子供を伸ばすオススメ読書100タイトル vol.8 日本純文学編①(過去記事再編版) | お受験ブルーズ

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現役講師がお受験を通じて世間を眺めています。
大手塾勤務→独立→プロ家庭教師と変わって来ました。(作曲・編曲、戦国シンフォニックメタルバンド「武士メタル~Allegiance Reign~」のベーシストとしても活動しています。どっちも本気です)

 ついに最も濃い回が来てしまいました。純文学なんて一体どこが面白いんですか、とよく言われますし、その通り、全然面白くないやつが大半だなとは思います。僕は定期的に今でも純文学を読んでいるのですが、途中で投げ捨てたくなる本もたまにあります(が、最後まで読んでしまうこの間違った粘り強さw)

 僕は音楽にしても文学にしても「クラシック主義」では全くありません。クラシックと言われるものも、当時は今のライトノベルみたいな流行りものだったかもしれませんし、そうだったから後世に残っている面があるはずです。

 ベートーベンやモーツァルトが現在に生まれたら、クラシックには多分手を出さず、パワー全開でプログレッシブロックでもやって、それをメジャーシーンにぶち込む、くらいのことはするのではないでしょうか。ヘビメタかも?

 僕は、盲目的にクラシック(ふるいモノ)が最上、格上と言うつもりはありません。最近のJポップもダサいな、とは思いますが、だからといって音楽的に格下だとは思いません。学ぶべきところも当然にあります。

 文学でも同様です。今のエンタメ小説が、純文学に比べ劣っているとか格下だとは思いません。
 が、当時の天才的な人物たちがどのように作品を描いてきたかというのは知っておくべきでしょう。また、この伝統ともいうべき人類の(主に日本人の)流れを知っておくのはきっとプラスになると思います。巨匠と言われるゆえんもしっかりとあります。

 思いますに、大正時代から昭和中期あたりというのは、今よりも作家が強情だったり、偏屈だったりして、その曲がりくねった感情が生のまま作品に描かれやすいし、それで一定の評価を受けられる時代だったと思います。また、現代人よりも繊細さのある作家さんがやはり多いと感じます。

 やはり、入試で出題されるのもほとんどが純文学系のものと言いますか、心情が表現されたエンタメ性の低いものです。最近のエンタメ系では日本語が崩れていたり、文章で表現すべきモノを、テキトーに時代の共通認識でのおざなりな説明や擬音で誤魔化してしまっているものも多いです。(そういうのをガサツさとして、僕は繊細さの大局に置いています)
それでは、やはりせっかく本を読んでも得る物は少ないのかなと思います。

 やはり日本人が本来もっていた、「美しい文章」の作家をおススメしたいですし、また、どうしようもなく濃い作品をあげるようにしています。(でも太宰や大江健三郎は外しました~)

36、火花 又吉直樹 文章レベル★★★

 

 

とりあえず最初はこのあたりから(笑) 昨年大ヒットを飛ばした、お笑いコンビ「ピース」の又吉直樹さんの作品です。芸人の本だと思って侮るなかれ。芸人として生きる人間の内面がしっかりと描かれていますし、今の若い人たちからすれば、テレビで親しみのある芸人さんたちが、このような葛藤を持ちながら生きているのかな、と心情理解にもつながりやすいです。

内容としては、ある芸人とその先輩芸人の日常を描いた話です。芸の道を求める二人は、売れない毎日を過ごしています。あくまで純粋に、純粋すぎるほどにお笑いを追い求める先輩芸人さんは、後輩の主人公に絶対ご飯を奢ろうとするある種完璧主義者なのです。
が、やはりお金がない売れない芸人ですので、生活を持ち崩していきます。その顛末を描き、芸を求めることの厳しさと、現実の幸せの意味を描いた(と僕は思う)温かみもあり、リアルさもある作品となっています。

又吉直樹さんは、高校時代にサッカーで全国大会に出ていたりと、売れている芸人さんに共通する「一生懸命やる」ことを青春時代に経験している方だと思います。また、控え目で、言葉にしないやさしさを感じさせる人だなと僕は思っています。そういうところも、この本を読めばより感じることができます。

テレビを見るにしても、感覚をオープンにして、その方の生き様を感じるようにするとまた、違ってくることでしょう。


37、海と毒薬 遠藤周作 文章レベル★★★☆

 



異様に濃いものを持ち出してしまいました。遠藤周作さんといえば、灘中出身でフランス留学などを経験された昭和の巨匠です。カトリックの洗礼を受けているので、キリスト教観を感じさせる作品が多いです。

中でもこの作品は、第二次世界大戦時に捕虜となったアメリカ兵に対して「人体実験」を行っていたのではないか、という怪しいお医者さんの話です。その気味悪さもさることながら、ミステリーにも通じる構造はなかなか読ませるものがあります。道徳性を問う、という意味でもわかりやすいのではないでしょうか。

まあ薄い本なので手に出しやすいかと思います。遠藤周作さんといえば、隠れキリシタンを描いた「沈黙」などが有名です。僕は「イエスの生涯」なども読んでいます。(中学生の時に読んだのでわけがわからなかったのですが)一度は読んでおいて損はないでしょう。


38、こころ 夏目漱石 文章レベル★★★★

 



夏目漱石ではこれを推したいと思います。「坊ちゃん」や「吾輩は猫である」が小学生にも読めるというので薦められたり、課題図書になったりすることが多いと思うのですが、正直、あまり面白くないのです。僕も一応種々読んでいますが、その美しい文体をめでられるだけのこちら側の資質がなければ、話的には(子供には)つまらないので、何も入ってきません(笑) ですので、僕はとりあえずこのあたりをすすめます。

「こころ」は二部構成の作品で、前半は主人公が先生の家を訪ねるというだけなのですが、後半はその先生の罪悪の告白が始まります。
先生は大学時代、親友と同じ家に下宿していて、そこでその家のお嬢さんに恋心を抱きます。が、親友Kもやはりお嬢さんが好きであることがわかり、劣等感の強い先生はいろいろとくすぶります。そして、三角関係の結末は、もっとも悲惨な形で終わります。
視点が主人公に戻ると、またさらに悲惨なことになってます(笑)

三角関係なので、ま、わかりやすい話なのです。今の感覚ですと「何死んどんねん」ってなとこなのですが(大正文学は往々にしてそう。よく登場人物が死ぬ)、そこは激情の発露ということで高校生くらいなら感動もできるでしょう。

 僕は高1か2の時に読んで、夏目作品では唯一ガツンと来た作品です。一応、今でも年に1つか2つずつ夏目作品を読んでいっています。が、まあ「こころ」で受けたような、高校の時の感動にめぐりあうことはもうないと思いますね。

 ただ、そのへんのエンタメ作品を100冊読んでも到達できない「何か」は、やはり夏目漱石にはあります。それはいくら僕が御託を並べても、読まないとわかりません。流れるように美しい響きの文章も味わっておくと損はないですね。


39、卒業ホームラン 重松清 文章レベル★★

 



中学受験で相変わらず良く出る重松作品ですが、このあたりを薦めたいと思います。重松作品の特徴はその繊細な心情の語り口で、けっこうエグ目のものもあり、薦めるのにためらうものもあります。また、話的に面白いとは言えず(子供にとってはですが)、薦めても読んでくれない子が多いです。

その中で、この作品は短編集で一つがつまらなくても次にいけるし、そもそも良い作品です。中学受験でありがちな、複雑な心情理解の問題のストライクな作品でもあります。

表題作は、主人公が少年野球の監督さんで、息子がチームにいます。が、この息子がいわゆるド下手で、自分の息子なのに試合に出してあげられない日々が続きます。結局、6年生の最終試合でぼろ負けの場面での思い出代打すらも出すことなく、息子さんの少年野球は終わってしまいます。その後、主人公の監督さんが、帰り際マウンドに登って、息子に対してボールを投げてやり、感動の場面が訪れます。

まあ、放っておいてもどこかの教材や模試で出ていることと思います。重松作品は一応、話的に面白いのは「キミのともだち」「ナイフ」などですが、ま、買ってまで読まなくてもいいかな、と思います。他の濃い作品に触れる方が、知能的には伸びるでしょう。
課題文などで触れた時に続きや前後が気になったら買うようにすればいいと思います。


40、戯作三昧 芥川龍之介 文章レベル★★★☆

 

 

さて、僕が敬愛する芥川龍之介です。この後にも何冊が出てきますが、まずはダントツで僕が好きな作品から。江戸時代の作家、「南総里見八犬伝」の滝沢(曲亭)馬琴に題材をとった戯作三昧です。

芥川は短編作家なのですが、これはちょっと長いです。芥川のとらえ方としては、自殺する直前の作品になるにしたがい、作風が暗くなっていくので、子供さんに薦めるときは初期が良いのですが、僕はこの中期の代表作を推したいです。

うだうだと平和な江戸で暮らす馬琴たちの話が描かれるのですが、滝沢馬琴はどんな私生活の些事よりも、芸術を至上とする、「芸術至上主義」なのでした。その万年の馬琴の葛藤から、芸術に驀進(ばくしん)していく最後の場面は、中学生の僕の心をドカーンと打ちました。

以来、僕は芸術やアート性を至上とする感覚がずっとあります。その純粋なまでの芸術への想いは芥川自身の願いであり、凄みにもつながる部分です。後期、自殺に向かっていく一因がそこにあるのかもしれません。

個人的には「地獄変」「大導寺信輔の半生」「或阿呆の一生」なども捨てがたく好きです。ま、小学生でもこの後オススメする初期作品と、地獄変くらいまでなら読めると思います。

 このあたりの芥川作品は、中学の時に現国の授業で扱ったものが大半です。退屈になりがちな現国の授業ですが、通年で芥川作品をゆっくり読み下してくださったその授業は、とてもその後の僕にとって大きく、純文学の入り口となってくれました。ま、テストはここから普通に習ってない漢字とかも出たので、けっこうしんどかったのですが、その授業は楽しく、深く、ありがたかったです。
この先生は百人一首の百首全解釈などもしてくれ、非常に僕の人生に大きな影響を与えてくれています。

 やはり、せっかく私立なのですから、普通に教科書をやる以上の授業をしてほしいものです。ただ、それには先生側の資質も(当然生徒側の資質も)高いものが必要なので、そういう意味でもよさ気な進学校に行かれることは意味が大きいです。(このあたりは先生運もありますが)


 10代のうちに、一度はただただ濃い、純文学の世界に触れてみることをオススメします。エンタメ系のものは何歳で読んでもいいのです。それよりは、感覚がビビッドなうちに「ぐさ」っとくるものを読んでおくと他の子たちとは違うステージに行けることでしょう。

 これはもう、読んだ人間同士にしかわからない世界です。僕の生徒から、この同じステージで会話できる子が出てくるのを待っている節もあります。(音楽などではもうプロレベルで話せる子がいるのですが)

 いつも読んでくださってありがとうございます。


このオススメ100タイトルの判断基準は、子供の「視野を広げ」「思考力を深め」「エログロナンセンスの少ないもの」といった感じになっています。ご活用いただければ幸いです。




お問い合わせいただいたメールに返信はできていますでしょうか? 迷惑メールとして処理されてしまって届いていないということがたまにあります。僕はどんな内容でも、1週間の間に必ず返信は行いますので、1週間経ってもこない方はお手数ですがもう一度しっかりタイトルなどもいれて送っていただければと思います。問題集に載っているアドレスの方にだしていただいても構いません。


5年生や受験学年でない方のコンサルも受け付けております。また、遠方の方も交通費さえ頂ければどこにでもいきます。(九州や群馬、栃木、大阪、奈良、兵庫、京都などもありました)

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