小説『ガルムスと少女の旅』2 | まことアート・夢日記

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夢日記、メタ認知、俳句モドキ、詩、小説、音楽日記、ドローイング、デジタルペイント、コラージュ、写真など。2012.1.6.にブログをはじめる。統合失調症はもう20年ぐらい通院している。

小説『ガルムスと少女の旅』2
徳村慎


葉奈とガルムスと岩鉄が洞窟に入る。岩鉄が言った。「気を付けな。羽百足(はねむかで)だ。やつらに噛まれると痛いのなんの」羽の生えた百足が飛び回っている。それを捕らえて食べているコウモリ。その中に大きなコウモリが居て話し掛けてきた。「ねぇ?……君はどんな音楽聴いてんの?」

「葉奈は、普通にAKB48とか、ももクロとか、でんぱ組とか」と私が答える。暗闇でも夜光虫が蜘蛛の巣のような網の中で光り、宇宙のような感じ。

「ああ、そう。やっぱさ、真空管アンプは良いよぉ。可聴帯域がファットつうかさ。特にボーカルが良い。っていっても、真空管を交換したら、これまた、別の良さが出るんだなぁ。キャラが変わるんだよ。EQいじってんのとは、別だね。真空管のキャラだよね。LIVE盤だとギターの弦がビビってるのまで聞こえちまうぜ。枯れた音にすんのもアリだし、細密画のようなクリアな音にすんのもアリ。でもよぉ。オーディオで1番大事な事がある。分かるか?」

「注意深く聴く事?」私が答える。

「うん。まあ、それも良いね。でもさ。オーディオはな。例えラジカセでも気に入ってりゃ良く聴こえるって事なんだよ。気に入ってるオーディオ機器で気に入ってる音楽を聴く。これがBESTだな」

ガルムスが言った。「僕なんか、しょっちゅう壊しちゃうから100円のイヤホンだが、低音が出過ぎる最近の高いヤツよりゃ好きな音だよ」

岩鉄が言った。「俺は、色々持ってるけど。BOSEで聴いとったんやけど、何の音でも良くしちゃうんよなぁ。モニターっぽいヤツ欲しいと思って、そっからSONYに変わってさ。そうこうしてる内にCDやとな、持ち歩くのに不便やから、ICレコーダーに変わってな。OLYMPUSやけど。今はソイツにCD全部入れてVictorのヘッドフォンやで。まあ、確かにコウモリの言う通りや。気に入っとったら、それでええんやけどな」

「どんなの聴くんですか?」と私が訊いた。

岩鉄はニヤリとして答える。「ああ。俺は、何でも聴くからな。今、ICレコーダーに入っとるのは、8bitのチップチューン、TORIENAっちゅうGAMEBOYで曲を作る女子の音楽から、オーケストラの交響曲とか、そやな特にカラヤンの第5が今のお気に入りでな。ピアノのモーツァルトもあるし、ホルストの『惑星』も好きやし。ピンクフロイドの『原子心母』なんか最後の曲がフィールドレコーディングみたいな感じもあってなぁ。『ピアノレイキ』っちゅう海、雨、川のフィールドレコーディングとピアノの曲もええし。ロックやと意外にB'zのベスト盤やな。あれがミクスチャーロックとして聴けるんよね。ほいで、マイルス・デイヴィスのクール。クールちゅうんは、ジャズなんやけど、バップとかビバップが跳ねとるのに対して跳ねんリズムでなぁ。ええでぇ。民族音楽やとアラビア音楽のヤツも入っとるし、ラテンジャズのコンピレーションも中々ええでぇ。あ、BABYMETALも好きやなぁ。アイドル系テクノっぽいシンセ音とメタルっちゅう組み合
わせがたまらん。歌声も萌えるし。和太鼓の鼓童もええぞぉ。グッと来るわ。あ、そや、美空ひばりも聴くしな。演歌とか歌謡曲になるんかな。津軽三味線の津軽じょんがら節もICレコーダーに入れとるなぁ。3本の弦でああいう音楽が作れるいうんは、素晴らしいなぁ。オールディーズはな。映画の『スタンド・バイ・ミー』と『アメリカン・グラフィティー』のサントラを持ってとんねん。普通はポータブルのオーディオ、例えばiPodとかiPhoneとか使う人もおるんやろけどさ。俺はOLYMPUSのICレコーダーが気に入っとんねん」

コウモリが笑う。「あんさんも、好きですねぇ。熱いッス。自分は今言って貰ったiPhoneにDAC搭載の真空管アンプにヘッドフォンはSONY。アーマチュアドライバーなんスよぉ。キャンディーダルファーとかアース・ウィンド&ファイアーとかエレクトリック・マイルスとか好きっスね」

「この人たち熱い……」と私が笑う。ガルムスも、うんうん、と頷(うなず)く。「僕はラジオ派でね。特に何かを聴きこむ感じじゃないんだよ。ただ、NHK-FMは面白いよ。色んなジャンルが聴けて。最近聴いた邦楽ジョッキーでは尺八とピアノの合奏が心に残ったよ」

私が気付く。「あ、バラスラさんと話してた、チラリズムの琴とは違いますよねぇ」

ガルムスも笑う。「ははは。そうだね。聴きこむほどに音楽は飽きてしまう。永遠に飽きないのはラジオだったりするんだよ僕にとっては。だけど、飽きないようにするなら、たまに聴くのが良いのかもね」

洞窟を抜けると海だった。奇岩に囲まれて砂浜がある。太ったカモメたちが騒いでいる。和太鼓のようなリズムで海辺の漂着物を打ち鳴らしているのだ。太ったカモメたちは器用に羽を丸めて手のようにしてドラムスティックを持っている。漂着物のオイルの入っていたであろう缶やコーヒーの空き缶、ペットボトル、流木、プラスチック製の浮きや石ころなど鳴らせる物ならなんでも鳴らしている。

岩陰から出て来た身長20cmぐらいの二足歩行のカバたちが踊りはじめた。私は言って駆け出す。「葉奈も踊るぅッ!」
ステップを踏んでカバたちと踊ると全てを忘れられた。

何分経ったのだろう。雨が降って来た。カモメたちもカバたちも喜んでいる。雨乞いの踊りだったらしい。私は急いでガルムスの所に戻る。「楽しかったかい?」とガルムスが訊いてバスタオルを渡す。「うん。とっても!」はしゃぐ私をガルムスは抱き上げていつの間にか居た馬に乗せた。ガルムスの前に乗っている。馬ってこんなに背が高いんだ。「行くぞ、岩鉄」とガルムスが声を掛ける。「はいよぉ」と岩鉄がゴロゴロと転がって走って行く。岩が馬と同じスピードが出るなんて不思議だ。でも、この熊野では不思議な事ばかりだ。私は雨音と馬の上下する背中やガルムスの身体の温もりでいつの間にか眠ってしまっていた。

東屋(あずまや)で雨の音を聴きつつ目が覚めた。ガルムスがおんぶしてくれていて、ガルムスの心臓の音が心地良かった。もうちょっと眠ろうかと思ったけど、隣に香里奈ちゃんが居るので起きちゃった。急いでガルムスの背中から下りる。

「香里奈ちゃん?」私が驚くと、香里奈ちゃんに良く似た少女は言った。「誰それ?」よく見ると肌の色が黒い。黒人なんだ。「私の名前はトイ。あんたは葉奈っていうんだって?」

「うん」私は頷く。するとトイは尋ねる。「香里奈って、どんな子なの?」

私は慌てた。「うん……。なんて言うか、その」

トイが鋭く察する。「香里奈って子に虐められてたの?」

私は俯(うつむ)く。トイはニッと笑う。「大丈夫。私は香里奈じゃないからさ。それより……アンタ、ダンスが上手いんだって?……カモメたちやカバたちが一緒に踊ってくれるなんて滅多に無いよ。あいつら、ああ見えて警戒心強いからさ。ダンスがよっぽど上手くないと一緒に踊ってくれないよ。私でも人生2度しか一緒に踊ってないんだから」

私もトイの笑顔につられて笑う。「トイちゃんもダンス上手いんだね。向こうの世界の……人間界のね、香里奈ちゃんもダンスが上手くてさ。私は、ダンス好きなんだけど、香里奈ちゃんみたいには踊れなくて」

トイちゃんが言った。「ダンスも表現なんだからさ。技術だけを見せびらかしちゃダメ。技術も大事だけど、感情がこもってなくちゃ。ストップモーションから生み出されるのが感情じゃないなら、そんなもん捨てちゃえばいいんだよ。自由に踊る方が正解かもね。私も一時期はダンスの技術が大事だって思ってた。ちょっとダンスの出来ないヤツに偉そうな態度してたもんだよ。でもね。技術って結局、感情を伝えるための手段だからさ。技術が感情を伝えられないんなら技術なんて捨てちゃえばいい。ただね。先に行けば行くほど、感情を伝えるための技術は必要だって思うの。技術を学んだら、それを使って感情を表現する。っていうより、技術が身体に染み付くまで踊って、何もかも忘れて踊れるようにならるまでになったら、技術の事なんて考えない世界に行けるんだよ。そこまで行ったらさ。感情がある方が勝ちだよ。絶対。同じ技術で同点なら、感情こもってる方が上なんだよ」

私が言う。「葉奈は、技術無いから。そこまで考えた事ないよ」

トイちゃんはニッコリ笑う。「違うよ。きっと。技術が無いんならカモメたちが相手にしない。感情がこもってないんなら、カバたちが相手にしないよ。きっと葉奈ちゃんの踊り方は間違ってなんかいない。それにさ。感情の無いヤツに限って言うんだよね。アイツの踊りには感情が入ってない、とかってさ。違うんだよ。自分の事を他人の踊りに投影しちゃってるんだよ。俺の踊りには感情が無いって事に気付いた連中が周りにそう言うんだよ」

ガルムスが聴いていない振りをして馬の毛並みを整えている。岩鉄もヘッドフォンを付けて聴き入る振りをしている。皆んな、気になってるのに優しいんだよね。

トイちゃんが俯いて笑いながら話す。トイちゃんも優しいんだ。「良く、ジャズは黒人の虐げられた音楽だって言われるし、それ自体は間違ってないのかも知れない。黒人の憂鬱がブルーノートっていう音程になるのかも知れない。でも、ね。私が思うにさ。芸術は心を満たすべきものなんだよ。例え悲しい音楽でも踊ればスカッとするじゃない?……私もね。難しく考え過ぎてた時期があってさ。醜(みにく)さとか怒りのパワーで踊ってた時期があったんだ。両親が離婚してから誰にぶつけたらいいのか分かんないような苦しさっていうか怒りっていうのかな。そんなんがあって。黒い感情で芸術にぶつかった時期もあったんだよ。でもね。最終的には美しさなの。黒い感情を表現するのに黒く塗り潰さない方が返って黒さを表現出来るものなのよ。ガムシャラに踊っても表現出来ない。自分を壊すような踊り方じゃ自分の怒りでさえ表現出来ていないのよ。怒りをいかに美しく見せるかも芸術なの」

トイちゃんも辛(つら)かったんだなぁ。私と、おんなじだ。トイちゃんは続けた。「私、ハーフだからさ。黒人のお父さんの故郷では色が黄色いって虐められて。お母さんの国のコッチでは黒いって虐められてさ。でもね。ダンスをやれば全て忘れられた。辛い気持ちは、もっと美しく表現出来る。そして、その解決した世界を芸術は見せてくれるの。ホラー映画だってそうでしょ。最後にヒロインが助かるんだから。それが芸術なのよ。まあ、私がハッピーエンド好きだって事なのかも、だけど」

雨の音が優しく包む。ガルムスが、この森の中の広場の東屋でラジオをつける。ニュースでフランスのテロについて報道している。なんでニュースって悲しい出来事が多いんだろう。幸せなニュースって無いのかな?……ガルムスが煙草を吹かす。雨の匂いに交じって湿ったような香りがした。























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