『テクノ×ギター女子』5 | まことアート・夢日記

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まことアート・夢日記、こと徳村慎/とくまこのブログ日記。
夢日記、メタ認知、俳句モドキ、詩、小説、音楽日記、ドローイング、デジタルペイント、コラージュ、写真など。2012.1.6.にブログをはじめる。統合失調症はもう20年ぐらい通院している。

春休みに公園で桜がギターを弾いていると、隣にやって来た女の子が居た。


「へぇ、アンタもギター好きなんやねー」
と声を掛けてきた。


「アンタも…ってことは、弾けるワケ?」


「ちょっと貸してみ」
クラシックギターの曲らしい。楽々と、伴奏とメロディを弾きこなしている。


「すごく上手い…」


「へへ。小3から、ずっと、やりやるんや。この曲は私の作ったオリジナル」


「名前は何(なん)っていうん?」


「杏やよ。ヨロシク。アンタは?」


「桜」


中3の四月が始まった。
教室中のウワサはあの杏という少女の事らしい。


「転校生?それってどんな子?」


「ギターがバリ上手いらしいで。クラシックギターやりやるんやって」


あの子の事か…。桜は思った。ハンパじゃない上手さの杏。しかも、あの難しい曲は自分の作ったオリジナルだと言っていた。


あれから必死に追い付こうと練習はした。だけど、全然違う。あの子は天才なんだ。そう思った。悔しいけど、ハンパじゃなく上手い。


あれに追い付けるなら…何(なん)だってする。すっかりアサミたちの事など忘れていた。それだけのレベルの違いがあったのだ。


数日経つとさらにすごいウワサを聞いた。


「杏って中二の新(シン)くんをさっそく引っぱり込んだって」


「えーっ?吹奏楽部が、あったら部長になっとるっていう男子?」


「そうそう。その新。サックス吹きの。杏ってベースレスのジャズトリオ作るって言って、保健の大西先生がドラムやるんやって」


「さすがギターの天才少女。もう男2人を引っぱり込んだか。しかも2人ともイケメンやし」


「元々クラシックギターやりやって最近エレキも買ったからジャズやりはじめたんやって」


悔しいけどレベルが違う。ハーッとため息をついて桜は美術室に向かった。


「美智ー。あの天才少女、何(なん)なんよー。せっかくテクノ・アッシャー組んだのに、あのレベルの差」

「努力すれば何(なん)とかなるさ」
絵筆を動かしながら言う美智。


「才能の差やろ」と山本。

「ハァ?デブ山うるさいんじゃ」


「おー、こわ。やつあたりやん」と山本はニヤニヤする。


美智が話す。
「桜ーァ。努力だよ。努力し続ければ、フッと浮き上がる時があるって師匠が言ってたでしょ」


「美智ィ。それ絵の話だったよねー」


「バレた?フフフ」


「それにしても、そのアンプとギター、美術室まで持ってくんなよなァ。」と山本が言う。


「じゃかあし、デブ山。私のmicroCUBEちゃんを、タダのアンプって言わんといて」


「高性能なんでしょ」と美智。


「アタリキ。アンプモデリングやでー。クラシックスタックの歪(ひず)みなんか最高」


その時、美術室の戸が開いて、泉が入ってくる。
「桜ちゃーん。図書室に来(こ)んから来てみたら…案のじょう、美智ちゃんと会いやったなんてー」


「アレ?もう待ち合わせの時間?ゴメーン。すっかり忘れとった」


「せっかく夏目漱石読むの我慢して待ちやったのに」

「ゴメン。ゴメン。許せ、わが友よ」


「もうー。古風な言い回しでも許さんから」