いまからでもおそくはない | こうのの日々

こうのの日々

漫画家こうの史代です。
夫とキエリボウシインコのTさんと、福知山市で暮らしています。

こんにちは。こうの史代です。

 

今日は広島原爆忌ですね。

今朝は急いでTさんの籠と仕事部屋の掃除を済ませてから、テレビに向かって(部屋の西に置いているので、結果的に広島の方を向いたことにはなります)黙とうしました。

 

もう20年も前のことになりました。

当時よく通っていた中野区立中央図書館の平和資料のコーナーにふらっと寄ったら、こんな文章が手書きで貼られていました。

黒板にチョークだったかもしれません。

 

「いまからでもおそくはない

 あなたのほんとうの力をふるい起こすのはおそくはない

 

 あの日、網膜を灼く閃光につらぬかれた心の痛手から

 したたりやまぬ涙をあなたがもつなら

 

 いまもその裂目から どくどくと戦争を呪う血膿をしたたらせる

 ひろしまの体臭をあなたがもつなら」

 

峠三吉さん「呼びかけ」という詩の冒頭部分でした。

この時、わたしは原爆ものを描くかどうか迷って、このコーナーにやって来たところでした。

「それは、峠三吉さんがご存命の昭和30年代までは確かにそうだったかもしれないけど…。

この『いま』というのは、もう過ぎ去ってしまった時のことではないのかな」

とわたしは思いました。

それでも、この言葉は、信じずにいられないほど力強く輝いていたのです。

この言葉をどう受け取るかは、結局わたしの自由なのでした。

そして、結局「夕凪の街」を描きました。

 

今思うと、「いまからでもおそくはない」というこの言葉は、噓ではありませんでした。

なぜなら、わたし達はいつでも、今より「おそくない」時を生きることはできないからです。

 

わたしとよく似たあなたも、そう思ってくれるかもしれないから、書いておこうと思いました。

ではまたね。