小説『潜水艦オリドンナノラ』中 | まことアート・夢日記

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まことアート・夢日記、こと徳村慎/とくまこのブログ日記。
夢日記、メタ認知、俳句モドキ、詩、小説、音楽日記、ドローイング、デジタルペイント、コラージュ、写真など。2012.1.6.にブログをはじめる。統合失調症はもう20年ぐらい通院している。

小説『潜水艦オリドンナノラ』中

徳村慎



5.接触


モニターに1人の半魚人が映った。少女の乗組員たちが慌ただしくデータを取っている。コンピュータ端末の前でデータのやり取りをする姿たち。

「追えっ。追うんだっ!」
僕はおそらく怒りの形相をしている。鏡を見なくても分かる。

1人だった半魚人が2人になった。どこへ連れて行く気だ?

モニターを前方に向けるとこの潜水艦の何倍もの大きさの直径の球体が見えた。いや、球体じゃない。あれは泳ぎ回る半魚人たちの群れだ。これは大きな戦闘になる。

室内モニターを見てみると少女たちが裸になり潜水服を着ているところだった。50人体制で半魚人たちと戦うつもりだ。

コンピュータに向かっていた1人が近づき喋(しゃべ)る。
「艦長。今、50人を待機させていますが、予備も待機させましょうか?」

「予備待機に第2軍隊、第3軍隊を用意せよ。コンピュータ端末での情報部隊も可能な限りで第4軍隊を組織せよ」

「第1軍隊用意が出来ました」

「第1軍放出」

モニターで海中では海中用バルカン砲を放つが球体状に集まった半魚人の群れの表面を削り取るのが精一杯だ。すぐに半数ほどが半魚人たちに食い殺された。

「第2、第3軍隊放出」

海中は血が海水に混ざり紫色に染まっていく。

「第4軍は死体回収せよ。放出」

「艦長、第5軍隊を前回の回収死体から回復させた者で構成出来ますが」

「よし、第5軍放出」

「回収死体は75名。科学医療室へ運びます」

「よし、第1、第2軍は戻せ」

モニターの中の不気味な球体は形をとどめている。やつら、全くこたえてない。無敵だ。やつら強くなってやがる!

「撤退。球体から離れろ。ひとまず撤退する」


6.『ピエル』第3章

*撤退した艦長は小説『ピエル』を読む。

僕はサンダとアリマと再会を果たした。「お前まだ日記つけてんのか?……あの即物的なヤツ」アリマはからかった。ピエルはニヤリとして拳(こぶし)をぶつける。アリマが言った。「戦争の任務が解かれてから、やることもなかったからな。俺は、すぐに部隊に戻ったよ。ずっと大阪だった。今まで大阪を離れて楽人生しんでたんだろ?」

「いや、全く楽しめなかったよ。戦争だけが良い仕事だった。コッチで中古ショップの店員とかやってたけどな。死んだような日々だった」と僕が言う。僕の中にピエルが戻って来たんだ。本当にそう思った。

クマノディアが荒れ果てて廃都となっていく。「諸行無常だな」とサンダが言った。生き残りの若者たちがパルクールを廃墟で行っていた。ちょっとしたショッピングモールだった。屋根の破壊された不思議な建物に変わり果てていた。どう不思議なのだろうか。僕が生きてきた街が破壊されていくことが不思議で。不思議な美だと思ったのだ。今回は3人が1つのチームだった。孤独が無い分、相手を気づかうから疲れた。サンダが若者たちにクマノディアから退去するように命じた。若者の1人が中指を立てた。まるで僕たちがここを破壊した怪物たちであるかのように憎悪のこもった目で睨(にら)んでくる。

ある日、怪物たちの出現パターンが変わった。俺たち3人は離ればなれになって行動することにした。「じゃあ、お前は沼だ。ピエル。それから、アリマは海。俺は山へ向かう。これで良いな?」とサンダが言った。それ以外の作戦は思い浮かばなかったから頷(うなず)く。

多足歩行ロボットに乗って沼を目指す。そして沼では独りで連絡ポイントを整備する。邪魔な物を片付けて空輸のドローンが停まりやすくするのだ。雨が降った。バルカン砲の予備を積み上げてテントを張った。

怪物たちが沼に現れた。こいつらがエイリアンだという話は誰も信じていなかった。アリマは言った。「あんな軍事兵器を作れるのはアメリカか中国だ。いや、ロシアかもな。インドだって分からねえ」なんて。憶測に過ぎないが怪物たちがロボットか半分生体のロボットであるのは間違いないようだった。「爆発した残骸をドローンが良く分析に持ち帰っているけどよ、分析はあくまでも分析。似たような兵器なんて、いつまで経っても出来やしねえ」アリマの言う通りだ。

日本の科学力の結集が日本の各地に都市国家を作り上げたんだが、そうやって国力を分散してからの科学力は伸び悩んだ。東京や大阪なんか砂漠にされたんだ。そして今度は熊野地方に出来た都市クマノディアが半分は砂漠になっている。勝ち目はあるのか?

ある日、怪物たちの子供みたいなものを見つけた。追いかけた。バルカン砲を撃ち続ける。向こうからもバルカン砲の音がする。無線を入れる。「向かい合ってるのはアリマか?」

「ああ。海から追いかけて来たんだ」

「こっちは沼からだ。撃ち合いになるから同じ方向に敵を逃がそう」

「了解」


7.立て直し。『ピエル』の世界へ

僕は潜水艦オリドンナノラを球体から遠ざけて岩礁の間に身を隠した。

船体を叩く音がする。なんだ?

モニターをチェックすると半魚人たちが追いかけて来ていた。泳ぐ半魚人で出来た球体もすぐそこに迫っている。

「退却!」
叫んだ瞬間、半魚人たちの球体が崩れて潜水艦オリドンナノラを包み込んだ。

モニターが真っ暗になる。
コンピュータの電源が落ちた。
潜水艦が軋(きし)んで音を立てる。
照明が消えた。
少女乗組員たちの悲鳴。
衝撃。

どれぐらい気を失っていたのか?

僕は身を起こす。いつの間にか艦長室内のベッドに寝かされていた。室内が異常な暑さだ。暑い。

艦長室を出てモニターに見入る。わずかな人員だけでモニターを復旧させたらしい。

砂漠だ。
この砂漠はどこかで見たような気がする。
どこでだ?
ひょっとして……『ピエル』か?
小説を読んでイメージしていた世界と同じ光景が広がっている。

3人の兵士たちがバルカン砲を構えてこちらに近づく。
兵士たちの周りにはおびただしい少女乗組員の死体だらけだ。

「お前たち。戦っていたのか?」

「艦長。生き残りは我々だけです。死体も回収不可能です」
この少女は正気の無い顔で言って自分の両脚の包帯を替えている。

「そういうことは医療室で……」
そこまで言って気づいた。少女の脚が無いことに。

艦長室に戻る。ウィスキーで薬を何錠か飲み込む。そしてノックの音に気づく。
「入れ」

「久しぶりね」
聞き覚えのある声に振り返る。

半魚人が居た。

「殺しに来たのか?」

「違うわよ。あなたに味方してもらいたかっただけ。あなたの軍隊がこんなにも弱いとは思わなかったけど」

「乗組員たちはお前の指揮に従ったのか?」

「私はどんな姿にでもなれるのよ。身体の表面のナノマシンで。それに乗組員たちには暗示をかけたのよ。誰も私が艦長でないと疑わなかったわ」

「恨んでいるんだろ?」

「それはあなたでしょ。まだ肩が痛む?」

「いや。心は痛いがな」

「もうすぐ私たちの味方が到着するわ」

「全滅だ。いまさら助かっても意味など無い」

「意味は、あるでしょ。再会出来たじゃない。そうでしょ?」

「元の世界に戻してくれ。小説の中ではなく、元の世界に」

「あなたの世界もあちらの世界では小説の中の世界なのよ」

「奇妙なもんだな。ファンタジーだ」

「SF(サイエンス・フィクション)なのよ。だってこれは潜水艦オリドンナノラの脳内の夢なんだもの」

「我々の世界は夢の中で、夢にも幾つも種類があって、それぞれが独立したパラレルワールドなのか。潜水艦は人ではないだろう。夢なんて見るのか?」

「あら、潜水艦だって夢は見るわよ」

僕はベッドに力無く腰掛けた。

「今ね。潜水艦が死んだから夢がつながってるのよ。人は死ぬときに全ての夢がつながるの。パラレルワールドが交わった世界こそ天国だと思わない?」

「潜水艦が人間ならば我々は夢に過ぎないのか」

「違うわ。人間は人間なのよ。潜水艦が神のような存在なだけよ」

「まさかその神を夢として扱う世界が無いだろうな?」

2人で笑った。それ以上は、どうとでも想像出来た。神を造った創造主が居て、その創造主を造った誰かが居るのかも知れない。それからさらに無限ループ。もはや、考えても仕方ないじゃないか。笑うしかない。砂漠の戦場で取り残された潜水艦の中ででも。


8.『ピエル』第4章

*艦長室で半魚人と向かい合いながらも小説『ピエル』を思い出していた。

怪物たちの子供は巣に入って行く。なんだ。こいつらにも巣があるのか。「こいつら巣を作るって知ってたか?」

「いや。この10年間ではじめてお目にかかるぜ」

巣の中へと2台の多足歩行ロボットに乗って進んで行く。静かだ。「こりゃ奥に進み過ぎると逃げられないぞ」

「敵の思うツボだな」

「ありゃ何だ?……ロボットか?」と僕が気づく。

そこにはボロボロの死体になったサンダが乗っかっていた。

ギリギリギリギリ。
巨大な歯ぎしりの音がした。怪物たちに囲まれている。色んな種類のヤツらが居る。バルカン砲をぶっ放(ぱな)す。しかし、すぐにバルカン砲は奪われた。空を飛ぶ巨大なコウモリみたいなのが居るらしいが巣の中の暗闇で分からない。

向こうでもアリマがバルカン砲を奪われる所だった。バルカン砲の砲弾の爆発で一瞬だけ見えたのだ。腐って骨が見えているサンダを見て胃の中のものを吐いた。酸っぱい。でも、これを抱えて戻るんだ。ぐずぐずに崩れた死体を抱えて自分の多足歩行ロボットに戻る。ロボットは脚の一本が怪物たちにやられたようだ。でもサンダの多足歩行ロボットよりはマシだな。あれじゃこの巣を出られなかっただろう。

予備のバルカン砲を持っていたらしくアリマがまたぶっ放しはじめた。アリマは背後を守ってくれている。「行くぞ、アリマ」

「了解だ。ピエル。早く逃げようぜ!」

俺たちは、ようやく巣から脱出した。沼のポイントまで戻るとテントや武器は荒らされて壊されていた。ドローンを呼んでサンダの死体を積み込む。また戻って来いよ。

僕とアリマは2人で沼のポイントでキャンプした。寝ずの番を自動センサーに任せて僕らは眠った。

深夜に自然と目が覚めた。
アリマは眠ったままだ。寝言で「もうええわ」と言った。笑えてくるのをこらえてテントの隅で椅子に座る。脳内アプリの小説文庫を開く。サルトルの『嘔吐』だ。読み終えていない本はワクワクする。何故か雨のシーンではないのに、今、雨音を聴いている皮膚感覚に似ている。つまり僕は『嘔吐』が好きなのだ、とピエルは思う。雨のようじゃないか。つまりピエルは雨が好きなのだ。

雨が続けば怪物たちはあまり活発でなくなり攻撃しなくなる。そんな時はどこを探しても怪物たちの姿は無い。不思議ではあるのだが、昨日は巣を発見した。つまり巣に居るのだろう。

怪物たちは遺伝子工学と機械工学を合わせた科学技術なのだと信じている。子供の頃にアメリカとソ連の冷戦時代が終わった。ベルリンの壁が崩壊するのをTVで観たのを覚えている。西ドイツと東ドイツが再び1つとなった歴史的瞬間。それらの国が共同で開発していたのだとしたら。どうなるのだろう?……つまりは世界中の人口を減らす目的で密かに開発されていたのが怪物たちなのだとしたら?

高校生の頃はオウム真理教による地下鉄サリン事件が起きた。宗教は危ないと考えられた時代だ。頭が良くても危ない人間が出来上がるということが証明された時代でもあった。今考えれば脳内チップも相当にイカれた考えだ。ガラパゴスケータイを脳内に埋め込む技術だったのだから。

そして19になる年に日本地下科学組織が自衛隊を巻き込んでのクーデターと日本各地都市の独立。科学技術の発達でナノマシン手術が大流行。脳内にTVやラジオやインターネットを取り入れるチップを埋め込むことが若者から広まって、数ヶ月後にはシェア150.25%に至る。つまり1日で1台以上の脳内チップを埋め込んだ日本人が居るのだ。ガラパゴスケータイをチップのサイズにまで縮めて、しかも安価で誰にでも買えるという点が革命的だ。

20歳で怪物たちとの戦争が起こる。どこの誰とも知れない敵を倒しまくる世界。分からないことだらけの世界。

え?……誰の声なの?……読者?……読者って誰なの?「阪神淡路大震災が無かった世界だから、別のパラレルワールドが成り立ったんだね」って、どういう意味なの?

僕は誰かの声を雨音の中で聴いた。幻聴だろうか?……確かに日本地下科学組織が発表したものには地震を止める装置の開発もあったと思うけど。でも君は誰だい?

アリマが寝返りをうつ。僕はそっちを見て自分が何を聴いたのか必死に考える。テントのシートに降り続く雨がやみそうになっている。僕は脳内の『嘔吐』を閉じようか迷った。

大いなる存在の名前は「読者」らしい。いや、この字ではなく「毒者」かも知れないし、「独者」かも知れない。僕がつながるパラレルワールドって一体何なんだろう?

「東日本大震災も熊本の地震も起こってないの?」

誰だ?……声が時折聴こえる。僕の生きてる時代に大震災なんて起きてないぞ。

「だから怪物たちが居るの?」

分からないんだ。怪物たちは何故存在するのか。アメリカかどこかの国が開発したんだと考えてる人が多いんだけど。僕は夢を見てからおかしくなったんだ。神様と話したから。いや、これは神ではなく仏様かも知れない。神仏いずれに属しても僕にとっては同じか。では神仏と呼ぼう。

「私も神仏を信じてるよ」

何故か女性の声に聞こえた。君は何歳なの?

「12歳」


(続く)