帰り道。桜と泉が歩いていると、アサミがやって来る。
「桜、アンタ、バンド脱退したわりに、楽しそうに帰りやるやんか」
「何よ。別にええやんか?行こう、泉ちゃん」
「まさか、アンタ師匠のトコへ出入りする気?」
「別にええやん」
「あくかして。邪魔やわ」
「それは師匠に迷惑かどうか聞いたらええやろ?」
「そんなん迷惑に決まっとるやん」
「そんなん分からんやんか」
「じゃあ、こうしよう。バンドで対決して上手い方が師匠のトコへ通ってもええってコトにしよ」
「え~?いやよー今日は泉ちゃんを師匠のトコへ連れていくだけなんやからさー」
「でもバンド対決は覚悟しとけや。じゃーね」
泉が言った。「何(なん)なん?アサミさんものすごいケンカ売ってない?」
「そーなんやよ。ちょっとバンド抜けたら、あの態度やで」
そうこう言っている間に2人は師匠の家についた。学校から通ってはいけないと言われているトンネルを通ったから近かった。
師匠というのは、高校の美術教師で、自らブルースバンドのボーカルをやっている壮年の親父だ。
「師匠ー。またアトリエに居ますかァ?」
「おう入れー」
「お邪魔しまーす」
アトリエには油絵のキャンバスや、ギターが置いてある。
「この子は泉ちゃん。カオシレーターの使い手。今度はアサミたちと別れて、泉ちゃんとバンド組むことになったから」
「カオシレーター?何ソレ?」
泉がカオシレーターを取り出す。
「じゃーん。コレがそうでーす」
「へぇ?楽器なん?」
「楽器です」
桜が話す。「テクノ・アッシャーっていうバンド名にしたんです。テクノにエレキギターを乗せるから、ギターを弾く、ポーの小説に出てくる人の名前、アッシャーを付けました」
「へぇー。としか言いようが無いな」
「早速ジャムってみますね」
師匠が、すかさず言う。「パンに付けると美味しいやつ?」
「ワザとボケないで下さい。それだとマーマレードかも知れんし。」
「どうれ、じゃあ、混ざってみる?」
「あ、師匠も入ります?」と、ストレートケーブルを繋ぎながら言う桜。
師匠が聞く。「キーは?」
泉が「Cイオニアンでお願いします」と言って、リズムを出す。
師匠が「Cメジャーね。了解」と言って、コードのC、G、F、Gを弾く。
桜はメロディをコードに合わせて弾いて、泉のベースに次第に絡んでいく。
「桜、お前ウマなったな。すかさずコール&レスポンスか。じゃあ、こんなん、どう?」
師匠は、8フレット3、4弦をビブラートさせる。
それに対して、1弦12フレットのハーモニクスを鳴らす桜。
「すごいねー2人とも」
泉がニッコリ笑う。
「泉ちゃんのカオシレーターもすごいよ」
「ウム。お似合いのバカップル…、じゃなかった。コンビ…?デュオやな」
