今回は、不動産事業会社の監査のときに話題なった会計処理の論点についてご紹介します。
もともとマンションを賃貸用不動産として、決算書上は有形固定資産に計上していた建物を、期中に販売用不動産として保有目的を変更し、固定資産⇒棚卸資産(商品)への振替処理が行われたという事例がありました。
不動産取引は金額規模が非常に大きく、会計上のインパクトが大きいため、上記振替処理の合理性については、慎重に検討する必要があります。
例えば以下のような観点で、会計処理の合理性検討を行うことが重要と考えられます。
【棚卸資産へ振替えた場合の、具体的な事業計画を作成しているか?】
仮に販売用不動産として売った結果、収支が赤字になるような場合は、経済合理性があるとは言えず、当該振替処理が認められない可能性があります。
【利益調整目的ではないか?】
仮に固定資産から棚卸資産への振替時点~販売時点まで数カ月間のタイムラグがあり、その間の(※)減価償却費の計上を回避することで、営業利益が赤字⇒黒字転換するような場合は、利益調整目的でないかという観点で、振替の目的合理性について慎重に検討する必要があります。
※棚卸資産の場合、減価償却費計算は発生しないこととなります
【資金繰りに窮したため、一括的なCFが必要だった?】
この場合、通常の営業サイクルの中での商品販売ではなく、自社資産の切り売りであり、固定資産の売却処理が適切である可能性があります。またキャッシュフローの観点でも、営業CFではなく「投資CF」が妥当といえるかもしれません。
【会社として明確な意思決定はあったか?(なんとなく振替えただけではないか)】
ただ社長個人のノリで決めたのではなく、取締役会決議等で、保有目的の変更に関する意思決定が行われたことが、議事録などで文書化されていることがポイントです。
【保有目的の変更自体が、固定資産の減損の兆候に当たらないか?】
賃貸用不動産としての直近の収支実績を確認し、仮に継続して赤字だった場合は、そもそも棚卸資産へ振替る前に(※)固定資産の減損処理が必要ではなかったか?
※参考:減損の兆候
減損会計 第4回:減損の兆候 | 解説シリーズ | 企業会計ナビ | EY Japan
不動産事業会社の場合は、建物や土地自体が商品のため、固定資産か棚卸資産の分類が曖昧になりやすいです。
それを良いことに、上記のような保有目的の変更が繰り返し行われているような場合は、上記のような観点で振替処理の合理性検討を行うことがとても重要です。