今年の邦画ラインアップの中で、9月下旬のこの時期に『総理の夫』(河合勇人・監督/松田沙也、杉原憲明・脚本/原田マハ・原作)が予定されていたとは、今さらながら驚いている、とともに感心している。まさに現実に、自民党総裁選挙が行われており、それはイコール内閣総理大臣の選出ということになっている。しかも、その総裁選には実際の当選可能性云々は置いておいたとしても、女性総裁候補が二人も出ているのだ。それだけでも、大いに話題になっている。
まあ、そんな狙いのタイミングだったのかどうかはわからないけれども、ある意味ではタイムリーだったとは言えるのではないだろうか。
実際の総裁戦は、決選投票にもつれ込んでいくことは必至と言われている。
そんな現実は置いておいたとして、映画『総理の夫』である。グローバルカンパニーの御曹司で、裕福な家庭で“鳥類ヲタク”の主人公・田中圭は某鳥類研究所に勤めている。そして、その妻の中谷美紀は少数野党の党首として活動している政界注目の人物だ。それが、政界の長老と言う腹の黒いことを暗示している岸部一徳の策略で連合政権で総理に祭り上げられる。その間、夫は渡り鳥の生態研究取材で北海道の果てへ行っていて、電波状態もままならないというところがミソ。
帰って来てみたら、いきなり「総理の夫」になってしまっていて、メディアの的にもなっているのだ。
野党というのは、与党に対して文句ばかりを言っていたワイワイやっていれば、何かと活動しているかのように見える存在ではある。ところが、それがあるとき突然逆転して、総理大臣になってしまうというところから、想定内、想定外を含めた混乱の毎日が生じてくる。
政界の権力構図や、駆け引き。一方で、女性総理となった彼女の理想を思い描いていくうちに、現実は足の引っ張り合いやいろんなことも起きながらも、そんな中で右往左往する“総理の夫“が少し気の毒でもあり愛おしくもあるようにも思えた。
夫としては頑張っているのに、スキャンダルを仕掛けられたり長老に裏切られたり。またまた寝返って助けられたりという展開でストーリーは進んでいく。
映像的には、総理公邸も含めて、ソウマグローバルの大邸宅などのスーパーハイソサエティーな生活空間も「ほう…」とため息をつかせるような楽しさもあった。余貴美子のゴッドマザーぶりや、コンツェルンの後継者で総理の夫の兄という立場の片岡愛之助の様子も、それはそれでよかった。
ストーリー的には、ラストへ向けて、「何も出来ないボクですけれど…」と一生懸命に現実に向き合っていく主人公の“総理の夫“のひたむきさは終始、好感が持てた。
図らずも今のこのタイミング、日本国内では総裁戦だけではなく、「総理の夫」ならぬ「皇族の夫(予定者)」の存在が、ことのほかクローズアップされてきている。しかも、オールハッピーな形ではなく、何となくグレーな背景を匂わせながら、世間に晒されようとしている。
そんな話題性はまさか予測してはいなかったとは思うけれども、そんなこんなも含めて、いろいろ考えてみていると、それはそれで面白いかと思える。映画だった。
今の時代、ちょっとでも世間を敵に回すと、とてもじゃないけれど生き苦しい。まして、公的なポジションの人間であればあるほど…だ。
そういう意味では、この作品での“総理の夫“田中圭はとても好感が持てて良かったのかなぁとも思わせてくれた。それにしても、このところ田中圭は『哀愁しんでれら』、『ヒノマルソウル』などで、それぞれ異なる役どころの“夫”ぶりが、それぞれに印象的でもあった。なかなかハマる俳優なのかなぁ、とも思っている。



