小説『赤髪ソナーとマナブ』
徳村慎
希死念慮を持った女性が居た。
赤髪ソナーという名前だ。
死にたいけど、死にきれんのよ。
そんな言葉をつぶやいた。
それは生きたいのに生ききれてないのと同意義だ。
赤髪ソナーは歌をうたう。
誰かが作った歌に自分を重ねてうたう。
それだけ純粋なのだろう。重ねられる歌がたくさんあるというのは。
ステージを下りて暗い部屋からLINEメールで僕に訴える。死にたいのだと。
自分で歌を作ってる僕は不純だ。
有名になりたいとか金持ちになりたいとかモテたいとか、いやいや、最も不純な動機は、自分に酔いたいことだ。
なぜ酔いたいのか。
それは薄々自分の弱さに気づいていて、弱さを隠したいからじゃないのか?
僕は天才だ、と言い続ければ僕自身は僕のことを天才だと思えるかも知れない。
でもそのポジティブさは、影のネガテイブな自分を隠してるに過ぎない。
赤髪ソナーは言う。マナブは夢を見てるんじゃないよ。現実から目を背けてるだけ。一度もステージに上がろうとせんやんか。
確かに僕は言われる通り、ステージに上がろうとはしない。
特技のぬいぐるみ製作でお金を儲けてる。決してステージで歌えるようなプロにはなれないと分かってる。分かってるけど、楽器を買っては曲を作って自分で聴いている。
自分が聴くためだけに自分で曲を作り歌っている。
赤髪ソナーの夫はギタークラフトマンだ。時々ステージに上がって自慢のギターを弾き、赤髪ソナーに歌わせる。
ぬいぐるみ製作は、ちっとも上手くならない。売り上げも伸び悩んでいる。もっと上手いやつは幾らでも居る。じゃあ、なんで、生きてられるぐらいには売れてるんだろう?
いっそのこと、ぬいぐるみが全く売れなくなってしまえば、僕は歌をうたうためにステージに上がるのにな。
器用貧乏なのは、どっちつかずで終わるさ。特技を仕事に。好きなことは趣味に。それでいい。それでいいはずなのに、迷いがある。
ステージで大恥かいて、否定されるのが怖いから言い訳してるって、アドラー心理学なら分析しちゃうんだろうな。
こっそり赤髪ソナーが歌ってる姿を見つめる。酒をひっかけて、店を出る。
ここに来たことを後悔している。赤髪ソナーが抱きしめてくれたことを思い出してしまう。
僕はギターを売ろうとしていた。
でも、中古リサイクルショップに入ろうとして、やめた。
これで良かったんや。まだ、こいつは弾いたらなアカン。
LINEメールで赤髪ソナーに言ったら、またかいっ。(笑)
って返事が来た。
モノレールがビルとビルをつなぐ大都会。乗り継いで自分の部屋に帰る。酒が回った頭でぬいぐるみを作ったら、いつもより笑える顔になっちまった。
泣いてるようにも見える笑顔のぬいぐるみを見つめて、僕は、笑った。
(了)