面白いけれども、実は恐ろしい映画でもあった『おとなの事情~スマホをのぞいたら』 | 週刊テヅカジン

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手束仁が語る、週刊webエッセイ

 原作(オリジナル作品)は2016年のイタリア映画だということだ。それが、世界18か国でリメイクされてきているというから、万国共通のテーマなのかもしれない。というのも、今のスマホ社会というか、個人情報云々をいいながら、一方では、その個人情報を晒していくことの恐怖。人のプライバシーとは夫婦の中でもどこまで入り込んでいっていいのかということも含めて、興味深いテーマとも言えようか。『おとなの事情~スマホをのぞいたら』(光野道夫・監督/岡田惠和・脚本)はそんな映画である。

それぞれに、隠し事はないはずだったのだけれども…

 8年前の大きな台風の時に、たまたま避難した家の3階で三日間を過ごして救助された一家族と夫婦にカップル。そして一人の男が、その避難生活の中でコンビーフを分け合いながら何とか生き延びたという絆が出来た。それを機に毎年、集まってパーティーを開いていた。気心の知れた3組の夫婦と一人の独身男という集まりになっていた。

 月蝕の日に集まった彼らは、もちろん、それぞれの家庭の事情も全く異なる。そして当時のカップルが新婚となっている、そのイタリアンカフェで集まることになったが、そこで、今後の結婚生活にちょっとした不安を感じていた新妻の木南萌夏が、全員にスマホをオープンにしてパーティーを進めていくことを提案する。

 そこで起きる、それぞれのスマホへのコールやメール。それが、それぞれの事情を少しずつ暴露させていくことになる。

 それぞれの家庭や夫婦に、そして一人のモテない男(これを東山紀之がやっているところも面白い)にも、人に言えない自分だけの秘密を持っている。そんなところから始まったスマホゲームだったが、それが思わぬ展開でそれぞれの隠していたことが晒されていく。

 人に言えない、あるいは言いたくない秘密があって、それを隠そうとすることで、さらにややこしくなっていく。その構図は、一つの小さな嘘をついて、それを繕うためについた嘘で、さらに嘘が膨らんでいくということにも似ている。

 

 そんな人間の本質というか、心理描写が面白いともいえる。

 そして、そうした心理は人間である以上、どんな人であろうが誰しも多少は抱いているものだ。だから、このテーマでこれだけ多くの国でリメイクされていったということにもなるのだろう。そういう意味では、恐ろしい映画でもあったと言えようか(苦笑)。

 夫婦だからといって、あるいは親子だからといって、何の隠し事もないということは、むしろそれこそがキレイゴトになってしまう。そんなキレイゴトが一つひとつ剥がされていく。そして、やがて電話が鳴ったりメールの合図が入る度に「今度は自分じゃないのか」と冷や冷やする。そして、自分でなかったら、ホッとしつつ他人のメールの内容が気になっていく。そんなやり取りの連続が、次々と興味を引いていかせてくれる。

 

それぞれの絡み合いも結構、見どころだったともいえる…

 作品的には、序盤を除くとみんなが集まったイタリアンカフェの中でのやり取りがほとんどなので、あまり動きはない映像だ。だけど、そんな中で心の動きはとてつもなく右往左往するわけで、そんなところも面白いと思える。最後は、上手に収まっていくのではないかと思いつつも、次に起きることへの興味は飽きさせなかった。

 それに、益岡徹と鈴木保奈美の医師夫婦、常盤貴子と田口浩正の夫婦、チャラい雇われ店長の淵上泰史と木南晴夏の若い夫婦。そして、実は…人に言えない性癖があった…という東山紀之。そんなキャスティングの妙もあったのではないだろうか。