「さぁ最終コーナー回って最後の直線!!先頭は3番、ウシマルカイオー!ウシマルカイオー軽快に逃げる逃げる!!ダントツの一番人気7番のユメカラサメタラはまだだいぶ後方!!今から差しきれるのか!希代の名騎手、愛馬行夫はどう手綱をさばく!
っとユメカラサメタラここで仕掛けた!大外から伸びてきた!!これは早い!周りの馬がスローで動いているように見えます!早い早い!7馬身、5馬身とどんどん差を詰めてゴールまであと100メートル残して早くも先頭に立った!
夢はまださめないのか!夢はまださめないのか!そのまま一着でゴールイン!!ユメカラサメタラが史上4頭目、無敗での3歳三冠を手に制しましたー!」





「あーくそ!!!」


僕はおそるおそる財布を覗きこんだ。
もう帰るだけの電車賃を残して全てのお金を使いきってしまったのだ。


「がははは!お前また外したのか!だからわしがユメカラサメタラは買っとけってあんなけ言ったろ!」


おっちゃんは僕の馬券を覗き込むと嬉しそうに笑った。おっちゃんは競馬場で出会って以来もう5年の付き合いだ。


「だってふざけた名前だったからさー。新馬戦の時からずっと買わなかったんだよ。ほんとにくだらない意地なんて張るんじゃなかった。素直に最初からこいつを買ってれば今頃うはうはだったのになー。無敗で3冠なんて。」


「まぁどうせそのうち負けるだろうがよ!がはははは!」


おっちゃんが馬券を的中させて高笑いする中僕は肩を落とし、競馬場を後にした。
家に帰っても胸のモヤモヤは収まらなかった。
僕は競馬が好きでもうかれこれ競馬を始めて10年経った。今まで色んな馬を見てきたけどあんな勝ち方する馬は始めてだった。強すぎる。あり得ない。
今からこいつに賭けて取り返してやろうとも思ったがそれがなかなか難しい。今回のレースも単勝1.2倍という低配当。つまり次はもう単勝は1.1倍つけばいい方だろう。仮に次のレースで単勝でこいつに100万賭けても今まで負けてる分を取り返すのはもう無理なのだ。


「あーあ。」


僕はベッドに寝転んだ。なんかいい方法はないのか。そんな事を考えていた時、ふと一つの案が閃光のように頭を駆け抜けた。


「いける。これなら確実に。いや、でもさすがに無理だなー。」


僕は自分の考えをねじ伏せようとした。
しかし僕の競馬で膨れ上がった借金を返すにはもうやるしかなかった。


その作戦とは。
まず、説明したいのは競馬とは、人気が一頭に集中しすぎると自ずと他の馬の倍率は上がるという事。現に今日のレースでも2番人気のウシマルカイオーも同世代の馬の中では明らかに桁外れに強いにも関わらず単勝10倍もの倍率がついていた。つまりユメカラサメタラが一着でゴールさえしなければ自ずとすごい倍率になるのだ。

では、ユメカラサメタラをどうやって負けさせるのか。それに関しては一つ策があった。
僕は大学時代に薬科大学に在学していた。もちろん薬の知識を主に学んでいたのだがそれと同じくらい毒薬についても学んでいたのだ。その知識で身の回りにあるもので遅効性の毒薬を作り、ユメカラサメタラの飼い葉や飲み水に飲ませれば体調に支障をきたす程の適量の毒をレース1日前に混ぜる。
体調がおかしいと気付くのはレースの始まる直前。その時には時すでに遅しというわけだ。
それに僕は馬が好きで厩舎には何度も行った事もあった。そこで仲良くなった調教師もいるし目を盗んで毒を入れるくらい不可能ではない。


「やるしかない。」


僕はさっそく買い出しをし、遅効性の毒を調合した。量に関しては大学時代にいやというほど実験してきたので間違うわけはない。
それを小さなビンに詰めてその日を待った。

年末に行われる国内最高峰のレース、有馬記念を。
レース前日、僕はユメカラサメタラがいる厩舎を訪れた。


「どうも!」


僕は調教師に簡単に挨拶をすませると


「ちょっと近くに来ることがあったんで寄っちゃいました。」


と、とりあえず中に入った。すると競馬場のおっちゃんが座っていた。


「おっちゃん!こんなとこで何してるの!?」


「おー!お前も来てたのか!わしは調教師さんに馬を見せてもらいにきたのよ!わしは競馬ファンというかただの馬フェチだからな!がははは!」


おっちゃんはたまに馬を見に来ているらしい。こうして三人で他愛のない話をしばらくしたあと僕はついに本題にきれこんだ。


「いよいよ明日、有馬記念ですね!ユメカラサメタラの調子はどうですか?」


「うん!いいよ!私もあんな馬見たことないよ。調子に左右されないというかいつなんどき100%の力が出せるというか。」


「へー。無敗の三冠馬ですもんねー。ちょっと見させてもらう事ってできます?」


「うーん。ほんとはレース前に余計な刺激を与えてはいけないんだけどまぁ見るくらいならいいよ。」


よし。これでユメカラサメタラに会える。第一関門は突破した。


「やった!ありがとうございます!おっちゃんはどうする?」


「あーわしは次の予定があるからやめとくわ!お前さん明日の有馬は行くんだろ?ならどうせまた明日競馬場で会えるだろうしな!がははは!」


そういっておっちゃんは帰った。
そして僕は調教師さんの後をついていった。


「この子だよ!」


調教師が指差した馬は実際にみるとすごく小さく、すごくおとなしい馬だった。こんな馬が三冠を取るようにはとても見えない。


「すごいおとなしいですね。」


「そう、ホントにこんな子が三冠とるように見えないでしょ。」


「そうですね。ただほかの馬にはないこうなにかせまってくる迫力みたいなのはありますね。目も力強く無機質で奥に力を秘めているような感じだし。」


「そうだね!まぁ人間でいう変わり者だよ。はっはっは!」


そういうと調教師は他の馬に餌をやり始めた。

今しかない!!

僕は持ってきていたビンに取りだし、液体をユメカラサメタラの水桶にいれた。その後、ユメカラサメタラが水を飲んだ事を確認すると僕はその場を後にした。

よし。
やった。
やってやった。
心臓の鼓動がなりやまない。

これであとはレースを待つだけだ。
僕はひとまず作戦の第一段階成功に安堵した。

そして運命のレース当日。僕はこの日の為に消費者金融から借りた200万円を持ってレースの一時間前に競馬場に着いた。

年末最後の大レース、さらにユメカラサメタラ人気で競馬場にはいつもの倍くらいの人が押し寄せていた。案の定、オッズはユメカラサメタラがダントツの一番人気で単勝1.0倍というあり得ない数字を叩き出していた。
僕は今回のレースを二番人気のウシマルカイオーに全てを託す事にした。単勝で200万円。最新のオッズでは二番人気にもかかわらず12倍もついている。つまりウシマルカイオーが一着なら2400万円になるのだ。
ここまでは作戦通り進んでいる。

その時、誰かに肩を叩かれた。


「あっ、おっちゃん!」


「よー!やっぱり今日も会ったな!ってなんかいつもより神妙な顔付きじゃねえか!大丈夫か?がははは!」


おっちゃんはいつもの高笑いをした。


「所でお前さん、今日もユメカラサメタラは外してんのか?」


「もちろん外してる!てかおっちゃん!!今日は絶対にユメカラサメタラは来ない!だからおっちゃんも今日だけは俺の言うことを信じてユメカラサメタラを買わない方がいいよ!」


「でもさっきパドック見てきたが調子はまぁまぁ良さそうだったぜ!」


「いや、今日は来ない。だから絶対買わない方がいい!」


「ほう。なぜか今日はいつもより説得力があるな。だがわしはユメカラサメタラのファンだからユメカラサメタラは外せないよ!」


「そうか。おっちゃん、後で後悔しても知らないよ!」


そんな事を話しているうちについにレース前のファンファーレが鳴り響いた。
ついに始まる。俺の人生を左右するレースが。



「さぁ、全国の競馬ファンがこの日を楽しみにしておりました。年末最後の大勝負。今年を締めくくるG1レース有馬記念がいよいよ始まります。
なんと言っても注目は無敗三冠馬ユメカラサメタラです。最新オッズでは1.0倍と脅威的な人気。今日も夢は続きは見られるのか。
さぁ各馬ゲートに入って………スタートしました!
各馬揃ったいいスタート。ウシマルカイオーがいつも通り軽快に逃げる。注目のユメカラサメタラは最後尾から様子をうかがいます。第一コーナーを過ぎて向こう正面。ここでウシマルカイオーがかなりの差を拡げていきます!沸き起こる場内!ユメカラサメタラは後ろから様子をうかがっている。そしてウシマルカイオーが早くも第三コーナーに差し掛かりました!ユメカラサメタラはまだ最後尾!!大丈夫なのか!さぁ各馬第四コーナーも回って最後の直線!ゴールまで残り400メートル!!ユメカラサメタラはまだ第三コーナー差し掛かった辺り!!どうしたんでしょうか!?故障でしょうか!?果たしてここから差しきれるのか!」

やった。僕は勝利を確信した。明らかにいつもの調子とは違う。


「っとここでユメカラサメタラが大外から急激な伸び!!沸き起こる場内!沸き起こる場内!あっと言う間に馬群中段。速い速い。これは速い。残すはウシマルカイオーのみ!!ただゴールまで残り100メートル!!!仕掛けるのが少し遅かったか!しかしここからユメカラサメタラさらに伸びる!もはやこの馬に常識は通用しないのか!逃げるウシマルカイオー。追うユメカラサメタラ。そしてユメカラサメタラとウシマルカイオー並んでゴールイン!!!審議のランプが電灯。勝負は写真判定に委ねられました!」

まさかこんな事になるとは。僕の心臓ははち切れそうだった。いや、最後はウシマルカイオーがわずかに逃げきったはずだ。しかしユメカラサメタラという馬はなんとも恐ろしい。


「さぁ、写真判定の結果が出たようです!結果は……ユメカラサメタラがハナ差で差しきっているー!!!まだ夢は終わらない!!ユメカラサメタラが有馬記念を制しました!!」


まさか…差しきられるなんて。僕は目の前がぼーっと暗くなり茫然自失になった。


「だから言ったろ!ユメカラサメタラは買っとけって!がははは!お前さん今回は大きく張ってたみたいだな!お前さんにこの馬券やるよ!」


そういうとおっちゃんは僕に馬券を差し出した。
僕は言われるがまま馬券を受け取ると、


「まぁ馬連で8倍はついてるから800万円にはなる。それで借金返して競馬はもうやめな。がははは!」


馬券をよくみるとウシマルカイオーとユメカラサメタラの馬連で100万円買っている。僕が事態をよくつかめないでいると、遠くから黒服を着た人が二、三人やってきて


「社長!!!!何してるんですか!めちゃくちゃ探したんですよ!」

とこっちに近づいてきた。


「なんだお前ら!せわしない!趣味を楽しんで何が悪い!」


「今日は新製品の大事な会議なんですから!」


僕は事態を掴めないでいると、おっちゃんは


「そういう事だからわしはもう行くわ!またどこかでな!」

と去ろうとした。


「ちょっと待った!てかおっちゃん何者!?」


僕が問い詰めると、黒服が


「ご存知ないのですか。この人は半田自動車社長。半田宗一郎です。」


僕は一瞬耳を疑った。


「えっ!?半田自動車ってあの世界のHANDAですか!?」


「そうです。この方はその創始者であり、社長です。ちなみに今回のレースに出ていたユメカラサメタラの馬主でもあられます。さぁ社長行きましょう。」


「そういうわけだ!まぁそんなたいしたもんじゃないけどな!がははは!」


とおっちゃんは高笑いをしながら黒服に連れられて行った。

僕は目の前で起こった事柄についていけずしばらくぼーっとしていた。
家に帰っておっちゃんにもらった後も馬券を眺めながら今日あった出来事を思い返す。
まず、毒を盛ったはずのユメカラサメタラが勝利する波乱。そこで僕の人生は終わったと思った。しかし、おっちゃんがこの800万円の馬券をくれた。何よりあのおっちゃんがあの半田自動車の社長だなんて。

僕はおっちゃんにもらった馬券を換金し、借金を全て返すと競馬から足を洗った。


それからしばらく月日は経ち、ある日ふと新聞を読むと一面に


「世界のHANDA、次世代の革命的技術開発!!」


と書いてある。
内容を詳しく読んでみると、

ロボット研究等で世界トップクラスの技術を持つ世界のHANDAがまた業界に革命をもたらしました。HANDAは次世代の移動手段としてUMA(ウーマ)を開発。本物の馬と区別がつかない程精巧にできており、肌の質感、体温まで忠実に再現。動力源はなんと水と草。水500mlと草200gで100kmの走行が可能。最高時速は120km/h。速度もつないである手綱の握り一つで簡単操作が可能。走る姿も馬そのもので見分けはほとんどつかない代物だ。コンピューター制御により安全性も保証されており、次世代のエコ技術の革命として注目が集まっています。

という文章。そして、横に添えられていた写真には高笑いしているおっちゃんと少し小柄で無機質な目をした馬が写っていた。
目が覚めた。
身体中がだるい。
辺りを見回したが知らない所だ。病院らしく薬品の匂いがする。
少し歩いてみようと思い、ベッドから立ち上がろうしたが手を離した瞬間その場に崩れ落ちた。足に力がうまくはいらない。腕も全く同様だった。
僕がしばらくその場から動けないでいるとドアが開き、看護婦さんらしき人が入ってきた。そして僕を見るなり、

「せ、せ、先生ー!!!!」

と叫んでそのまま消えてしまった。

なんだあの驚き様は…

まぁいきなり床に座り込んでいる変なやつ見たらそうなるか、なんて事を考えているとさっきの看護婦さんと医師らしき人が入ってきた。

「目が覚めましたか?」

「は、はぁ。」

その医師らしき人は僕を抱き抱えるとベッドに僕を置いた。

「どこまで覚えていますか?」

「どこまで?」

僕は記憶を手繰り寄せた。

「薬を飲んで彗星のシッポが見えたのを確認したら気を失って…。」

「そうです。あなたは彗星から地球を救って、そのまま気を失って倒れた。実はあの日から10年経過しています。」

「は?10年?」

「そうです。あなたは脳は過度の力の使用に耐えきれなくなり、あなたが倒れた時にはもう脳死寸前でした。それをあなたのおじいさまがすぐに超回復液をあなたに飲ませ、なんとか休眠状態に留めた。しかしそれでも脳が正常に働くには10年もの年月が必要だったようです。」

「そうだったんですか。10年も。」

「そして残念ですがあなたのおじいさまは5年前に亡くなってしまいました。」

「え?嘘だろ…じぃちゃんが…。」

「実験中に不運な事故で…最後まであなたを起こすための研究をされていました。」

「じぃちゃん…。」

「それであなたのおじいさまからお手紙を預かっているんですが…。」

「手紙?ちょっと見せてください!」

医師はベッドの横の机の引き出しを開けると手紙を取り出した。
僕はそれを受けとると封を開け、読んだ。手紙を全て読み終えると医師に聞いた。


「先生、今日はいつですか?」

「2015年7月10日です。」

僕がうつむき黙っていると、医師は口を開いた。

「あなたが今日、目覚めたのも運命としかいいようがありません。こんなことをあなたに言うのは間違っているかも知れませんが、いい決断をして頂きたい。我々はあなたにお願いするしかない。」

僕は目をつむりしばらく考え、

「…先生。俺をあの町に、じぃちゃんの家に連れて行ってください。」

そう医師に告げた。








タケシへ

お前がこの手紙を読んでいるということはわしはもうこの世にはいないんじゃな。
今、この手紙はお前が彗星から地球を救って5年が経った日に書いている。
お前が目覚める確信もないがもしものためにこれを書き記しておく。

あの日、わしはお前が倒れて病院に運ばれてから色々と考えておった。というのもどうしても納得できない点があった。
それは、「果たして彗星は動いたのか?」じゃった。
たしかにシッポは見えたし、軌道は反れていたが…。
もし違うなら…わしにはひとつ嫌な予感もあった。
わしは急いで研究室に戻り、天体望遠鏡でカマル彗星を調べた。するとカマル彗星はやはり本来の軌道から何も変わっていない事がわかった。
そして、ある結論にたどりついた。

動いたのは「地球」そのものだった。

彗星との距離が離れすぎていて力が及ばないと判断したお前は地球そのものを動かすことを思いついた。地球も真空空間に浮かぶ一つの物体と考えればその可能性もある。
結果、彗星は衝突軌道から外れ地球は救われた。
しかし、ここで新たな問題が発生した。
それは、地球の公転軌道が変わってしまったという事じゃ。これによって今地球は異常気象が大きな問題になっておる。だが、そんな問題はかわいいもんでもっと重要な問題が人類に迫っている。それはこのままの軌道で太陽の周りを公転し続けると今から20年後に地球は火星と衝突するということじゃ。
惑星同士の衝突。今度こそ全てが終わるじゃろう。
まぁこの辺くらいはお前も想像しとっただろう。

しかし、最後に一つある事実を伝えておこうと思う。

それは、まだ地球を救う方法があるという事じゃ。

狂ってしまった公転周期を正確に元に戻すなんて事は不可能に近い。だがそれをほぼ正確に戻せるときが一度だけある。
それは2015年7月15日に起こる「日食」じゃ。
本来この日食はわしらの住んでいる町から見えるはずじゃった。だが、公転周期が変わったせいでこのままじゃとわしらの町からはきれいな日食は見れん。
つまり、わしらの町で綺麗な皆既日食を起こすことができれば地球は本当に救われるということじゃ。

もちろんこの方法はもう一度「あの薬」を使わなければならん。お前が目覚めることも考えて改良は重ねたがもう一度地球クラスの物体を動かすとなるともう次はお前の命は保証できん…。
本当に何もしてやれんで申し訳ないな。

以上、伝えたいことは終わりじゃ。あとはお前の判断じゃ。

ただなタケシ、一人の孫を持つじじいとしてはお前には普通の人生を楽しんで欲しい。薬によって失った時間を取り戻して欲しいんじゃ。
わしのせいで一番大切な時間を失ってしまっておるからな。
まぁ、今更言っても仕方がないしこれを見ることがあるかもわからんが…健闘を祈っておる。


                                             じいちゃんより













「ママー!!!!!」


「こらー、りな!いきなり走り出したらあぶないでしょ!」


「お外見てー!!お日様が食べられてるー!!」


「あらほんとねー!」


「すごーい!お日様も食べられちゃうんだー!このまま全部食べられちゃうのー?」


「大丈夫よ。全部食べられはしないわ。」


「あれー!!でもどんどん食べられちゃうよ!!」


「え?ほんと?皆既日食はこの町からは見えないはずなのになんで…。」


「すごーい!あっという間にお日様全部食べられちゃったよ!!!」


「あれ?おかしいわね。でも…きれい…。」


そこにはくっきりときれいな太陽のダイヤモンドリングが光っていた。
「じぃちゃん!」

僕は久しぶりにじぃちゃんの研究室に訪れた。

「あっいたいた!じぃちゃん何してんの?」

「おータケシ!今な、また新しいのを開発中なんじゃ!今度のはすごいぞー。」

「ふーん。またなんか怪しい感じがするけど?」

「バカモン!怪しいとは失礼な!ご、ごほん!今回の発明はな間違いなくノーベル賞をもらえるぞ!聞いて驚くなよタケシ!この水に見える液体はな、その名も超回復液じゃ!この超回復液はな、飲むと人間の体から疲れを吸いとってくれるんじゃ。つまりこれをコップ一杯飲めば排泄物と一緒に1日の疲れが流れ出て元気になるという代物じゃ!しかもなんと副作用ほとんどない!ちょっっっとだけトイレが近くなるくらいじゃ!」

「へーすごいじゃん!そのトイレが近くなるが気になるけど!」

「ま、まぁそこは今から改良しようと思っとる所じゃ!」

「ちょっと飲ませてよ!」

「バカモン!お前はすぐにそうやって…」

「あーもうわかったわかった。あっ!そういえばさーこの前テレビで見たんだけど巨大彗星が近くに来てるんでしょ?」

「あーカマル彗星の事か?」

「そうそう、あれって普通の彗星とちょっと違うんだね。彗星ってシッポみたいなのが生えてるじゃん普通!でも今回のやつなんか火の玉みたいだったよ。」

「実はな、それには理由があってな。学者達は世の混乱を避けるために公表しとらんが実はあのカマル彗星はまっすぐ地球に向かっておるんじゃ。だからシッポは見えない。あれは横から見た時しか見えんからな。」

「え?それどういう事?」


「つまり、カマル彗星はこのままじゃと地球にぶつかるという事じゃ!最新のデータじゃと今から約3か月後に衝突しよる。」

「え?えっ?どういう事?衝突ってそれ地球やばいんじゃないの?」

「やばいも何も衝突した所が陸地なら衝突した国はもちろんだが、その衝撃で巻き上がる埃が世界中を覆い、世界は闇の世界に陥る。仮に海に落ちても世界中に大津波が押し寄せ世界はそれに飲み込まれ、大半の生物は死んでしまうじゃろうな。」

「えっ、ってことは…どちらにせよやばいじゃん!」

「そうじゃ。どちらにせよカマル彗星が地球に衝突すれば人類はおしまいじゃ。」

「えー!?!?」

「はっきり言ってあれはかなりやばい。あれだけ大きな彗星を破壊するのは今の人類の科学では難しいじゃろうし。ただ学者達は世の中が混乱するからギリギリまで発表はしないつもりじゃろうな。」

「どうするんだよ。」

「まぁ裏で国のトップが話し合って策は練っとるだろうがな。どうなるかじゃな。」

後日、国連は距離を測るという理由でカマル彗星にレーザー光線を当てる事を発表した。
じぃちゃんはそれを見て少しにやけながら、

「なるほど。高出力のレーザー光線でまるごと砕いてしまおうという事か。なかなか考えよったな。」

「レーザー光線で砕けるの?」

「いや、難しいじゃろうな。あまりに遠すぎる。ただそれくらいしか今の科学でできる策がないんじゃろうな。」

「じゃあこれが失敗したらまじでやばいってことじゃん!」

「うーん。まぁ今はただ様子を見守るしかないわい。」

2か月後。
じぃちゃんのいう通り、国によるレーダー破壊作戦は失敗に終わり、カマル彗星はその大きさを保ったまま地球にめがけて宇宙を飛行していた。その後もあの手この手で策を講じていたが結局全て失敗に終わった。

「じぃちゃん!」

「おータケシ。どうした?」

「あれからテレビでもカマル彗星について全然情報がないんだけどカマル彗星ってどうなるの!?」

「このままじゃともうほぼ間違いなくぶつかる。」

「まじ!?やばいじゃん!てかなんでじぃちゃんはそんな余裕なんだよ!」

「わしはもう十分生きたしみんな一緒に死ねるならそれもいいかと思ってのー。」

「あーもう何言ってんだよ!俺まだ死にたくないよ!」

「とはいえ、わしらにできる事なんか祈るぐらいしか…」

「はー。どうしよ…まだやりたいこともいっぱいあったのに…。」

僕は頭を抱えた。その時、一つの策が頭にひらめいた。

「ま、待てよ。これならいけるかも。じぃちゃん!これならいけるかも!」

「なんじゃ急に?…お前…まさか…。」

「そうだよ!テレキネシスで彗星を動かせれば地球は助かる!」

「バカモン!!!そんな事、どれだけの薬を飲まなければならないと思っておる!!それにまずあんな巨大な物体を動かせるわけなかろう!」

「いや、そうとは言えないよ。真空の宇宙空間なら少しの力を与えれば横に反らす事ぐらいはできるんじゃ?」

「うーん。確かにそれはあるかもしれんな…ただそれは彗星自体に力を加える事ができなければ成立せんぞ。今のままじゃあまりに遠すぎる。」

「だから彗星が最も地球に接近してくるギリギリを狙う。」

「それならもしかしたら…。やっぱりだめじゃ!タケシ!お前死ぬかも知れんのじゃぞ。」

「どうせ死ぬならみんなを救って死にたいじゃん。」

「お前…わかった。わしもとにかくそれまでに薬を改良してなんとか副作用を少なくしてみるわい。」

「頼んだよじぃちゃん。」


そしてついにカマル彗星衝突まであと1日という日を迎えた。

「じぃちゃん。ついにこの日が来たね。」

「あー。もう月より大きく見えとるな。」

空を見上げるとそこには青白く綺麗に輝く物体があった。

「この辺も人の気配がないね。」

「あー。こうも短期間に荒れ果てるとはのう。地球滅亡を知った市民が暴徒化してたのももう収まりつつあるようじゃな。」

「やっぱり最後の最後はみんな大切な人と一緒に静かに過ごしたいんだよ。」

「そうじゃな。」

「じぃちゃん薬は持ってきてくれた?」

「あー。なんとか改良して副作用を少なくはできたがどうしてもなくすことはできんかった。」

「仕方ないよ。じゃあ時間もないしやろうか。」

「そうじゃな。一度大気圏に突入してしまうと引力が強すぎて避けるのは難しくなる。今が最後のチャンスじゃ。」

「ふーーーー。さあ、勝負だ。」

僕はゆっくり深呼吸をしてから、瓶のフタを開けそれを半分くらい一気に飲んだ。

「ん。ぐ、ぐ、ぐわーーーーー!!!うわー!!!あー!!うー。あーーーー!」

強烈な頭痛が頭を締め付ける。

「はー!うぐっ。うーー!うっ。はぁ、はぁ、はぁ。」

しばらくすると頭痛は治まり、頭が覚醒してきた。

「大丈夫か?タケシ?」

「あー。なんとか大丈夫。いける気がしてきた。やってやる。」

僕は空を見上げて青白く輝く物体に意識を集中した。

「うおーーーーー!動けー!!」

僕は渾身の力を込めた。

「くそ。だめじゃ。やはり物体が遠すぎる。やはり届かんか。」

「くそー!動け動け動け動け動け動け動け!!」

僕は意識をさらに集中した。回りの木々はざわめき、砂ぼこりが僕の回りを渦巻いている。
しかし頭上の物体に全く変化はなかった。

やはり…無理なのか。

僕はその場に崩れ落ちた。

くそ…こうなったらもうあれをやってみるしか…


「じぃちゃん。ごめんよ。」

「タケシ!やめ…」

じぃちゃんがそう言い切るかどうかで僕は瓶にあった薬を全て飲んだ。

「タケシー!」

とてつもない頭痛が襲う。
「うがー!う、う、あーーーー!!!!!」

しばらく地面をのたうち回っていると次第に意識がすっきりしてきた。

「ふぅ。ふぅ。ふぅ。…よし。いける。」

僕は意識を集中した。
直後、巨大な地響きが鳴り響き、辺りの木々は倒れ始めた。

「す、すごいパワーじゃ。」

「うおー!!」

僕が力を込める。

「うん?お!う、動いとる!!シッポが見えてきとる!タケシ!動いとるぞ!」

「うあーーー!!!」

僕が最後の力を振り絞りその場に倒れ込んだ。

「タケシ!!タケシ!大丈夫か?タケシ!」

「じ、じぃちゃん。どう?うまくいった?」

「あー!成功じゃ!見てみ!」

じぃちゃんが指差した先には綺麗な尻尾を出した彗星があった。

「よかったー。俺もう眠たいや…。」

「おい!タケシ!おい!くそ!思ったより早い!このまま死なせるものか!」

こうして僕は眠りについた。