blanket had been pushed to such a height that it seemed ready to slide off completely. His many legs, pitifully thin compared to the size of his torso, flickered helplessly before his eyes. (C. Wade Naney [2012])

 

○He was lying on his back—which was hard, like a carapace—and when he raised his head a little he saw his curved brown belly segmented by rigid arches atop which the blanket, already slipping, was just barely managing to cling. His many legs, pitifully thin compared to the rest of him, waved helplessly before his eyes. (Susan Bernofsky [2014.1])

 

○As he lay there on his back, which resembled an armoured breastplate, by raising his head slightly he could just see his brown, protruding belly made up of a series of rigid, arched segments, from the top of which the bedcovers were about to slip at any moment. His many tiny legs—which, compared with his otherwise considerable girth, were pitifully thin—flapped around helplessly as he looked on. (Christopher Moncrieff [2014.11])

 

○He lay on his hard, armor-like back and saw, when he lifted his head a little, his curved, brown abdomen, segmented by stiff arches, the height of which was barely covered by his  blanket, which was ready to slip down entirely at any moment. His numerous and, in comparison to his girth, pathetically thin legs flickered helplessly before his eyes. (Katja Pelzer [2016.?])

 

○As he lay on his back in bed, his tiny little legs waved helplessly in the air. His blanket had fallen mostly off of his round, wide body and hung to the floor. (Nina Wegner [2016.3]) 

 

○Lying on a hard shell that was now his back, he saw, with a mere move of his head, his brown, bulgy, scaly stomach, on top of which lied a blanket that was clearly about to fall down. His numerous, pathetically thin, compared to the rest of his body, legs floundered helplessly in front of his eyes. (Mary Fox [2018])

 

○He was lying in his bed on his armored back. When he lifted his head, he could see his brown, bulging belly. Stiff arches divided it into sections. The bed cover had nearly slipped off. His many legs appeared pitifully thin compared to his waist and were flailing helplessly in front of his eyes. (Philipp Strazny [2019]) 

 

———————————————————————

 

カフカの『変身』の邦訳リストです!

 

カフカの『変身』の英訳リストです!

 

カフカの『変身』のグレゴール・グレーゴルのリストです!

 

カフカの『変身』の"冒頭文"の邦訳と英訳のリストです!