小説『Fall in love me, cyber brain.』 | まことアート・夢日記

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まことアート・夢日記、こと徳村慎/とくまこのブログ日記。
夢日記、メタ認知、俳句モドキ、詩、小説、音楽日記、ドローイング、デジタルペイント、コラージュ、写真など。2012.1.6.にブログをはじめる。統合失調症はもう20年ぐらい通院している。

小説『Fall in love me, cyber brain.』
徳村慎


都市ギトロの上空を戦闘機が旋回する。両腕が義手の美少女ポルナが操縦しているのだ。脳内に埋め込まれたチップを意志で操縦しているため、操縦桿を握る必要は無い。最後に残った1枚のポテトチップをコーラで流し込む。ドローン(無人機)たちが少女の戦闘機ビジーナイトを追い回し、レーザー砲で攻撃するが、少女は、ことごとくレーザーをかわす。

一瞬先の読める三流プログラミングね。見てらっしゃい。このビジーナイトが騎士たる名である事を思い知らせてあげる。

ドローンを高層ビルへと誘導して、ぐるりと背後に回り込む。1つ、また1つと撃墜された機体が、都市ギトロのビル群へと堕ちて行き、爆風が地上で巻き起こる。

都市ギトロ。私の恨みは、こんなもんじゃないわよ。これからが熱いんじゃない。私の、たかぶりを受け止めなさい。

地上スレスレへと舞い降り、戦闘機を加速させて飛び回り、人々をレーザーで焼き尽くす。ビルの屋上に据えられたレーザー砲塔では狙えない位置だ。

あと3秒。3……2……1……離脱。

何百という戦車が地上の道路周辺に設けられたハッチから出て来る。しかし、ポルナは既に上空へと戻っている。ビルの屋上の砲塔からレーザーが次々に撃ち込まれる。ビジーナイトは、かわして、レーザーは近くのドローンに当たった。

良し。気分は上々。いいわ。とっても。感じるの。

レーザー砲塔よりも速く動いて回り込んで背後から撃ち、レーザー砲塔を次々に破壊していく。飛んでいるドローンの数もかなり減って来た。レーザー砲塔のエネルギー充填装置に命中して崩れ去るビルが、ほとんどだ。

まだ地獄と呼ぶには、小さ過ぎる。ほんのお遊びね。でも、これぐらいにしといてアゲル♡

都市ギトロから遠くへとビジーナイトは飛び去った。16秒後に来た援軍には彼女の操る機体の影すら見えなかった。


男子が誰とヤリたがっているか、なんて話を教室でしていた。それなりに経験の有る女子が今夜の相手を選ぶのだ。中学1年にもなれば誰もが通る道だ。教師だって黙認しているのだろう。ぽっちゃりとして可愛いアイリスに「ポルナは?」 と訊かれて、「都市潰しの方が面白いからパス」と答えたら、クスクス笑って「裸に機械の腕じゃ、男が萎えちゃうからじゃん?」なんて言われた。親友だと思ってたのに酷い奴だ。「アンタも巨乳、巨尻は良いけど、腹を引っ込めなさいな」と答えておいた。3時限目の体育はパス。ロボット教官にアレコレ指示されるとムカつく。こうなったら、今から、飛ぼうかな。レーザーを撃ちまくるのが快ッ感。


空へと向かう。戦闘機との一体感に酔いしれる。ビジーナイトが私の恋人。それ以外には何も要らない。目を閉じたまま雲を突き抜けて、青空に太陽だけが照らす雲海へと浮かび上がる。お風呂をもっと気持ち良くしたような浮遊感。ふわふわと漂う感じは性的な興奮にも似ている。

ほんの10分だけ浮かんで、雲の下へと戻った。異常な煙が上空まで漂っている。

何?……あれは、都市ガイラなの?

燃え盛る破壊し尽くされた、ポルナの生活している都市ガイラは、瓦礫の都市へと変わり果てている。遠くに編隊飛行するドローンが飛んで行く。

アイリスも死んだんだ。

歯を食いしばって涙をこらえる。ドローンを撃ち堕とすべきだろうか。

今では別の女と暮らしている父が優しく撫でた掌。今でも色んな男と付き合っている美人な母が教えてくれたシチューの匂い。脳機能の障害で家から出られない妹は、いつも絵手紙をくれたっけ。初めての経験を教えてくれた夜のベッドでの、カルーの熱い眼差し。……全部、私が悪いんだ。私が都市潰しをしてるから、報復されたんだ。皆んな死んじゃったんだ。

機体を急上昇させた。ビジーナイト以外には何も要らないなんて、なんて馬鹿なことを考えたんだろ。死にたい。……そっか。本当に死ねば良いんだ。死のう。

高度1万フィートから機首を地上に真っ直ぐ向けて全開のスピードで突っ込んで行く。

死んじゃ駄目だァああああ!

脳内に響く声。チップが通信を捉えた。もしかして……ノウム君?

ハッとして、ブレーキを掛けて、機首を戻そうとするが物凄い風圧で戻らない。黒い機体が素早く近づき寄り添う。ぴたりと吸い付くように機体が重なった。その大きな機体が全体を押し付けて、軽々とビジーナイトの軌道を修正する。ポルナは不安定な動きで、辛うじて地上スレスレをすっ飛んで行く。そんなビジーナイトに冷静なノウムの声が響く。

ゆっくり上昇に移って。大きく旋回していけば、この先の山にぶつかる事も無いから。ゆっくり。落ち着いてね。

ビジーナイトと大きな黒い機体は空に浮かんでいた。少女は通信する。
「さっきは、ありがとね。本当に死ぬ気だったからさ。でも、もうちょっと生きてるのも良いかも。ノウム君は、その黒いのに乗ってるの?」

僕の脳内の情報は、電気信号に変換されてプログラミングになってるんだ。つまり、僕は機械だよ。笑えるだろ?

私は、機械の義手に、何処か引け目を感じていたのかも。だから学校を良く抜け出して、都市潰しなんかにハマったのかな。考えていると、夕陽が2つの機体を照らし出した。
黄金の光を放ってピンク色の雲と並行に飛んで行く。

僕は、進行の速いパーキンソン病だったからさ。こうして自由に空を飛べるだけで満足だよ。

もはや、人工知能のような機械の存在になってしまった彼は、私に淡々と明るく、そして暖かく語り掛ける。まるで論語の孔子みたいだ。或いは仙人か。私の目から涙が溢れていく。

ねぇ。都市を造ろうよ。今度は破壊するんじゃなく、造ってみようよ。

私のせいで都市ガイラに報復されたのに彼は気づいていた。それでも彼は私を見捨てないんだ。泣きじゃくって頭の中で「うん。造る」という言葉をひたすら繰り返した。鼻が痛くなるほどの号泣で私は顔を歪めて醜く泣いた。

泣いてる君も素敵だよ。全て洗い流そうとしてるから。

ノウム君の言葉に、ブンブンと首を横に振る。泣き続けながら叫んだ。そんな事無い。私は醜い義手の女よ。最低の心を持った女だわ。でも、それが言葉になっていたのか、脳内のチップが、きちんと彼に通信出来ていたのかは分からない。彼は黙って黒い機体を傍に浮かばせて寄り添っていてくれた。

蒼ざめた夜が始まって、破壊された都市から立ち昇る煙に寄ってか、大雨が降った。悲しみと、深い後悔と、ちょっとだけ彼が居てくれる嬉しさで流す、私の涙に良く似ていた。

(了)







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