尖閣列島を東京都が買い上げるという石原都知事の言動は、多くの日本市民の共感をよんでいるよ
うである。その共感の背景には、これまでの日本政府の対中姿勢に対する不満があることは明らかであろう。
同時に、領土保全
に関わる問題が、教科書問題や靖国問題とは次元が異なることも、忘れてはなるまい。
人類史上、いわゆる領土問題ほど国民が激しく感情的になる問題はない。軍事衝突に至った例も少なくない。「いわゆる」としたのは、尖閣列島に関しては、領土問題は存在しないというのが、日本政府の公式立場であるからである。しかし、中国政府と台湾政府が尖閣諸
島を自国領だと主張していることも明白な事実である。
そして、中国政府が、白樺ガス田等一部を除いては、東シナ海の排他的経済水域について、
大陸棚説を主張し、わが政府は、中間線説を主張して、対立しており、かつ中国海軍は、制海権の拡大を志向して、軍備を増強している。
勿論、領土問題は存在しないと
いう立場があるからといって、相手がどう騒いでも、政府は、何もしないというように世論に映る状況は、おかしい。
しかし、それ以上
に常軌を逸しているのは、中国側であることも 忘れてはな
らない。その意味では、国内のみならず、国際世論をもっと意識して、より効果的な説明を工夫して然るべきだと思う。従来の説明は、あまりにも「日本的」過
ぎると思う。
言うまでもないが、日中間に軍
事衝突があるとすれば、尖閣がらみが最もあり得るシナリオである。従って、尖閣がらみで新しい措置を考えるならば、
溜飲を下げることのみを狙っていては、結局足下をすくわれることになりかねない。
その場合、地方自治体には、対
応する軍事力行使 権限も外交交渉権限もない。政府に依存する以外にない立場である。
本来、民主主義の国では、自ら自由に行動する権利を誰もが持っているが、同時に、その結果についても、自ら責任をとることが基本原則である。
特に領土に関わるという極めてデリケートな問題では、取り扱い次第では、感情的に双方が反応して、収拾困難な事態を招く可能性が高いという前提で
政策を考える心構えが肝要である。
騒ぐだけ騒いで、
あとは、政府がうまくやれ、というのは、道理に合わない。現在は、個人所有の島を日本政府が賃借しているが、今後、都が購入し、調査したあと何をどうするのかについて、至極もっともと思われる説明を提供すべきであろう。それは、日本政府側も同様である。
世論も、東京都の行動を、心情
的に理解し、これで、少しは政府もしっかりした対応を
見せてくれるのではないかと期待しつつも、一抹の不安を抱いているのではなかろうか。疑心暗鬼は、不測の事態を助長する。本当の喧嘩相手は、日本政府ではなく、
外国政府であり、外国の軍隊であることを肝に銘じて欲しいと思う。