皆、ハイになっている。
踊り狂う男女の群れ。中学生ぐらいのマセガキまで、ここに集まってくる。
蛍光色の夜光アクセサリーを使って巧みに踊るレイバーたちも増えた。
駐車場でのレイブ(野外ダンスパーティー)は街で人気だ。トランスに飽きたオーディエンスが駆けつける。
サンプラーのレゾナンスをいじりながら、思考も薬の中で途切れなく流れている。
俺は基本的に、楽器というのを信頼していないらしく、金をつぎ込んでも無駄だと思っている。いや、それは裏を返せば、誰にも理解されないという自己満足を引き起こすのであって、信頼はしていないが、愛情はこもっているのだろうか。
その点、林の自宅にはワンサカ楽器があって寂しい。1ヶ月間も使われていない楽器が常に存在していて、楽器を愛する人間としては、寂しいのだ。あいつは、何で、愛着の無い楽器と共に暮らせるのだろうか。職場の人間と寝食を共にしているようなもんだ。家族ではないのだ。楽器とは本来、家族ではないのか?
何で、いまさらドラムンベースだよ。そんなことを言うトランスマニア。だから、トランスなんか聞いてるやつのセンスの悪さに困る。そりゃ、思うさ。俺も。だけど、じゃあ、ドラムンに代わるもんがあるのかよ?無い。絶対無い。まあ、第三次世界大戦が起きれば、文化的な発達が起きるかもナ。馬鹿か?でも、そうじゃないか。こんな知識なんて必要無いのに林のヤローが言い聞かせるから、もう、自然に考えちゃうわけよ。
プラスチックの発明がバスドラムのヘッド、レコード、テープを生み出したんだ。そいつが、つまりロックだろ?俺が言いたいのは、ビートルズがロックを生んだんじゃないってことだ。プラスチックヘッドのバスドラが牛革より戻りが早いから、連打出来るんだろ?レコードが生まれたから音楽はオーディオになったんだ。テープのマルチトラックで、多重録音が当たり前になったんじゃないか。じゃ、ビートルズなんて時代が無けりゃ功労者でも、何でもない。
平均律のピアノが出来たからモーツァルトは、バッハより偉大に感じるだけで、あんなフレーズは、ピアノの練習みたいじゃないか。コードノート間をパッシングとしてスケールを弾いてるだけだろ?バッハの方が余程いいフレーズ作っているぜ。ピアノの発明という人類文化に比してモーツァルトはそれほどじゃない。ま、言い始めればキリが無いけどさ。
だから、戦争でも起きて、新素材が発明されれば、確実に何かが得られるわな。