◆過敏さと強調
カフカの言葉をそのままに受け取ると、
いまにも死にそうなようだが、
じっさいには、頑健ではなかったにしても、
ごく普通には健康だった。
最初の就職をする前に、医師の診察をうけて、
「健康」と診断されている。
ルードルフ・フックスもカフカの印象を、
「彼は見たところいかにも健康そうな感じがした」
と語っている。(E)
カフカ自身もこう書いている。
「鏡はぼくに言わせればどうにもならないぼくの醜さを映し出した……。
もっともその醜さなるもの、必ずしもありのままの姿ではなかっただろう。
本当にぼくが鏡の中の自分のように醜かったとしたら、
まわりで大騒ぎをしたにちがいない」(日記1911年12月31日 E)
カフカの弱さの正体は、敏感さである。
たとえば、人の手が自分の腕にふれたとする。
普通なら手がさわったと感じるだけだ。
しかし、もし感覚が並外れて鋭敏なら、
それだけの接触でも痛みとして感じるだろう。
そしてさらに、
「カフカの流儀というのは、
場合によっては自分を屈服させるような事柄は、
なんでも非常に強調した」
「自分自身に対するある種の高々と勝ち誇るような自虐趣味」
「千倍の拡大鏡をもってするように文字通り自らの弱点を誇張する」(ブロート E)