小説『今夜限り』 | まことアート・夢日記

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まことアート・夢日記、こと徳村慎/とくまこのブログ日記。
夢日記、メタ認知、俳句モドキ、詩、小説、音楽日記、ドローイング、デジタルペイント、コラージュ、写真など。2012.1.6.にブログをはじめる。統合失調症はもう20年ぐらい通院している。

小説『今夜限り』
徳村慎


昼間の海辺の砂利浜。腕の長いスキンヘッドの手長族が素早く動き回り、浴衣を着た金髪碧眼の美少女の周りに、陣形を築いて殺そうと狙っている。その数は増え続ける。

美少女ネルドが胸のペンダントを握りしめて叫ぶ。
「我が精霊よ、我が意志に従え。我が心に共鳴し、我が力と合わされ!」
ペンダントから出て来た、カラスのような夜をも包み込む翼が一瞬、ネルドの背に生えて消えた。霊能力が一体化した証拠だ。

金髪碧眼の美少女の顔が変化する。顔面が獣の毛に覆われて真っ二つに割れた。中から爬虫類のような顔が飛び出す。肩から腕の筋肉も盛り上がり、鍛え上げられた成人男性のようなものへと変化した。足は皮膚が裂けて中から鳥のような肌が見えている。足の甲からは鳥の巨大な爪が三本生えた。

地面を力強く蹴って空高く舞う。地上から飛びかかる手長族が次々に首を斬られて落ちていく。先ほどまで美少女であった獣の足の爪の鋭さは刃物以上の威力があるようだ。鮮血が噴水のごとくに沸き上がり、美しい弧を描いていく。獣の浴衣はひるがえり、手長族の頭から頭へと踏んで飛び続けて、空中で殺戮の舞踏に興じる。

手長族の死体が転がる中で、獣は身体を美少女へと戻した。浴衣姿の金髪碧眼のネルドは汗ばむ胸元に両手で風を送って歩き出す。今夜の酒は美味いやろなァ、と呟きながら。

「ネルちゃあん♡」
再会で抱きつく友人の朋子。

「今日は、お酒飲ましてくれるんやろ?」とネルドが言った。どこからどう見ても美少女なのだが、実年齢は成人を迎えているらしい。

「そやでぇ。今日はウチに泊まるやろ?」と朋子は言った。旦那が釣り客相手の漁船を出していて、簡易の安い民宿にもなっている。

「久しぶりに帰って来たら、熊野は、ええなァ」ネルドは、本当に故郷)は良い、と感じていた。目を細めて空を見上げ、遠くの山や樹々を見ては懐かしむ。

「でも、アンタ、全然、熊野の言葉のまんまやんかァ」朋子が笑う。

「まぁなァ。妖怪退治は、基本的に人と接する商売ちゃうしなぁ」両手を軽く上げて、しょうがないやろ、とワザと、ため息を吐いてみる。

向こうから、おおい、と声がする。
「遅ぉ~い。マジで夏奈、何しとったんよぉ?」と朋子がにらむフリをする。

小走りに来た夏奈は言う。
「いやぁ。東京に暮らしとる弟子がブログのコメントで、誤字脱字について、やんや言うもんやから、ブログの小説直しとったん」

朋子(ともこ)が笑う。
「ああ。アレやろ。勘違い男やろ。何様のつもりやっちゅうねんなぁ。僕が一番弟子ですぅ、とか、まだ言いよんの?」

夏奈は悪者の顔をワザと作る。
「まぁね。あいつの病気は治らんわ。天然ボケも、ああまでいくと、病気やからさぁ」

爆笑してから、夏奈は、「ネルドは変わらんなァ。いつまで経っても美少女のまんまやァ。わたしら、すっかりオバさんやでぇ」と言ってネルドの手を取り指を絡ませて握る。

ネルドが「私のは、呪いやからさ」と少しだけ哀しそうに言って目をふせる。

「今夜は飲もな!」と朋子が明るい声を出した。今夜限りで3人が再び会うことが出来ないことは皆んな知っているのだが。「うん。飲も」と夏奈がネルドの背を叩く。「痛ったぁいぃ。ちょ、叩きすぎやで!」とネルドも叩き返す。

色んな思い出話に花を咲かせて、民宿の部屋でお酒は進み、深夜になった。話も尽きた頃、ネルドがしんみり言った。「今まで、ありがと」

わぁああああ、と夏奈が泣き出した。「泣くなや、夏奈!」と叱る朋子も涙が頬を伝う。

ネルドが、魔界に身体を取られる契約の日が、明日の日の出なのだ。あと数時間しか残っていない。力の代償と言うのだろう。力を求め続けて肉体は耐えきれない状態なのだ。魔界に身体を取られた者は、永遠に魂が苦しめられる。海辺に造られた森の一角に永遠にとどまる。その苦しむ姿を見た者は気がふれてしまうため、地元の者は夜の森には近づかない。

「ネルド、私、会いに行くわ!」
夏奈が胸の前で両手を握りしめて叫ぶ。

「……アカンて。アンタの旦那(だんな)が悲しむわッ。行ったらアカン!」朋子が夏奈の肩を揺する。

夏奈が、ネルドの胸に飛び込み号泣(ごうきゅう)した。ネルドは静かに笑って、夏奈の頭を撫でている。「もう、飲まな、やってられんわ。もう、飲んだるんじゃ。ネルドも飲みなぁ。な、ネルドもさ」朋子が言うなりお酒のコップをあおってはつぎ、あおっては、ついだ。

風が部屋の中に巻き起こる。窓など開けていないのに。渦を巻いて竜巻のように回る。3人の衣類が風に飛ばされて舞う。部屋が大きく膨らんでいく。空間自体が変化していく。ネルドの身体の真ん中に、真)っ黒な宇宙のような球体が浮かぶ。紫色の雷が球体から弾けている。「連れてかんといてぇええええッ。連れてかんといてぇよぉおおおお!」朋子が叫ぶ。「ネルは私らが守るんやッ。どうせやったら、私を連れてけ言うんじゃッ。私を連れてけへんのか、弱虫がぁッ」夏奈も叫んだ。

ネルドの身体にも紫色の雷が走り、身体のあちこちが黒い宇宙へと変わっていく。優しい顔のネルドの身体は一気に赤い炎へと変わる。炎はさまざまな色を含んでなお、赤い。

身体は腕を広げたほどの直径に成長した、宇宙の球体の中へと落ち込むように吸(す)い込まれた。

ネルドは苦しむ白い影となった。その白い影は、転(ころ)げ回りながら窓の外へと消えた。

何も考えられない状態の2人が顔を出した太陽に気づいた。「行こか」夏奈がふらふらと立ち上がる。涙が乾いてカサカサの肌を手の甲でこすりながら。「うん」朋子も机に手を当てて立ち上がる。

民宿の前には夏奈の旦那が居た。「やっぱ、お前、行くんやな」とため息をついた。

「うん。ホンマ、ごめんな」と夏奈は答えて旦那を抱きしめる。泣きながら何度もキスをした。身体をまさぐりあってお互いを確かめあう。朋子は笑った。「ウチの旦那は今頃、客を乗せて、仕事しとるんかなぁ」と呟きながら。

森にはネルドが居た。2人は、苦しむ白い影を見て、過去に自分が犯した罪を思い出した。頭の中をかき回されるような気持ち悪さが襲いかかる。自分を責める声が幾重にも聞こえて髪の毛が抜けるまでかきむしる。腹に巣食う気分の悪さは、ぐらぐらと大地が揺れているかのように感じさせる。倒れこみつつも祈った。ネルちゃんを返して。朋子が祈ると、隣でも声がした。ネルドを返せぇ、と。太陽が黒くなる。森は青さに満ちる。ネルドの苦しさが消えた。気づくと3人は手をつなぎあい、輪になって森の中で浮いていた。

3人の身体が地面に倒れこむと、再び森の色彩は戻る。太陽は普段通りに輝いた。

ネル……ちゃん?

金髪碧眼だった美少女は、黒髪で黒い瞳の大人の女性になっていた。3人は、この奇跡が何故起きたのかが、分からなかった。謎は誰にも解きあかせないだろう。ネルドからは呪われた妖怪退治の能力は消えた。しかし、呪いは続いていたのか、普通に暮らせないほどの頭痛に度々悩まされながら生きていた。そのネルドの頭痛を取り除き、再び妖怪退治に目覚める道を示す男性が、あるところから熊野に訪れるのだが、それはまた、別の話。語り部のお婆さんとなった朋子が蝋燭を吹き消した。

(了)



あとがき。というか。(泣)
……師匠。どれが普通に使う漢字で、どれが使わない漢字か、分からないんです。(泣) 以前よりは、当て字をなるべく使わないようにしているんですが。マジでルビ打つのに訳が分からなくて死にかけました。……どれが使わない漢字なんだろう???(泣)
普通、使わない漢字でルビが打ってないものにはご一報下さい。
m(_ _)m

→夏凪師匠に常用漢字はルビが要らないと教えられました。(笑)
で、ルビを消しました。そっか、要らないんだ♡(笑)
d(^_^o)




















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