サンコウチョウ 闇の記 | 鳥の思い出

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鳥と自然を楽しむブログです。神奈川県を中心に活動しています。

神奈川県内の低山で、5月11日にサンコウチョウを初認した。独特の姿と声で人を魅了し、ときに狂わせる一種である。楽しい観察記録としてアップしたいところなのだが、暗い思い出が心の奥底からぶり返してきてしまった。

 

サンコウチョウとの出会い

2013年6月。自家用車もなくペーパードライバーだった私は、現配偶者の運転で鳥探しに連れて行ってもらっていた。何を拠り所にして行き先を選んでいたのかは今やもう思い出せないのだが、丹沢山麓を走行中にホイホイという断片を耳がとらえた。下車して耳を澄ますと、間違いなくそれはサンコウチョウの声だった。長い尾羽の姿も視認はできた記憶がある。

 

生息地がわかったのだから、通えば撮影もできると考えた。7月にかけて再訪し、3度目でなんとか姿をとらえることはできた。

 

2013年7月、神奈川県。

 

翌2014年には中古車を入手し、そのポイントには季節が来ると一度は通うようになった。ある日、舗装路から少し山道を入ったところに4〜5人の先客がかたまり、サンコウチョウの巣を見上げて撮影していた。彼らは巣から距離を保っていたようにも見え、気前よくその位置を教えてくれたのだが、当時から私にはそれが好ましいことに思えなかった。

 

ゾンビ使いとゾンビ

2016年5月の出来事は強烈だった。私はおそらく朝一番乗りで、その年のサンコウチョウ初認を喜んでいた。枝の混んだ杉林の高いところにいて、そう簡単に写せる鳥ではない。そこにクルマが数台とまった。最初に下りてきた男性とは、あいさつ程度の会話を交わしたかもしれないが、覚えていない。

 

彼はツカツカと車道わきの斜面に向かい、背丈ほどのコンクリート擁壁上に何かを置いた。音楽プレイヤーである。そこから音源(もちろんサンコウチョウの声)が流れるなり、さきほど観察していたサンコウチョウがすぐ間近の低い枝に止まり、プレイヤーに向かってキュキュ、と威嚇の声を上げたのである。後続のカメラマンたちはその様子をチャンスとみて、一心に連写する。意志を失ったゾンビのように。

 

音声による誘引。鳴き寄せともいうらしいが、要は鳥を騙して近距離におびき寄せるという犯罪的行為。それをはじめて目の当たりにした瞬間だった。彼はゾンビたちに向かって誇るかのように「どうですか?いい写真、撮れましたか?」と呼びかけ悦にいっていた。その様子はまさにゾンビ使い。私は目前の現実を受け入れることができず、逃げるようにしてその場を離れるしかなかった。以降、そこには怖くて近づいていない。

 

いくらなんでも失礼じゃないかって?たしかにそうだ。私はゾンビに関してほぼまったく知識がないのに、このようなたとえをすることはゾンビ研究家やホラー作家に対して失礼だ。お詫びします。

 

ちなみに私は同じ山域で密猟者に出くわしたこともある。奴はやはり音楽プレイヤーでオオルリの声を流していた。妙な網を張っていて意図はバレバレ。何をしているのか問うと最初はぐらかしたが、そのまま黙って様子を見ていたら「悪いことはできないね」という台詞を残してそそくさと去っていった。奴に悪いことをしているという認識があることに驚いた。

 

残念ながら、世に出ているサンコウチョウの写真の一部は、こうして密猟者も使うような犯罪的手法で撮影されたものなのだと思う。もはや常態化していて、それが普通だと思っている人すらいるのかもしれない。綺麗だな、私も撮ってみたいなあとか思って「いいね!」を押す前にひと呼吸置いてみてはいかがだろうか。

 

リモートゾンビ使い

さて、まさに今この6月は、サンコウチョウの営巣写真がブログやSNSに次々と上がる時期である。営巣写真は犯罪的手法こそ使ってはいないが、その公開は反則には値すると思っている。場所を明かさなくても、時期を遅らせてもだ。私の拙い表現よりも、日本野鳥の会が2022年4月に策定した初心者向けのガイドラインを一読いただくのがよいと思う。

 

「営巣中等の写真や映像を SNS で公開しない

営巣中の写真や巣立ち雛の写真をSNSで公開しないでください。

かわいいヒナの姿や心温まる親子の姿は、素晴らしいものです。しかし、SNS 等で公開してしまうと、「自分もこんな写真・映像を撮りたい」と思わせることになります。野鳥の生態を知らない方が営巣場所に詰めかけ、繁殖を放棄させたり、巣立ちを早くさせたりして、野鳥の繁殖行動に悪影響を及ぼす可能性 があります。マナーを守った写真を公開し、野鳥撮影のマナーを呼びかけてください。」

 

「慎重に撮影しています」とか「そっとしといてね」とか書いて巣の写真を公開している発信者自身は、距離をとって身を隠して、鳥に配慮しているのかもしれないが、読者側は全然違う解釈をする可能性がある。「どこそれ?教えて教えて!撮る撮る。撮ってインスタ上げる。なんなら獲っちゃおっか?」私の拙い表現を用いれば、発信者は誰もが意図せずリモートゾンビ使いになりうるのである。

 

5月下旬、神奈川県(雌)

おまえだって繁殖地で撮影してるんだから、鳥に迷惑かけてないとは言えないだろって?その問いかけに反論はできないし、常に頭の中で反響しています。

 

こんな毒大盛りの闇記事に最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。現場もそうですけど、ブログやSNSにもありがちな集団心理や同調圧力は、マナー違反を助長していく可能性が十分あると考えます。当分「いいね!」は遠慮します。


では、また!