「さぁ最終コーナー回って最後の直線!!先頭は3番、ウシマルカイオー!ウシマルカイオー軽快に逃げる逃げる!!ダントツの一番人気7番のユメカラサメタラはまだだいぶ後方!!今から差しきれるのか!希代の名騎手、愛馬行夫はどう手綱をさばく!
っとユメカラサメタラここで仕掛けた!大外から伸びてきた!!これは早い!周りの馬がスローで動いているように見えます!早い早い!7馬身、5馬身とどんどん差を詰めてゴールまであと100メートル残して早くも先頭に立った!
夢はまださめないのか!夢はまださめないのか!そのまま一着でゴールイン!!ユメカラサメタラが史上4頭目、無敗での3歳三冠を手に制しましたー!」
「あーくそ!!!」
僕はおそるおそる財布を覗きこんだ。
もう帰るだけの電車賃を残して全てのお金を使いきってしまったのだ。
「がははは!お前また外したのか!だからわしがユメカラサメタラは買っとけってあんなけ言ったろ!」
おっちゃんは僕の馬券を覗き込むと嬉しそうに笑った。おっちゃんは競馬場で出会って以来もう5年の付き合いだ。
「だってふざけた名前だったからさー。新馬戦の時からずっと買わなかったんだよ。ほんとにくだらない意地なんて張るんじゃなかった。素直に最初からこいつを買ってれば今頃うはうはだったのになー。無敗で3冠なんて。」
「まぁどうせそのうち負けるだろうがよ!がはははは!」
おっちゃんが馬券を的中させて高笑いする中僕は肩を落とし、競馬場を後にした。
家に帰っても胸のモヤモヤは収まらなかった。
僕は競馬が好きでもうかれこれ競馬を始めて10年経った。今まで色んな馬を見てきたけどあんな勝ち方する馬は始めてだった。強すぎる。あり得ない。
今からこいつに賭けて取り返してやろうとも思ったがそれがなかなか難しい。今回のレースも単勝1.2倍という低配当。つまり次はもう単勝は1.1倍つけばいい方だろう。仮に次のレースで単勝でこいつに100万賭けても今まで負けてる分を取り返すのはもう無理なのだ。
「あーあ。」
僕はベッドに寝転んだ。なんかいい方法はないのか。そんな事を考えていた時、ふと一つの案が閃光のように頭を駆け抜けた。
「いける。これなら確実に。いや、でもさすがに無理だなー。」
僕は自分の考えをねじ伏せようとした。
しかし僕の競馬で膨れ上がった借金を返すにはもうやるしかなかった。
その作戦とは。
まず、説明したいのは競馬とは、人気が一頭に集中しすぎると自ずと他の馬の倍率は上がるという事。現に今日のレースでも2番人気のウシマルカイオーも同世代の馬の中では明らかに桁外れに強いにも関わらず単勝10倍もの倍率がついていた。つまりユメカラサメタラが一着でゴールさえしなければ自ずとすごい倍率になるのだ。
では、ユメカラサメタラをどうやって負けさせるのか。それに関しては一つ策があった。
僕は大学時代に薬科大学に在学していた。もちろん薬の知識を主に学んでいたのだがそれと同じくらい毒薬についても学んでいたのだ。その知識で身の回りにあるもので遅効性の毒薬を作り、ユメカラサメタラの飼い葉や飲み水に飲ませれば体調に支障をきたす程の適量の毒をレース1日前に混ぜる。
体調がおかしいと気付くのはレースの始まる直前。その時には時すでに遅しというわけだ。
それに僕は馬が好きで厩舎には何度も行った事もあった。そこで仲良くなった調教師もいるし目を盗んで毒を入れるくらい不可能ではない。
「やるしかない。」
僕はさっそく買い出しをし、遅効性の毒を調合した。量に関しては大学時代にいやというほど実験してきたので間違うわけはない。
それを小さなビンに詰めてその日を待った。
年末に行われる国内最高峰のレース、有馬記念を。
レース前日、僕はユメカラサメタラがいる厩舎を訪れた。
「どうも!」
僕は調教師に簡単に挨拶をすませると
「ちょっと近くに来ることがあったんで寄っちゃいました。」
と、とりあえず中に入った。すると競馬場のおっちゃんが座っていた。
「おっちゃん!こんなとこで何してるの!?」
「おー!お前も来てたのか!わしは調教師さんに馬を見せてもらいにきたのよ!わしは競馬ファンというかただの馬フェチだからな!がははは!」
おっちゃんはたまに馬を見に来ているらしい。こうして三人で他愛のない話をしばらくしたあと僕はついに本題にきれこんだ。
「いよいよ明日、有馬記念ですね!ユメカラサメタラの調子はどうですか?」
「うん!いいよ!私もあんな馬見たことないよ。調子に左右されないというかいつなんどき100%の力が出せるというか。」
「へー。無敗の三冠馬ですもんねー。ちょっと見させてもらう事ってできます?」
「うーん。ほんとはレース前に余計な刺激を与えてはいけないんだけどまぁ見るくらいならいいよ。」
よし。これでユメカラサメタラに会える。第一関門は突破した。
「やった!ありがとうございます!おっちゃんはどうする?」
「あーわしは次の予定があるからやめとくわ!お前さん明日の有馬は行くんだろ?ならどうせまた明日競馬場で会えるだろうしな!がははは!」
そういっておっちゃんは帰った。
そして僕は調教師さんの後をついていった。
「この子だよ!」
調教師が指差した馬は実際にみるとすごく小さく、すごくおとなしい馬だった。こんな馬が三冠を取るようにはとても見えない。
「すごいおとなしいですね。」
「そう、ホントにこんな子が三冠とるように見えないでしょ。」
「そうですね。ただほかの馬にはないこうなにかせまってくる迫力みたいなのはありますね。目も力強く無機質で奥に力を秘めているような感じだし。」
「そうだね!まぁ人間でいう変わり者だよ。はっはっは!」
そういうと調教師は他の馬に餌をやり始めた。
今しかない!!
僕は持ってきていたビンに取りだし、液体をユメカラサメタラの水桶にいれた。その後、ユメカラサメタラが水を飲んだ事を確認すると僕はその場を後にした。
よし。
やった。
やってやった。
心臓の鼓動がなりやまない。
これであとはレースを待つだけだ。
僕はひとまず作戦の第一段階成功に安堵した。
そして運命のレース当日。僕はこの日の為に消費者金融から借りた200万円を持ってレースの一時間前に競馬場に着いた。
年末最後の大レース、さらにユメカラサメタラ人気で競馬場にはいつもの倍くらいの人が押し寄せていた。案の定、オッズはユメカラサメタラがダントツの一番人気で単勝1.0倍というあり得ない数字を叩き出していた。
僕は今回のレースを二番人気のウシマルカイオーに全てを託す事にした。単勝で200万円。最新のオッズでは二番人気にもかかわらず12倍もついている。つまりウシマルカイオーが一着なら2400万円になるのだ。
ここまでは作戦通り進んでいる。
その時、誰かに肩を叩かれた。
「あっ、おっちゃん!」
「よー!やっぱり今日も会ったな!ってなんかいつもより神妙な顔付きじゃねえか!大丈夫か?がははは!」
おっちゃんはいつもの高笑いをした。
「所でお前さん、今日もユメカラサメタラは外してんのか?」
「もちろん外してる!てかおっちゃん!!今日は絶対にユメカラサメタラは来ない!だからおっちゃんも今日だけは俺の言うことを信じてユメカラサメタラを買わない方がいいよ!」
「でもさっきパドック見てきたが調子はまぁまぁ良さそうだったぜ!」
「いや、今日は来ない。だから絶対買わない方がいい!」
「ほう。なぜか今日はいつもより説得力があるな。だがわしはユメカラサメタラのファンだからユメカラサメタラは外せないよ!」
「そうか。おっちゃん、後で後悔しても知らないよ!」
そんな事を話しているうちについにレース前のファンファーレが鳴り響いた。
ついに始まる。俺の人生を左右するレースが。
「さぁ、全国の競馬ファンがこの日を楽しみにしておりました。年末最後の大勝負。今年を締めくくるG1レース有馬記念がいよいよ始まります。
なんと言っても注目は無敗三冠馬ユメカラサメタラです。最新オッズでは1.0倍と脅威的な人気。今日も夢は続きは見られるのか。
さぁ各馬ゲートに入って………スタートしました!
各馬揃ったいいスタート。ウシマルカイオーがいつも通り軽快に逃げる。注目のユメカラサメタラは最後尾から様子をうかがいます。第一コーナーを過ぎて向こう正面。ここでウシマルカイオーがかなりの差を拡げていきます!沸き起こる場内!ユメカラサメタラは後ろから様子をうかがっている。そしてウシマルカイオーが早くも第三コーナーに差し掛かりました!ユメカラサメタラはまだ最後尾!!大丈夫なのか!さぁ各馬第四コーナーも回って最後の直線!ゴールまで残り400メートル!!ユメカラサメタラはまだ第三コーナー差し掛かった辺り!!どうしたんでしょうか!?故障でしょうか!?果たしてここから差しきれるのか!」
やった。僕は勝利を確信した。明らかにいつもの調子とは違う。
「っとここでユメカラサメタラが大外から急激な伸び!!沸き起こる場内!沸き起こる場内!あっと言う間に馬群中段。速い速い。これは速い。残すはウシマルカイオーのみ!!ただゴールまで残り100メートル!!!仕掛けるのが少し遅かったか!しかしここからユメカラサメタラさらに伸びる!もはやこの馬に常識は通用しないのか!逃げるウシマルカイオー。追うユメカラサメタラ。そしてユメカラサメタラとウシマルカイオー並んでゴールイン!!!審議のランプが電灯。勝負は写真判定に委ねられました!」
まさかこんな事になるとは。僕の心臓ははち切れそうだった。いや、最後はウシマルカイオーがわずかに逃げきったはずだ。しかしユメカラサメタラという馬はなんとも恐ろしい。
「さぁ、写真判定の結果が出たようです!結果は……ユメカラサメタラがハナ差で差しきっているー!!!まだ夢は終わらない!!ユメカラサメタラが有馬記念を制しました!!」
まさか…差しきられるなんて。僕は目の前がぼーっと暗くなり茫然自失になった。
「だから言ったろ!ユメカラサメタラは買っとけって!がははは!お前さん今回は大きく張ってたみたいだな!お前さんにこの馬券やるよ!」
そういうとおっちゃんは僕に馬券を差し出した。
僕は言われるがまま馬券を受け取ると、
「まぁ馬連で8倍はついてるから800万円にはなる。それで借金返して競馬はもうやめな。がははは!」
馬券をよくみるとウシマルカイオーとユメカラサメタラの馬連で100万円買っている。僕が事態をよくつかめないでいると、遠くから黒服を着た人が二、三人やってきて
「社長!!!!何してるんですか!めちゃくちゃ探したんですよ!」
とこっちに近づいてきた。
「なんだお前ら!せわしない!趣味を楽しんで何が悪い!」
「今日は新製品の大事な会議なんですから!」
僕は事態を掴めないでいると、おっちゃんは
「そういう事だからわしはもう行くわ!またどこかでな!」
と去ろうとした。
「ちょっと待った!てかおっちゃん何者!?」
僕が問い詰めると、黒服が
「ご存知ないのですか。この人は半田自動車社長。半田宗一郎です。」
僕は一瞬耳を疑った。
「えっ!?半田自動車ってあの世界のHANDAですか!?」
「そうです。この方はその創始者であり、社長です。ちなみに今回のレースに出ていたユメカラサメタラの馬主でもあられます。さぁ社長行きましょう。」
「そういうわけだ!まぁそんなたいしたもんじゃないけどな!がははは!」
とおっちゃんは高笑いをしながら黒服に連れられて行った。
僕は目の前で起こった事柄についていけずしばらくぼーっとしていた。
家に帰っておっちゃんにもらった後も馬券を眺めながら今日あった出来事を思い返す。
まず、毒を盛ったはずのユメカラサメタラが勝利する波乱。そこで僕の人生は終わったと思った。しかし、おっちゃんがこの800万円の馬券をくれた。何よりあのおっちゃんがあの半田自動車の社長だなんて。
僕はおっちゃんにもらった馬券を換金し、借金を全て返すと競馬から足を洗った。
それからしばらく月日は経ち、ある日ふと新聞を読むと一面に
「世界のHANDA、次世代の革命的技術開発!!」
と書いてある。
内容を詳しく読んでみると、
ロボット研究等で世界トップクラスの技術を持つ世界のHANDAがまた業界に革命をもたらしました。HANDAは次世代の移動手段としてUMA(ウーマ)を開発。本物の馬と区別がつかない程精巧にできており、肌の質感、体温まで忠実に再現。動力源はなんと水と草。水500mlと草200gで100kmの走行が可能。最高時速は120km/h。速度もつないである手綱の握り一つで簡単操作が可能。走る姿も馬そのもので見分けはほとんどつかない代物だ。コンピューター制御により安全性も保証されており、次世代のエコ技術の革命として注目が集まっています。
という文章。そして、横に添えられていた写真には高笑いしているおっちゃんと少し小柄で無機質な目をした馬が写っていた。
っとユメカラサメタラここで仕掛けた!大外から伸びてきた!!これは早い!周りの馬がスローで動いているように見えます!早い早い!7馬身、5馬身とどんどん差を詰めてゴールまであと100メートル残して早くも先頭に立った!
夢はまださめないのか!夢はまださめないのか!そのまま一着でゴールイン!!ユメカラサメタラが史上4頭目、無敗での3歳三冠を手に制しましたー!」
「あーくそ!!!」
僕はおそるおそる財布を覗きこんだ。
もう帰るだけの電車賃を残して全てのお金を使いきってしまったのだ。
「がははは!お前また外したのか!だからわしがユメカラサメタラは買っとけってあんなけ言ったろ!」
おっちゃんは僕の馬券を覗き込むと嬉しそうに笑った。おっちゃんは競馬場で出会って以来もう5年の付き合いだ。
「だってふざけた名前だったからさー。新馬戦の時からずっと買わなかったんだよ。ほんとにくだらない意地なんて張るんじゃなかった。素直に最初からこいつを買ってれば今頃うはうはだったのになー。無敗で3冠なんて。」
「まぁどうせそのうち負けるだろうがよ!がはははは!」
おっちゃんが馬券を的中させて高笑いする中僕は肩を落とし、競馬場を後にした。
家に帰っても胸のモヤモヤは収まらなかった。
僕は競馬が好きでもうかれこれ競馬を始めて10年経った。今まで色んな馬を見てきたけどあんな勝ち方する馬は始めてだった。強すぎる。あり得ない。
今からこいつに賭けて取り返してやろうとも思ったがそれがなかなか難しい。今回のレースも単勝1.2倍という低配当。つまり次はもう単勝は1.1倍つけばいい方だろう。仮に次のレースで単勝でこいつに100万賭けても今まで負けてる分を取り返すのはもう無理なのだ。
「あーあ。」
僕はベッドに寝転んだ。なんかいい方法はないのか。そんな事を考えていた時、ふと一つの案が閃光のように頭を駆け抜けた。
「いける。これなら確実に。いや、でもさすがに無理だなー。」
僕は自分の考えをねじ伏せようとした。
しかし僕の競馬で膨れ上がった借金を返すにはもうやるしかなかった。
その作戦とは。
まず、説明したいのは競馬とは、人気が一頭に集中しすぎると自ずと他の馬の倍率は上がるという事。現に今日のレースでも2番人気のウシマルカイオーも同世代の馬の中では明らかに桁外れに強いにも関わらず単勝10倍もの倍率がついていた。つまりユメカラサメタラが一着でゴールさえしなければ自ずとすごい倍率になるのだ。
では、ユメカラサメタラをどうやって負けさせるのか。それに関しては一つ策があった。
僕は大学時代に薬科大学に在学していた。もちろん薬の知識を主に学んでいたのだがそれと同じくらい毒薬についても学んでいたのだ。その知識で身の回りにあるもので遅効性の毒薬を作り、ユメカラサメタラの飼い葉や飲み水に飲ませれば体調に支障をきたす程の適量の毒をレース1日前に混ぜる。
体調がおかしいと気付くのはレースの始まる直前。その時には時すでに遅しというわけだ。
それに僕は馬が好きで厩舎には何度も行った事もあった。そこで仲良くなった調教師もいるし目を盗んで毒を入れるくらい不可能ではない。
「やるしかない。」
僕はさっそく買い出しをし、遅効性の毒を調合した。量に関しては大学時代にいやというほど実験してきたので間違うわけはない。
それを小さなビンに詰めてその日を待った。
年末に行われる国内最高峰のレース、有馬記念を。
レース前日、僕はユメカラサメタラがいる厩舎を訪れた。
「どうも!」
僕は調教師に簡単に挨拶をすませると
「ちょっと近くに来ることがあったんで寄っちゃいました。」
と、とりあえず中に入った。すると競馬場のおっちゃんが座っていた。
「おっちゃん!こんなとこで何してるの!?」
「おー!お前も来てたのか!わしは調教師さんに馬を見せてもらいにきたのよ!わしは競馬ファンというかただの馬フェチだからな!がははは!」
おっちゃんはたまに馬を見に来ているらしい。こうして三人で他愛のない話をしばらくしたあと僕はついに本題にきれこんだ。
「いよいよ明日、有馬記念ですね!ユメカラサメタラの調子はどうですか?」
「うん!いいよ!私もあんな馬見たことないよ。調子に左右されないというかいつなんどき100%の力が出せるというか。」
「へー。無敗の三冠馬ですもんねー。ちょっと見させてもらう事ってできます?」
「うーん。ほんとはレース前に余計な刺激を与えてはいけないんだけどまぁ見るくらいならいいよ。」
よし。これでユメカラサメタラに会える。第一関門は突破した。
「やった!ありがとうございます!おっちゃんはどうする?」
「あーわしは次の予定があるからやめとくわ!お前さん明日の有馬は行くんだろ?ならどうせまた明日競馬場で会えるだろうしな!がははは!」
そういっておっちゃんは帰った。
そして僕は調教師さんの後をついていった。
「この子だよ!」
調教師が指差した馬は実際にみるとすごく小さく、すごくおとなしい馬だった。こんな馬が三冠を取るようにはとても見えない。
「すごいおとなしいですね。」
「そう、ホントにこんな子が三冠とるように見えないでしょ。」
「そうですね。ただほかの馬にはないこうなにかせまってくる迫力みたいなのはありますね。目も力強く無機質で奥に力を秘めているような感じだし。」
「そうだね!まぁ人間でいう変わり者だよ。はっはっは!」
そういうと調教師は他の馬に餌をやり始めた。
今しかない!!
僕は持ってきていたビンに取りだし、液体をユメカラサメタラの水桶にいれた。その後、ユメカラサメタラが水を飲んだ事を確認すると僕はその場を後にした。
よし。
やった。
やってやった。
心臓の鼓動がなりやまない。
これであとはレースを待つだけだ。
僕はひとまず作戦の第一段階成功に安堵した。
そして運命のレース当日。僕はこの日の為に消費者金融から借りた200万円を持ってレースの一時間前に競馬場に着いた。
年末最後の大レース、さらにユメカラサメタラ人気で競馬場にはいつもの倍くらいの人が押し寄せていた。案の定、オッズはユメカラサメタラがダントツの一番人気で単勝1.0倍というあり得ない数字を叩き出していた。
僕は今回のレースを二番人気のウシマルカイオーに全てを託す事にした。単勝で200万円。最新のオッズでは二番人気にもかかわらず12倍もついている。つまりウシマルカイオーが一着なら2400万円になるのだ。
ここまでは作戦通り進んでいる。
その時、誰かに肩を叩かれた。
「あっ、おっちゃん!」
「よー!やっぱり今日も会ったな!ってなんかいつもより神妙な顔付きじゃねえか!大丈夫か?がははは!」
おっちゃんはいつもの高笑いをした。
「所でお前さん、今日もユメカラサメタラは外してんのか?」
「もちろん外してる!てかおっちゃん!!今日は絶対にユメカラサメタラは来ない!だからおっちゃんも今日だけは俺の言うことを信じてユメカラサメタラを買わない方がいいよ!」
「でもさっきパドック見てきたが調子はまぁまぁ良さそうだったぜ!」
「いや、今日は来ない。だから絶対買わない方がいい!」
「ほう。なぜか今日はいつもより説得力があるな。だがわしはユメカラサメタラのファンだからユメカラサメタラは外せないよ!」
「そうか。おっちゃん、後で後悔しても知らないよ!」
そんな事を話しているうちについにレース前のファンファーレが鳴り響いた。
ついに始まる。俺の人生を左右するレースが。
「さぁ、全国の競馬ファンがこの日を楽しみにしておりました。年末最後の大勝負。今年を締めくくるG1レース有馬記念がいよいよ始まります。
なんと言っても注目は無敗三冠馬ユメカラサメタラです。最新オッズでは1.0倍と脅威的な人気。今日も夢は続きは見られるのか。
さぁ各馬ゲートに入って………スタートしました!
各馬揃ったいいスタート。ウシマルカイオーがいつも通り軽快に逃げる。注目のユメカラサメタラは最後尾から様子をうかがいます。第一コーナーを過ぎて向こう正面。ここでウシマルカイオーがかなりの差を拡げていきます!沸き起こる場内!ユメカラサメタラは後ろから様子をうかがっている。そしてウシマルカイオーが早くも第三コーナーに差し掛かりました!ユメカラサメタラはまだ最後尾!!大丈夫なのか!さぁ各馬第四コーナーも回って最後の直線!ゴールまで残り400メートル!!ユメカラサメタラはまだ第三コーナー差し掛かった辺り!!どうしたんでしょうか!?故障でしょうか!?果たしてここから差しきれるのか!」
やった。僕は勝利を確信した。明らかにいつもの調子とは違う。
「っとここでユメカラサメタラが大外から急激な伸び!!沸き起こる場内!沸き起こる場内!あっと言う間に馬群中段。速い速い。これは速い。残すはウシマルカイオーのみ!!ただゴールまで残り100メートル!!!仕掛けるのが少し遅かったか!しかしここからユメカラサメタラさらに伸びる!もはやこの馬に常識は通用しないのか!逃げるウシマルカイオー。追うユメカラサメタラ。そしてユメカラサメタラとウシマルカイオー並んでゴールイン!!!審議のランプが電灯。勝負は写真判定に委ねられました!」
まさかこんな事になるとは。僕の心臓ははち切れそうだった。いや、最後はウシマルカイオーがわずかに逃げきったはずだ。しかしユメカラサメタラという馬はなんとも恐ろしい。
「さぁ、写真判定の結果が出たようです!結果は……ユメカラサメタラがハナ差で差しきっているー!!!まだ夢は終わらない!!ユメカラサメタラが有馬記念を制しました!!」
まさか…差しきられるなんて。僕は目の前がぼーっと暗くなり茫然自失になった。
「だから言ったろ!ユメカラサメタラは買っとけって!がははは!お前さん今回は大きく張ってたみたいだな!お前さんにこの馬券やるよ!」
そういうとおっちゃんは僕に馬券を差し出した。
僕は言われるがまま馬券を受け取ると、
「まぁ馬連で8倍はついてるから800万円にはなる。それで借金返して競馬はもうやめな。がははは!」
馬券をよくみるとウシマルカイオーとユメカラサメタラの馬連で100万円買っている。僕が事態をよくつかめないでいると、遠くから黒服を着た人が二、三人やってきて
「社長!!!!何してるんですか!めちゃくちゃ探したんですよ!」
とこっちに近づいてきた。
「なんだお前ら!せわしない!趣味を楽しんで何が悪い!」
「今日は新製品の大事な会議なんですから!」
僕は事態を掴めないでいると、おっちゃんは
「そういう事だからわしはもう行くわ!またどこかでな!」
と去ろうとした。
「ちょっと待った!てかおっちゃん何者!?」
僕が問い詰めると、黒服が
「ご存知ないのですか。この人は半田自動車社長。半田宗一郎です。」
僕は一瞬耳を疑った。
「えっ!?半田自動車ってあの世界のHANDAですか!?」
「そうです。この方はその創始者であり、社長です。ちなみに今回のレースに出ていたユメカラサメタラの馬主でもあられます。さぁ社長行きましょう。」
「そういうわけだ!まぁそんなたいしたもんじゃないけどな!がははは!」
とおっちゃんは高笑いをしながら黒服に連れられて行った。
僕は目の前で起こった事柄についていけずしばらくぼーっとしていた。
家に帰っておっちゃんにもらった後も馬券を眺めながら今日あった出来事を思い返す。
まず、毒を盛ったはずのユメカラサメタラが勝利する波乱。そこで僕の人生は終わったと思った。しかし、おっちゃんがこの800万円の馬券をくれた。何よりあのおっちゃんがあの半田自動車の社長だなんて。
僕はおっちゃんにもらった馬券を換金し、借金を全て返すと競馬から足を洗った。
それからしばらく月日は経ち、ある日ふと新聞を読むと一面に
「世界のHANDA、次世代の革命的技術開発!!」
と書いてある。
内容を詳しく読んでみると、
ロボット研究等で世界トップクラスの技術を持つ世界のHANDAがまた業界に革命をもたらしました。HANDAは次世代の移動手段としてUMA(ウーマ)を開発。本物の馬と区別がつかない程精巧にできており、肌の質感、体温まで忠実に再現。動力源はなんと水と草。水500mlと草200gで100kmの走行が可能。最高時速は120km/h。速度もつないである手綱の握り一つで簡単操作が可能。走る姿も馬そのもので見分けはほとんどつかない代物だ。コンピューター制御により安全性も保証されており、次世代のエコ技術の革命として注目が集まっています。
という文章。そして、横に添えられていた写真には高笑いしているおっちゃんと少し小柄で無機質な目をした馬が写っていた。