小説『ガルムスと少女の旅』3 | まことアート・夢日記

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夢日記、メタ認知、俳句モドキ、詩、小説、音楽日記、ドローイング、デジタルペイント、コラージュ、写真など。2012.1.6.にブログをはじめる。統合失調症はもう20年ぐらい通院している。

小説『ガルムスと少女の旅』3
徳村慎


雨が上がった。私とトイちゃんは「ワン、ツー、スリー、フォー」と声を合わせてダンスを踊る。東屋からもう少しで出発するらしい。トイちゃんは「1分でも、1秒でも良いから暇があればダンスの事を考えていたいの」と話していた。私も一緒に踊っていて気持ち良かった。巧みなステップに弾ける笑顔。「出発だ」とガルムスが声を掛けるまで踊り続けた。

夜の旅も良いものね。月が雲から顔を出して辺りを照らし出した。トイちゃんは転げる岩鉄の上でバランスを取って走り続ける。玉乗りだ。凄いバランス感覚。だって、こっちは馬で走ってるんだから。さすがダンスの達人だね。

暗い森の道を迷っているかのように進む私たち。月は高い樹々に遮(さえぎ)られ、足元は、ほとんど見えない。

「休憩だ」ガルムスが言った。大きな岩にお地蔵さんがある森の中。こんな森にも誰かが供えに来るのだろう、花が活けてある。虫の声が綺麗(きれい)だ。トイちゃんは汗をかいたのだろう、木陰でシャツを替えている。黒い肌に汗が光ってなまめかしい。ガルムスおじさんがロリ好きだから気を付けないと、と思って見ると、双眼鏡のような物でトイちゃんを見ている。

「何してるんですか?」冷たく私が訊くと、慌てるガルムス。「いや、これは、ね。夜でも見えるナイトスコープなんだけど、やっぱ毒蛇なんかがさ、でるとマズイからさ、見張ってんだよね。ははは。決してね。決して、覗きをやってたんじゃないんだよね」コイツ、覗いてやがったのか。大人は信用しちゃいけません。特に悪い大人は。

私は、岩鉄に報告する。「ねぇ。葉奈、見たんだけど」岩鉄はヘッドフォンで音楽を聴いていた。そのヘッドフォンを外してICレコーダーのスピーカーで鳴らすように切り替えて聞き返す。「何を見たって?」

「葉奈、見ちゃったんッスよ。ガルムスさんが覗いてるの、トイちゃんの着替え」私が怖い顔を作って岩鉄さんに言う。

岩鉄が渋い顔で言う。「ああ。ガルムスの悪い癖やな。全くもって、うらやまけしからん」

「はい?……羨(うらや)ましいんですか?」私は睨(にら)む。

「けしからん。うん。全くもってけしからんと言ったんやけどな。うん。けしからん。じゅる。けしからん余りにヨダレが出た」岩鉄さんがスライム状の腕を出して拭う。コイツもロリコンかよッ。

のっし、のっし。パキパキ。足音がして地面に落ちた枝や枯葉が踏み潰される音がした。見てみるとゴリラがやって来ていた。「奈津美(なつみ)姐(ねえ)さん。久し振りやねぇ」と岩鉄さんが声を掛ける。

「なんやしらん、ガルムスの声が聞こえたおもて(思って)来てみたら、岩鉄かん」とゴリラの奈津美姐さんが近付く。

「いや、ガルムスでしたら、今、向こうで……美の鑑賞に耽(ふけ)っている最中でして。ええ」岩鉄さんは何故か汗をかいているようだ。

「美の鑑賞ぉ?……覗きじゃないわよね?」奈津美姐さんが睨む。

「いえ。決してそんな事はありません。美にエロスが入る余地などありませんからッ」岩鉄さん、何故か必死?

「そないやったら、ええけど。まあ、美について語ろか。美とはなんや?……そう訊かれたら私は答える。スポーツの事や、と」奈津美姐さんが熱く語る。ゴリラの鼻息ってあらいのね。

「へぇ。そうでっか。スポーツいうても色々ありますけど」と岩鉄さんが合わせる。

「格闘技や。もっと言うんならな、総合格闘技や。地上最強の戦士は誰なんやっ?……ちゅう話やねん。んで、お前は曙(あけぼの)がボブサップとヤる時に、どんなルールがええと思うねん?」奈津美姐さんが身を乗り出す。

「ええと……アルティメットルールでええんちゃいますのん?」岩鉄さんが答える。

「いや、アカン。曙が本気でジャンプして倒れたボブサップにダイブして内臓破裂で殺したってもええ、っていうルールじゃないとアカン」奈津美姐さんの過激な発言。

蒼(あお)ざめた岩鉄さんが言う。「それって格闘技じゃなくて殺し合いですやん。幾らなんでもルールが無いとアカンでっしゃろ」

「格闘技って一体何が最強なんやろなぁ?」奈津美姐さんが訊く。「さぁ?」それしか答えられない岩鉄さん。

「相撲も投げ技は凄いしなあ。投げといて顔面をサッカーボールみたいに蹴ったったらええねん」奈津美姐さんは独りの世界に入って行く。

岩鉄さんが焦る。「でも、それは反則技なんとちゃいますかぁ?」

奈津美姐さんが更にディープな世界に入って行く。「ボクシングで掴まえて殴るのアカンってのも気に入らん。喧嘩やったらな、掴まえて殴るの当たり前とちゃうか?」

岩鉄さんは更に引いてしまっている。「いや、だから、それは、反則……」

「目を潰したり喉に拳当てたりアカンって何やねん?……喧嘩やったら当たり前やろ」奈津美姐さんはヒートアップする。

「だから、反則ですから、ダメですねん……」岩鉄さんが何を言っても聞かないから諦めつつも話しているのが分かる。ちょっと笑える。

トイちゃんがやって来た。「格闘技かぁ。身体の使い方から何か学べるかも」ダンスに貪欲だぁ。やっぱ凄いよ、トイちゃんは。「反則技って、まあ、ダンスには無いかも、だけど、ジャンルにこだわり過ぎて踊らない方がいいのかもねぇ。身体能力で使いたい技は何でもやるって気でも良いのかもぉ」

それを聞いて奈津美姐さんが熱く頷く。「そうやで。反則技でも目立ちゃ勝ちなんよ。サッカーボールを手で運んで、ボールの奪い合いからフットボールが生まれたようになぁ」

私が訊く。「じゃあ、未来には、フットボールのルールを破って新しいスポーツが生まれるの?」

奈津美姐さんが大きく頷く。「殺し合いをしてでもトライした方が勝ちというルールになるのよ、きっと」いやいや、ならないよぉ。

ガルムスさんがやって来た。「なんか恐ろしいスポーツですねぇ」

奈津美姐さんは腕をブンブン振り回して答える。やっぱゴリラって怖いよぉ。「死ぬか生きるか。これぞ究極のスポーツ。究極の美」

私が呟(つぶや)く。「う……美しいんですかねぇ?」

奈津美姐さんは目をギラギラさせて言う。「美しいのっ!……死と引き換えに点を勝ち取るスポーツ。これぞ美」

いつの間にか堂々巡り。トイちゃんが眠り、ガルムスも半分眠りながら頷き、私もいつの間にか眠ってしまった。

朝になった。目覚めると鳥の声が頭上から降って来る。森の朝は朝露が草の上に輝いて綺麗だ。やっぱり私には、こういうのが美だと思った。ゴリラのお姐さんは、もう居ない。トイちゃんがダンスのステップをゆっくりと確認していた。岩鉄さんが寝不足の顔で「おはよぉさん」と声を掛ける。ガルムスがカップヌードルにお湯を注ぐ。さあ、食べて出発だ。ガルムスの求めるロクリアンウクレレとそれを弾く少女ってどんなのだろ?

森の中。川に沿って曲がりくねった道を進む。ガルムスは鼻唄を歌ってのんびりと馬を歩かせる。小さなアブがホバリングして挨拶(あいさつ)する。春のような陽気。太陽が私たちを照らす。風が舞う。

黒いマントに包まれて私はロクリアンウクレレってどんなのか想像してみる。普通のウクレレとは違うのかな?……色んな形を思い描いて楽しむ。ウクレレってギターみたいな形だよね。三味線は四角い。バンジョーは丸い。バラライカは三角で。ロクリアンウクレレは、どんな形なのかな?

先を行く転がる岩鉄に乗ったトイちゃんが私に手を振る。「こっちだよー。早く早くぅ」熊野の森はまだ続く。





















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