(**蠅の一生を物語にしました。…と書いておく。結構グロいです。)
死体を取り除いた時に、ぽっかりと空間が開いたので驚いた。
ごそりと踏み出してみると四角い部屋に出た。鉄のパイプフレームで出来たベッドが置いてある。駆け戻ると、一面死体で出来た壁に俺の出てきた小さな穴がある。しかし、どさりと死体は崩れて穴を埋めてしまった。
この部屋は鉄製のドアが一つ有る。重そうなドアだ。蝶番(ちょうつがい)が、きっと重みでゆっくりとしか開かない様なドアだ。
俺は背中を丸めている事に慣れていた。伸ばしてみると、背中が痛くなった。俺の入って来た死体の壁の続きは何処もコンクリートの壁だった。床も俺の裸足の響かない程分厚かった。ぺたり、という足音は俺の重みを受け止めて吸収した。俺はナイフでドアを引っかいた。開けられるかどうか確かめたのだ。しかし、ドアは開かなかった。不快な金属音が響いただけだ。しかし、このドアの向こうには、何らかの空間が存在しているのだ。
ベッドに腰掛けて俺は目を閉じた。眠っていたらしく、気が付くとベッドの下に潜り込んでいた。床を這ってベッドの下から出るとドアにノックの音がした。俺は出ない事にした。俺が死体から抜け出して来た事を、俺の他に知っているとすれば、君しか居ないからだ。しかし、俺は君の存在を信じていなかった。だから、ドアの相手が誰であろうと入れないほうが良いと判断したのだ。ドアの外に何も無いと分かってしまうのが、何よりも怖かった。俺はドアの逆、死体の壁に戻る事にした。潜り込んだ場所。俺は戻る。食っては進む、其の空間へと。ガリガリとドアを引っかく音がした。犬だろう。俺は本当にドアの向こうなんか知りたくない気分だった。自分の腐り損なった様な内臓をCTスキャンで見せられたくないのと同じなんだ。分かるか?君は居ないのかも知れないが、俺には君が必要だ。