徳村慎
暑い日が続いていた。雨が降っても蒸し暑く、晴れたらそれこそ猛暑だった。
仕事からの収入が入らなくなってもう半年になろうとしていた。
那智黒石の体験の一部だけを収入としてもらっていたのだ。この那智黒石の世界は縮む一方で、後継者がいない世界だった。
だからといって、何とかしようという気力も無く、的村一心(まとむらいっしん)は、それでいて明日を憂えていた。
蓄えが無いことはない。
しかし、それも半年後は遣(つか)ってしまって失くなるだろう。
蓄えを食い潰(つぶ)すばかりで、稼ぎを増やすことが出来ないのは痛い。
一心は、何が幸せかを自分に問うた。
趣味をやっている時が一番幸せには違いない。
音楽、ドローイング、デジタルペイント、コラージュ、夢日記、メタ認知、俳句モドキ。
数々のお金のかからない趣味が浮かんだ。
あるいは、ダイエットや瞑想の記録とか。
ダイエットは成功しているのか、していないのか分からないが、とにかく記録している。瞑想は、ゼロ円で出来る趣味だ。
しかし、最近は5分間の瞑想で呼吸に集中することすら出来なくなっている。
これは心が乱れてるからかもしれない。つまりは、お金の心配だ。金銭的に困窮すればすべて上手くいかないような錯覚に陥(おちい)る。
これが自殺への道の第一歩じゃないか、と思う。
健康体ならば笑っていられるだろうが、一心は統合失調症だ。鬱の薬も飲んでいる。
何が幸せかを自分に問う。
メタ認知というメモ書きで自分の気持ちを炙(あぶ)り出すのだ。すると2〜3時間かけて出てきた答えがある。
すこぶる単純なことなのだが、一心は芸術が好きだ。芸術家と呼ばれたいと思っている。
やっていない芸術は何か?、、、と考えた。
その答えが皮肉なことに実家の仕事の那智黒石と小説だった。
那智黒石は父と話し合って、儲(もう)けられるように考えて、それでも立ち行かなくなったら、福祉のお世話になるしかない。
では次に自分だけで解決する芸術、小説はどうだ?
、、、と一心は自分の作るもの全てを作品ではなく、芸術と呼びたがっているのだった。
そうだ。小説を書こう。
ペンネームは、的村一心をもじって徳村慎なんてのはどうだ?
この困窮した自分をモデルにして小説を書こう。
出だしは、、、
暑い日が続いていた。雨が降っても蒸し暑く、晴れたらそれこそ猛暑だった。
仕事からの収入が入らなくなってもう半年になろうとしていた。
と書こう。そう。創作ではない。これは現実だ。
ノンフィクション小説だ。
一心は、思う。西村賢太にはなれない。
それでも良い。あんな難しい漢字熟語が書けなくても良いんじゃないか。
小説を書くと憂いは半減した。
あるいは那智黒石をやっても憂いは減るのかもしれない。
Tシャツにトランクス姿のままで、小説を書いていた。そして痒(かゆ)く感じた脛(すね)をボリボリと掻(か)いた。
何かが始まる予感がした。
それは予感で終わるものかもしれないが、少しだけ嬉しく思ったのだった。
最後まで、読んでいただきまして、、、
ありがとうございます♫
😊😅🥲😘😛🤨😋😆