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p・rhyth・m~映画を語る~

メインブログ【くた★むび】



監督:中村義洋
キャスト:濱田岳/瑛太/関めぐみ
配給:ザナドゥー
公開:2007年6月
時間:110分




斬新なプロットと軽妙な文体で若者の圧倒的な支持を集める人気ミステリー作家・伊坂幸太郎。国内外ですでに15作品が映画化されていて,このコーナーでも『ゴールデンスランバー』『ポテチ』『ブレット・トレイン』を取り上げてきたが,今夜紹介するのは『ゴールデンスランバー』『ポテチ』も監督した中村義洋が最初に映画化した伊坂作品で,17年前に公開された『アヒルと鴨のコインロッカー』。原作の舞台でもあり,原作者自身が学生時代から暮らし続けているという仙台・宮城でオールロケが行われた。

大学入学のため東京から仙台へと引っ越してきた青年・椎名(濱田岳)。ボブ・ディランの『風に吹かれて』を口ずさみながら引っ越しの片付けをしていると,隣人の河崎(瑛太)というちょっとミステリアスな青年が声を掛けてくる。「ディランの声は,神さまの声だ」と語る河崎は,椎名に奇妙な計画を持ちかける。それは,同じアパートに住む引きこもりのブータン人留学生ドルジ(田村圭生)に“広辞苑”をプレゼントするため,本屋を襲うというものだった。

翌日の入学式から帰宅すると河崎から,ドルジと彼の恋人で河崎の元カノでもある琴美の思い出話を聞かされる椎名。車に轢かれそうになっていた犬をドルジが助け,それを見ていた琴美(関めぐみ)と恋に落ち,2人は同棲していたらしい。そうして椎名は,いつの間にかモデルガンを手に本屋襲撃を手伝わされてしまう。しかし,河崎が奪ってきたのは“広辞苑”ではなく“広辞林”だった。翌日,大学のキャンパスで椎名はペットショップ店長の麗子(大塚寧々)と出会うのだったが…。

当時19歳の濱田岳の演じる椎名が,計画に巻き込まれ,やがてその真意を知るまでの顛末がミステリアスかつトリッキーに綴られる。原作の“映像にしにくい仕掛け”を,巧妙に,コミカルに,そして美しく実写化した中村監督の手腕に驚嘆させられるし,何よりも物語そのものの持つ情感と切なさを見事に表現した中村義洋&鈴木謙一の脚本が秀逸。

ちなみに,アヒルと鴨はどちらも同じ“カモ”の仲間で,野生に生息しているカモを“鴨”,品種改良して家禽(かきん)化したカモを“アヒル”と呼ぶらしい。


映画クタ評:★★★★★


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原題:Migration
監督:バンジャマン・レネール
キャスト:クメイル・ナンジアニ/エリザベス・バンクス/オークワフィナ
配給:ユニバーサル・ピクチャーズ/東宝東和
公開:2024年3月
時間:83分




今夜紹介するのは,『怪盗グルー』シリーズや『SING/シング』シリーズのイルミネーションが,初めての渡りに挑戦するカモ一家の大冒険を描いたファミリー・アドベンチャー・アニメ『FLY!/フライ!』。監督はフランスのアニメーター兼コミッククリエイターのバンジャマン・レネール。原題の『Migration』は「移住:(鳥の)渡り」の意味。

アメリカ北東部にあるニューイングランドの“ムースヘッド池”。この小さな池で家族と暮らすカモのマック(クメイル・ナンジアニ/吹替:堺雅人)は,子どもたちが寝る前,“興味本位で池を飛び出したカモを待ち受ける悲惨な末路”のおはなしを繰り返すのが定番だった。マックは“池にいれば一生幸せに暮らすことができる”と信じていたのだ。

そんなある日,南のジャマイカに向かう途中の渡り鳥の群れが池に立ち寄る。その自由な姿に,妻のパム(エリザベス・バンクス/吹替:麻生久美子)や息子のダックス(キャスパー・ジェニングス),娘のグウェン(トレシ・ガザル)は大興奮。「自分たちも外の世界を見てみたい!」とマックに懇願。抵抗するマックを押し切り,ついに家族は年老いた叔父のダン(ダニー・デヴィート)と共に,カリブ海の輝く楽園・ジャマイカに向けて3000kmの“渡り”へと飛び立つのだったが…。

渡り鳥なのに一度も移動をしたことがない,マガモ一家の初めての大移動。没入感のある上空や街中の風景の美しさと,サギのエリン(キャロル・ケイン/吹替:野沢雅子),ハトのチャンプ(オークワフィナ/吹替:ヒコロヒー),オウムのデルロイ(キーガン=マイケル・キー)らとの出会いを通じて,危険と驚きに満ちた大冒険の中で,マック一家の成長が描かれる秀作。

パムの「一歩を踏み出すのは怖いかもしれない。でもその価値はあるわ」の言葉が全編に響く。若干ファミリー向けで,大人目線では物足りないほどに優良作品だが,新しいことへのチャレンジの大切さとその価値について,たくさんのことを教えてくれる。


映画クタ評:★★★★


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英題:ALL ABOUT SUOMI
監督:三谷幸喜
キャスト:長澤まさみ/西島秀俊/松坂桃李
配給:東宝
公開:2024年9月
時間:114分




男はロマンティストでエゴイスト,女性は自分を愛しく思ってくれる男の理想に近づこうとする,そんな関係性を“愛”だと考える古い日本人気質は,令和の時代になっても旧態依然と存在している感じがする。それが全てではないことも,ジェンダーレスの時代にそぐわないことも,頭では判っていて,でもDNAレベルで拭えない感情がそこにはある。

今夜紹介するのは,そんな男女を題材とした公開中の『スオミの話をしよう』。『記憶にございません!』以来5年ぶりとなる三谷幸喜監督作品だ。計算された公開時期と直前のメディア戦略もあってか,さすがの初週興行1位。

刑事の草野圭吾(西島秀俊)と小磯杜夫(瀬戸康史)が訪れたのは,著名な詩人・寒川しずお(坂東彌十郎)の豪邸。寒川の世話をする乙骨(戸塚純貴)によると,寒川の新妻で,草野の元妻であるスオミ(長澤まさみ)が昨日から行方不明だというのだ。草野はすぐに正式な捜査を開始すべきだと主張するが,大事にしたくないと寒川は聞き入れない。驚いたことに寒川邸の庭師として働いていたのは,スオミの1番目の夫で元体育教師の魚山大吉(遠藤憲一)だった。

寒川邸には,スオミの別れた元夫たちが続々と集まって来る。1番目の夫・魚山,2番目の夫でYouTuberの十勝左衛門(松坂桃李),3番目の夫で刑事の宇賀神守(小林隆),そして4番目の草野に現夫の寒川と揃うと,誰が一番スオミを愛していたか,スオミに愛されていたかと,スオミの安否そっちのけで熱く語り合う男たち。ところが,彼らの思い出の中のスオミはほとんど共通点がなく,まるで別人のようだったのだが…。

苦言や酷評も多いが,三谷作品ファン,長澤まさみファンには最高のエンターテインメント作品。だって今,このキャストを揃えてこんなコメディ映画を作れる監督って,他に思いつかないでしょ? ひと目で三谷作品って判る脚本と構成の妙味,キャストの全てに見せ場を作る上手さは,この国のトップ・エンタメと言って過言ではないはず。個人的には薊を演じた宮澤エマが美味しい。

逆に,三谷作品ファンでも長澤ファンでもない人には,変な期待で観ないでほしい。TVドラマ脚本と違って,三谷映画ってコメディだからね! 感動するためじゃなくって,前のめりに楽しむために観るって気持ちでチケット買ってほしいなって思う。


映画クタ評:★★★★


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