最高と思っているパターンが、
2つあります。
1つ目は「人間消失」。
いっしょにいたはずの身内が消えて、
周囲の人たちに聞くと、
「あなたは最初からひとりでしたよ」と
その存在を否定されてしまう、
というもの。
2つ目は「見知らぬ身内」。
死んだはずの身内(妻とか兄とか夫とか)が、目の前に現れるのですが、
まったく見知らぬ人間。
なのに、身内だと名乗り、
周囲の人たちまでが、
「この人はたしかに当人だ。おかしいのはあなただ」
と言われてしまう、
というもの。
これはどちらも、とびきり魅力的な謎で、
いったいどういうことなのか、
気になって仕方なくなります。
1つ目の「人間消失」は、
驚いたことに、そういう事件が現実にあって、
その実話から、
さまざまな小説や映画などが作られたようです。
私が思う、このパターンでの最高傑作は、
ディクスン・カーの「B13号客室」というラジオドラマです。
この本で読むことができます。
人間消失ミステリー (Little Selectionsあなたのための小さな物語)/著者不明

¥1,404
Amazon.co.jp
なにをもって名作とするかですが、
このパターンの場合、
「周囲の人たちが全員グル」というのは、
台無しだと思っています。
それなら、謎でもなんでもないわけで。
周囲の人たちは本心から「そんな人は最初からいなかった」と正直に証言している、
という謎を、
なんとか合理的に解決できたとか、
素晴らしい解決と言えるのではないかと思います。
(もちろん、絶対条件ではなく、
全員グルでも、面白い解決になりうる場合もあるとは思いますが)
ディクスン・カーの「B13号客室」では、
周囲の人たちはグルではなく、正直に証言しているだけなのです。
なのに、完全に合理的に解決されます。
心理トリックの極みと言えるのではないかと思います。
で、逆にワースト1位は、断然、
映画「フ○○○○○ン」です。
私は基本的に本や映画をけなさないことにしています。
自分がどんなに駄作と思うものでも、
誰かにとっては大切な作品かもしれないからです。
でも、この作品だけは許せないものを感じます。
とはいえ、やはり伏せ字にはしておきます。
いつか、出会ったら、「ああ、これだったか!」と思ってください。
さて、この「人間消失」のパターンのほうは、
今でも、続々と新作が作られています。
映画が多いですね。
さまざまな解決がありうるからでしょう。
ただ、なかなか「これはいい!」という解決はありません。
出だしがあまりに魅力的なだけに、
それに見合うだけの解決を考え出すのは、
かなりの難問のようです。
さて、ここまではじつは前フリで、
今回のメインは、
2つ目の「見知らぬ身内」のほうにあります。
私がこのパターンの作品を初めて観たのは、
「刑事コロンボ」の生みの親である
リチャード・レヴィンソン&ウィリアム・リンク
の黄金コンビが作った、単発テレビドラマ
「消えた花嫁」
という作品です。
タイトル通り、新婚の妻が消えて、
夫が警察に捜索願いを出したりしてあわてていると、
そこに妻が戻ってきます。
しかし、それは見たこともない女性なのです。
「妻じゃない!」と夫は言いますが、
周囲の人たちは、
「何を言っているんですか? あなたの奥さんはこの人ですよ」
と証言します。
何が何だかわからなくなる夫……。
この解決が、じつに「あっ!」と驚く、素晴らしいものなのです。
さすがコロンボコンビと思ったら、
原作があるということがわかりました。
しかも、その原作をもとに、
他にもさまざまな映画やドラマが作られていることも。
で、その原作というのが、
ロベール・トマの「罠」というお芝居なのです。
この本で読むことができます。
今日のフランス演劇〈第3〉 (1966年)/白水社

¥918
Amazon.co.jp
素晴らしい作品です。
無名で、食べるものに困るほどだったトマは、
この一作で、一躍、有名になり、
「フランスのヒッチコック」と称されるほどになったそうです。
それも、もっともなことで、
極上のアイディアです。
ということで、
この「罠」がこのパターンの元祖だと、
ずっと思っていたのですが、
なんと、そうではないということを、
このサイトの記事で知りました。
生きていた男('58)
この「めとLOG~ミステリー映画の世界」というのは、
本当に素晴らしいサイトで、
私の知る限り、これほどのクオリティのミステリーのサイトは他にないと思います。
ものすごく好きで、尊敬しているサイトです。
さて、それで、この記事を読んで、
大変驚いたのですが、
ロベール・トマの「罠」の初演は1960年1月28日。
それより前の1958年9月に、
「生きていた男」というイギリス映画が、
フランスで公開されていたというのです。
で、この「生きていた男」という映画は、
まさにこの「見知らぬ身内」パターンなのです!
ほぼ同じ時期に、同時に思いついたという可能性も、
完全に否定することはできませんが、
この「生きていた男」こそが、このパターンの元祖がある可能性が高いと言えるでしょう。
少なくとも、こちらのほうが先の作品です。
それを知って、
この「生きていた男」が観たくてたまらなかったのですが、
ついに、ついに、DVD化されました!
生きていた男 [DVD]/リチャード・トッド,アン・バクスター,ハーバート・ロム

¥4,104
Amazon.co.jp
もちろん、即買いました。
これを買わないでどうしようという感じです。
そして、見終わったところです。
古いモノクロ映画ですが、
じつにテンポがよく、キビキビした展開で、
目が離せません。
シーンやセリフにまったくムダがなく、
緊密で、緊張感があります。
作品としても、かなりのものだと思います。
そして、なんといっても素晴らしいのは、アイディアです。
このパターンを生み出したということは、
いくら賞賛しても賞賛したりないと思います。
脚本は、
デヴィッド・オズボーン
チャールズ・シンクレア
とのことです。
この2人のどちらかが思いついたのでしょうか?
それはわかりません。
ご存知の方がいらしたら、ぜひ教えていただきたいです。
おそらく、
発想のもとは、
「カプグラ症候群」という心の病ではないかと思います。
「家族・恋人・親友などが瓜二つの替え玉に入れ替わっているという妄想」
を抱くという症状です。
この心の病は、
「盗まれた街」などのSF作品のもとにもなっています。
しかし、そこから、
このアイディアまでもっていったというのは、
本当に素晴らしいと思います。
ともくかも、
ミステリー好き、
とくに、どんでん返しものが好きな人は、
ぜひこの「生きていた男」のご覧になってみてください。
尊敬をこめて、
このDVDを大切にしていきたいと思います。