境遇などが、とてもよく似ています。
でも一方で、
ゲーテとカフカはまるで正反対です。
何不自由なく育ったゲーテには、お坊ちゃん特有の根の明るさがあります。
同じく何不自由なく育ったカフカは、それゆえにとても繊細で傷つきやすい人間になりました。
ゲーテは故郷から巣立ちしますが、
カフカは親元からなかなか離れられませんでした。
ゲーテはたくましく、
カフカは針金のように痩せていました。
ゲーテはよく食べよく飲む人でしたが、
カフカは菜食主義で、しかも極めて小食でした。
ゲーテはオシャレでしたが、
カフカはどんな洋服も自分が着るとシワだらけになって垂れ下がると思っていました。
ゲーテは多芸多才でしたが、
カフカは書くこと以外の能力は空っぽと感じていました。
同じ役人といっても、ゲーテは一国の大臣で、
カフカは半官半民の「労働者災害保険協会」に勤める普通のサラリーマンでした。
ゲーテは恋愛を楽しみ、失恋さえも朗々と詩に歌い上げます。
七四歳になっても、一九歳の少女に恋をしたり、まさに恋多き男で、
恋愛遍歴を重ねて、五人の子供も作っています。
(じつは子供はもっとたくさんいたという説も)
一方、カフカのほうも、複数の女性と恋愛をしますが、
つねに苦悩し、楽しむということはほとんどなく、
交際もほとんど手紙のみで、会うことは極力避け、
生涯独身で、結婚することも、子供を作ることもありませんでした。
普通に結婚して子供を作ることこそ、カフカの最大の願いだったのですが。
ゲーテは二五歳のとき『若きウェルテルの悩み』が大ベトスセラーとなり、
生涯、比べる者のない名声を誇りました。
一方、カフカのほうは、生涯、ほとんど無名でした。
友達の作家からも「おまえの作品が国境を越えることはない」と言われてしまっています。
現在では二人とも偉大な作家ですが、
ゲーテは「巨人ゲーテ」「大ゲーテ」などと呼ばれ、
その文学は「大きい文学(メジャー文学)」と呼ばれます。
一方、カフカの文学は、「小さい文学(マイナー文学)」と呼ばれます。
人からそう言われるだけでなく、自分自身でもそう呼んでいます。
(つづく)
希望名人ゲーテと絶望名人カフカの対話/飛鳥新社

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