(**蠅の一生を物語にしました。…と書いておく。結構グロいです。)
時々、此の死体を取り除けば地上へ出られるんじゃないかと思う事が有る。けれども駄目なんだ。光は差し込んでくれない。君はどのくらい高い場所に居るんだろう。つまり、地上は後どれぐらい掘れば存在するんだろうか。しかし、君は何も答えちゃくれなかった。俺の声が聞こえていない可能性も有るし、多分そうだろう。俺はとにかく此処を出られない。何時間過ぎたのか、何日過ぎたのか、或いは何年過ぎたのか?全く分からない。分かりたくも無いだろう?君なら嫌だろう?自殺するかも知れないな。俺は案外強いのかも知れない。或いは生きる願望が強いのかも知れない。
今食っているのはK谷で、前の奴がM田でその前のはK林でT木でK藤でS木でN村だ。何故名前が分かるのか、此れも不思議なのだが、食べる時に色々考えるからだろう。肉を食うと、其の人生が頭の中で映像と音が思い浮かぶ。此れも俺の幻覚なのだろうか。昨日か三日前かは分からないが、最近、菌類の花を見た。ぼうっと青白い光りを放って俺の手が触れると崩れて溶け出した。此の世界で唯一美しいと思えるのは、死体を養分として育つ菌類が青白く光る事だけだ。しかし、待てよ、と考える。彼(あ)れは確か、S本の時だったから、もう一年も前の事じゃないだろうか?死体は腐乱して三日程しても一日掛かって食べる事になる。夜の十二時になると決まって地上で狼の様な鳴き声がする。此の記憶は卵を割る前から頭の中に入っていた気がする。俺は人間には違いない。しかし、何故、他人の死体の中で暮らしているのか分からない。やはり、卵から生まれたと考えるのが正しいのだろう。
どう、と音を立てて死体の天井が崩れた。急いで安全な場所まで戻り、また食べ始める。一体此んな暮らしが何時まで続くのか?君は居ないという考えが強くなって俺は食事を中断して、夜の月を頭の中で思い浮かべていた。