ノンフィクション自作音楽『脱皮』2017.9.28.
徳村慎
アルバム『脱皮』2時間37分30秒
今回はアルバム。1曲1曲録り貯めた音楽。ロックを食ってロックをひる、なんて言葉があったと思うが、僕は音楽を食って出したのだろうか? そろそろ現代音楽のマンガ『ミュジコフィリア』からの影響が自然に取れて来たような感覚がある。つまりこれまで影響を受けて来たもののひとつとして『ミュジコフィリア』が収まったのだ。
1.
川の林のざわめき。フィールドレコーディング。鳥や虫たちの声。そしてiPhoneアプリの短めの音色のピアノ。確かPianoVだったと思う。
車の音が通る。朝の川辺の林にハトの声。
2.
KORG Kaossilator(スピーカーはKORG monotronDELAY)ではじまるシンセのループ。そして、デジタルシンセRoland XP-10のピアノ。(スピーカーは噴水スピーカー)
鍵盤を叩く音が入っている。
アシンク(シンクしない)のまま進む。
そしてドラムが入って、一気にシンクへ。
混沌(アシンク)から秩序(シンク)が生み出された瞬間のような宇宙生成の音楽にも聴こえる。
そしてドラムが消えかかる。
トランペットの音。ディレイで飛ばす。
ピアノがアシンク気味な世界に投入。フィルターカットオフでピアノの世界。
Kaossilatorが赤子の産声のように聴こえる。ピアノは母胎を取り巻く世界か。
フィルターを戻す。
ピアノは混乱しながらも出口を求める。
フィルターをカットオフ。
ピアノが成長する胎児であり、成長した後の老人でもあるようなイメージ。
列車の音がする。
細かいドラムの(ハイハット)シンバル。
BPM160ぐらいだろうか?
ピアノを叩く音が物的な、物質主義的な感覚を与える。大地の位相。
母の歌声。ハプニングが混沌を生む。逆も起こり得る。混沌がハプニングを呼ぶというか。
ディレイで飛んだ音。
まるで小さな『原子心母』ではないか。オーケストラを用いないオーケストラというか。母の声が入ったり消えたりすることで、複雑な音楽となっている。
おおらかに周りの音楽を飲み込む混沌が僕だ、と主張する。『千と千尋の神隠し』に、出て来た化け物のようになんでも飲み込む。
ピアノとトランペット。
そしてピアノだけの世界へ。
それから再びKaossilatorとのかけあい、というかアシンク。坂本龍一のアシンクとは意味が異なるかも知れない。坂本龍一のアシンクには地球の音像を解析した感じがあるが、アンビエントという感覚が底辺を貫いている。
3.
ZOOM ST-224とKORG monotronDELAYだけで作った曲。音源はmonotronDELAYだが、工場のようなインダストリアルな音に聴こえる。
アシンクなインダストリアルというべきか。
少し、ST-224内のエフェクターも使っている。蝉のようなチューブから絞り出されるような油で歯車が滑るようなイメージ。
アシンクな工場の世界は続く。『ダンサー・イン・ザ・ダーク』のような。
サンプルすると音は一度死ぬ。そのサンプルに別の意味を与えてこそ生きるのだ。そこに生きたままのmonotronDELAYの音をぶつけることで、サンプルは別の意味を持ち生きる。生きてしまうのだ。
インダストリアルが美しい。溶接での火花のような。
宇宙船のような巨大な塊が動く。工場はまたどっしりと立ち現れる。
作業用ブーツの音のような。足音から、金属を叩く曲げ加工のような音へ。
金属を切断したり形を変えていく。
4.
インダストリアル第2章。
ツイキャスで配信したため、「ありがとうございます」の声が入る。
大きな円盤型のノコギリが回転してる。そんなふうに聴こえる。アナログシンセmonotronDELAYは最強のシンセかも知れない。
ノイズマシンが欲しかったっけ。そしてmonotronDELAYを選んだんだった。安価で手に入り、思い通りの音が出せるこのアナログシンセ。ノイズマシンとしても使える。
円盤型のノコギリばかりが動く。水冷式の機械が冷やされて、切断するたびに持つ熱を逃がそうとする。
宇宙船が旅立つ。
工場は小さな霧状のものに解体されて、宇宙人同士がテレパシーで会話する。
グレイだけじゃない。ウミウシみたいなやつから、猿のように毛深いやつまで。『M.I.B.』の世界だな。
回転して電波探すアンテナ。
地上に降り立つ僕ら。
これが本当のノイズ系だ。他の追従を許さない。そう確信出来るほどにノイジーでカオス。
円盤型ノコギリが材料を切っている。
ジェル(機械油)が可動部分に絡みつき、どんどん動く機械。
駆動部分。可動パーツ。回転して求める女性的な機械。機械の音に電子音が混じり、遠くで鳴り続ける。
小さな刻みを入れる機械。
破砕ドリルで穴を開ける。
唸る機械は動物のようだ。
ベルトコンベアー、スプリング、水と油。黒光りする機械。
第1章と、全く同じ素材とは思えないほどに、機械は黒く動く。
滑車。ワイヤーのねじれる音。
エロティックな機械たちのあえぎ声。
穴を開け曲げて金属加工は果てしなく続く。永遠の繰り返し。工場内の暗がりは、真っ黒だ。もはやmonotronDELAYは楽器ではないのだ。映像を描き出す悪魔のマシン。フィールドレコーディングに負けない音像をmonotronDELAYの音を重ねるだけで可能にしている。
火花が散る。昔懐かしい、小学生の頃に通った通学路で聞いた、工場の音。ああ。懐かしい。金属の匂いがしそうだ。血液にも似た鉄の匂いに妙に高ぶるような、男子のマシンへの憧れってこんなところから来るのか。
汚しは大切だった。絵を描くならば、錆びて朽ちていきそうな部分に魅力を感じたものだ。完成された作品よりも、作品を作る過程にこそ全ての命がズラリと揃っていた。
これでもか、と僕の脳内に注ぎ込むノイズが具体化して。物質は、人間の手で生まれる。人間の作った機械で生まれる。動物の生殖だって、機械じみた叫びと血と汗で生まれるのだ。
次第に高くなる機械の音。そして下がり、上り、全てはノイズへと消える。
巨大なカットマシンが薄い鉄を切っていく。鉄のオカリナのような音だ。機械はついに歌うのだ。
5
ブルース。(アコースティック)ギターとスキャットの歌。
列車が通る音。
このギターはオープンチューニングにしてある。相対音で低い弦からソドソドミソだったと思う。相対音でC、C、F、C、、G、F、C、G、かな?
6.
シタールふうのチューニング。アラビア音階。確か、相対音で低い弦からソドソドファファ、だったと思う。低い4つの弦はドローンとして鳴っている。
7.
ライアーハープふうのチューニング。ペンタトニック。相対音で低い弦から、ラドレミソラ。解放弦を右手のみで弾く感じ。
8.
iPhone5sを使ってKORG Gadgetでバッキングを鳴らす。その上にニンテンドー3DS のバンドブラザーズPのサックスを入れる。ボタン操作で少しタイムラグというかボタンを押した瞬間の微妙なグルーヴというか。そういうものが生まれてとても楽しい。
バッキングがドラムのみになり、それも消えてサックスソロ。
9.
KORG Gadgetで作った曲をKORG monotronDELAYのフィルターとディレイでRemixに近いことをやる。
VPMシンセChianMai(KORG独自のFMシンセに近い構造のもの)のベルっぽい音がして、スペーシーかつノイジー。
あとはDublinのセミモジュラーシンセも効いている。確かS-H(サンプル&ホールド)で音を変えていたように思う。
かなりツイキャスでやられてるノイズ系の人の影響を受けている。その人はアナログフォーという機材を使っているそうで、僕の安物とは比べものにはならない音の太さなのだが、僕は僕で、別の道としてのノイズ系が出来てると思う。
10.
ニンテンドー3DS で今まで録り貯めた曲。かつて使っていたQY8のような素直な音がする。チップチューンふうの音も良い。
10.-1.チップチューン。
10.-2.アラビア音楽っぽいボーカロイド。
10.-3.有名クラシック曲からの引用。変えていこうぜ世の中、というイメージ。
ロックなドラムにピコピコした装飾音とメロディのヴァイオリンとベースの代わりのチェロ。
10-4.和太鼓の曲。途中で電話が鳴って僕が受話器を取って返事をする声。
11.
iPhoneアプリKORG GadgetのセミモジュラーシンセDublinを主に使った作品。ノイズを多めにして、ドラムのような音も奏でている。そして補助的にドラムマシンのLondon、デジタルシンセのMarseilleでTAPE STRINGSを使っている。メロトロンのようなストリングスは気持ち良い。本当に好きな音だ。
やはりDublinのS-Hが効いたノイズ系の曲だ。
12.
iPhoneアプリKORG Gadget でいろんなガジェットを立ち上げて作った。
最初はアシンク系に聴こえるが、しっかりとシンクしている。
アフリカンハウスの独特な4つ打ち。ドッッッ、ドッッッ、ドッッド、ッッッッ。
13.
テクノなベースにロックなドラム。
2台のKamataが奏でるチップチューンというか独特なロービットシンセ。
そこにMarseilleのトランペットが炸裂! ……テクノ版マイルス・デイヴィスのビッチェズ・ブリューを意識した。
14.
iPhoneアプリsoundropという楽器とゲームの中間のようなもの。球が落ちてきて線を引くとそこに当たって音を出しながら跳ね返る。複雑になるとガムランのように聴こえるアプリ。
15.
iPhoneアプリ。cloudieというゲームと楽器の中間のアプリ。雲が流れて来てそれをひたすら叩くだけ。和太鼓のような音などが鳴る。ルーズなビートが鳴る。
16.
iPhoneアプリPanDrumLite
柔らかなスティールドラムにも似た音色。これでアルバムの最後を飾る。
2時間37分30秒
*全編通して、死生観が現れたような気もする。それはカオスへの導きでもある。独自路線が現れたというか、ツイキャスなどのノイズ系に影響されたというべきか。マンガ『ミュジコフィリア』からの脱却。いや、完全に抜け出てる訳じゃなくて、影響の1つになったような感覚。じゃあ、アルバムタイトルは『脱皮』にしよう。