小説『雪の匂い』
徳村慎
毎日が曇り空。頭痛がするのか、娘が叫ぶ。私は周りの目を気にしないような素振りを装って娘の頭を胸に抱きしめる。天へと届けとばかりに叫ぶ娘に私もつられて天を見上げる。一粒の雪がはらりと舞い降りた。この子は分かっていたんだ。私は嬉しさで娘の頬にキスをした。
この子が少し普通じゃないと気づいたのは周りのママ友と会うようになってからだ。いつでも私は普通なんだと自分に言い聞かせた。なんで出来ないのッ。そう娘に怒鳴ったりもした。お酒で忘れようとしたけど、逆に不安になるばかりだった。この子の病気が個性であると感じられるようになるまで、随分苦しんだ。
この子を認めてからも、やっぱり私の教育じゃ育たないんじゃないか、と心の中で自分の能力に見切りを付けてしまっていた。個性である、という一種の諦めだったのだろう。私とこの子に今、雷が落ちれば楽に死ねるのに、神様は分かってないな、なんて馬鹿な考えばかり浮かぶ。自然に事故が起きるのを待っているようなもの。私はそんな生き方で毎日を過ごしていた。
雪をいち早く察知した娘を見てから、天候に対しても温度に対しても音にも色にも敏感な娘の個性を知って、この子の天才をすくすく伸ばせば良いのだと気づいた。あれから1年。娘が泣きそうな顔で空を見上げる。雪の匂いだね、私は一緒に見上げて我が子の頭を撫でた。ゆき、と娘は声に出して私を見つめた。
(了)
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