大学野球の、ちょっといい話と言ってもいいのかなぁ… | 週刊テヅカジン

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 第73回全日本大学野球選手権大会は、学生野球の聖地ともいえる明治神宮外苑球場と東京ドームで10日から始まって、熱戦が続いている。

 大学野球日本一を決める戦いだが、様々な形で高校野球を経て、さらに野球を続けたいという選手たちが、大学へ進学して野球選手としての道を選択していっている。 

 大会3日目の12日、ベスト8を決める2回戦が行われていた。神宮球場の第一試合は、愛知大学連盟の中京大と東海地区大学連盟で岐阜県関市にある中部学院大という、東海勢同士の対戦となった。

中京大・安藤利玖君(4年・安城南)

 

 中部学院大は昨年の大会ではベスト8に進出している。近年は、東海地区の大学野球で存在感を示している気鋭である。広島の床田寛樹や野間峻祥などを輩出している。

 中京大は今年創立70周年を迎えるというが、愛知大学野球連盟の老舗でもあり、全日本選手権は20回目の出場となる。とはいえ、このところはあまり全国の舞台で勝ててはいない。平成時代には全日本選手権で1勝しかしていなかったということを聞いてびっくりした。

 

中 京 大000 300 000=3

中部学院大000 000 000=0

 

 その中京大だが、中部学院大を川瀬譲二君(3年・藤枝明誠)の3ラン一発で下した。その試合で完封したのは、安藤利玖君(4年・安城南)だった。今春になって、初めてリーグ戦で投げて、4~5回くらいを投げていたという。この日は「5回まで行って、良さそうだから、いけるところまでいこう」と半田卓也監督が判断したのだが、結果としては6安打完封、9奪三振。内容としては、与四球0というのも大きかった。

 

試合を決める3ランを放った中京大の川瀬君(3年・藤枝明誠)

 愛知県でも高校野球では、いわば無名校に近い安城南出身である。それでも、2019年の秋季県大会では、その大会では優勝候補の一角にも上げる声もあった至学館に対して粘りの投球で延長の末に勝利している。ベスト8を目指した3回戦でも、敗れはしたものの、強豪の豊川に相手に好投した。

 中京大に進学後は、ケガもあって、ほぼ2年間戦力から外れていた。結果として、学生コーチのような立ち位置でフリー打撃の投手などを黙々と務めていたという。それが昨秋あたりから、かなりいい球を投げ込んでくるので半田監督が「ちょっと戦力としてメンバーに入れてみようか」と思って今春にメンバー入りしたということだった。リーグ戦では、初先発で好投するなどして戦力として認められた。

囲み取材のインタビューに応える安藤君

 そして、チームもリーグ戦を逆転優勝で飾って出場した全国の檜舞台。先発を任された2回戦で一世一代の好投をしたといっていいであろう。

 安城南時代の伊佐治琢磨(現岡崎商)監督は「コロナ禍や怪我を乗り越えて、よく野球をやり続けてくれた」と、安藤君の頑張りを称えていた。高校野球の現場では、二極分化が加速度的に進んでいるけれども、こうしてどこにでもある普通の公立校出身の選手が、大学へ進んでも野球を続けて、全国という舞台で活躍していくことは、より輝き価値のあるとこではないのかとも思う。

 こうした、安藤君のような選手が頑張ることは、とても大事だと思っている。多くの普通の学校で高校野球をやって、可能性があれば上(大学や社会人)でも野球を続けたいと思っている選手たちにとっては、とてつもない勇気を与えていくことになるのではないかと、そんな気がしている。

 安藤君には、大好きだというもんじゃ焼きをエネルギーにして、社会人野球などさらなる上のステージを目指してほしいとも思っている。