宮松と山下 | p・rhyth・m~映画を語る~

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監督:関友太郎/平瀬謙太朗/佐藤雅彦
キャスト:香川照之/津田寛治/尾美としのり
配給:ビターズ・エンド
公開:2022年11月
時間:85分




今夜は,多くのCMや教育番組『ピタゴラスイッチ』を手掛けてきた東京藝術大学名誉教授・佐藤雅彦,NHKでドラマ演出を行ってきた関友太郎,多岐にわたりメディアデザインを手掛ける平瀬謙太朗の3人からなる監督集団“5月(ごがつ)”初の長編映画『宮松と山下』を紹介。香川照之にとっては『トウキョウソナタ』(2008年・ピックス)以来14年ぶりの単独主演映画となった。

エキストラ俳優の宮松(香川照之)は,時代劇に出ては弓に射られ,ある時は大勢いるヤクザの1人として路上で撃たれ,またある時はヒットマンの凶弾に倒れるなど,来る日も来る日も撮影で殺され続けている。派手さはないものの慎ましく静かな日々を過ごす宮松。しかし彼には過去の記憶がなく,何が好きだったのか,どこで何をしていたのか,自分が何者だったのかも判らない。何も思い出せないまま,毎日数ページだけ渡される主人公ではない人生を演じ続け,終わった台本をファイリングし小口にラベルを付けて書類立てに保存し続ける生活を送っていた。

エキストラだけで食えない宮松は,掛け持ちで信良山ロープウェイで運行機械設備の保守点検の仕事もしている。そんなある日,12年前に宮松と一緒にタクシーの運転手をしていた谷(尾美としのり)が撮影所に訪ねてくる。宮松がヤクザの役で出ていたテレビを見て,“山下”ではないかと調べて探したと言う。齢の離れた妹の藍(中越典子)が結婚して実家にいると聞き,会いに行くことにする宮松だったが…。

実はこの年の8月に不祥事が発覚し,MC番組やCMを全降板した香川照之。この作品が公開されたのは,歌舞伎俳優として舞台復帰する前月のことだった。もちろん現実での彼の行動は許されるものではないが,この作品の宮松は,俳優としての香川照之の力量が確かであることと,比類ない不穏な存在感を持つことを印象づける。

エキストラ,ロープウェイ運行,タクシー運転手という仕事の裏側に,日頃知ることのできない“映画性”のあることを見い出し,それを映像化した3人の監督たちの視点には純粋に感服。“5月”による次作に期待したいと思っている。


映画クタ評:★★★★


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