いろんな世間や社会が複雑に絡み合ったサスペンス調の『朽ちないサクラ』 | 週刊テヅカジン

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手束仁が語る、週刊webエッセイ

 県警と反社会組織の関係性を描いて面白かった『孤狼の血』の原作でもある柚月裕子の原作の映画化『朽ちないサクラ』(原廣利・監督/我人翔太、山田能龍・脚本)。内容的には、いくらか重い社会派のサスペンスミステリー映画である。

 一つのストーカー殺人事件をきっかけに、そのストーカー調査を先延ばしにしていたことから起きた事件。そこにはさらには警察の不祥事や守秘事項が漏れたこと、そしてヒロインの親友の女性記者の死、と事件が重なっていく。そしてさらに、その奥底にはかつてのオウム真理教のようなカルト宗教の存在が絡んでいた。

 設定は愛知県警で、舞台は県内の架空の都市。ロケ地は豊川市や蒲郡市などもあったようだ。

 事件の真相を県警の警察ではなく広報職にある主人公は、親友の死の本当の理由を知りたいということから、探っていく。そうこうするうちに、警察内の公安vs刑事の「同じ屋根の下に住む他人」という組織構図も絡んできて複雑になっていく。だから、当初は観ながら、登場人物たちの関係性を頭の中で整理していくことに追われていた。それでも、事件がさらに先の事件を生んでいくことで、サスペンス調になってからは引っ張られていくような感じで観ていっていた。

 正義とは何なのか、また、誰のための正義なのか…。真相を突き止めていけば行くほどぶち当たる組織の闇と壁。そして、今の時代は特に、ことのほか重視されていく個人情報などの守秘義務。そのシークレット情報を誰がどこまで掴んでいるのか。それを得るにはどうしていくのかという組織の中での難しさ。そんなところも表現されていたのだろうかとは思う。

 事件の解明を進めていくうちに、様々な障害をクリアしていきながら心も成長していくヒロインを杉咲花が巧みに演じていた。また、その上司で過去の捜査上の失敗の悔いを引きずっている元公安の刑事が安田顕。県警捜査一課の刑事が豊原功補でこの二人が映画ストーリー上の敵か味方かという構図も入り乱れていく役どころだった。それはそれで、それぞれに見どころはあった。

「世の中に たえて桜のなかりせば 春の心は のどけからまし」という在原業平の句が出てくるが、これがタイトルの意味にもかかっていて、これは上手いなぁとも思わせてくれた。

 人を信じるということの難しさと苦悩というところも、十分に味合わせてくれた。そんな重たい要素もあったけれども、鑑賞後は、やはり観ごたえはあったかなと思わせてくれた作品ではあった。