今回は、上場準備会社様の決算書を拝見する中で、たまに見かけるやや特殊論点「任意組合出資金の会計処理」について解説します。
任意組合出資は、不動産事業会社では比較的多く見かける取引です。

任意組合とは、各当事者が出資をして共同の事業を営むことを合意することにより成立する組合です。
任意組合は法人格を持たず、民法上、組合の財産は各出資者(組合員)の「共有」となります。また組合の権利義務は、基本的に各組合員の出資割合に応じて帰属するものとされています。

任意組合の投資スキームでは、出資者が複数いるため、一人当たりの出資額を小口化でき、初期投資の負担を少なくできるなどのメリットがあります。また出資方法は、金銭出資以外にも、現物出資、労務出資といった複数の方法で柔軟に認められている点などが特徴です。

※本記事はあくまで会計処理がメインのため、任意組合自体の詳細は割愛させていただきます。(そもそも私の知識が皆無の分野のため語れません。。)

任意組合等に対する出資金の処理方法は、金融商品実務指針132項にて、以下3パターンのいずれかを選択し、組合員(出資者)側の決算書に取り込むことが求められます。 

①組合側の貸借対照表・損益計算書ともに、出資者持分相当額を純額で取り込む(純額方式/Net-Net法)
⇒出資者が単なる資金運用として考えている場合に適した方法
②組合側の貸借対照表は純額で取り込み、損益計算書は各勘定科目の持分相当額を取り込む(損益帰属方式/Gross-Net法)
①③いずれにも該当しない場合に選択
③組合側の貸借対照表・損益計算書ともに、各勘定科目の持分相当額を取り込む(完全認識方式/Gross-Gross法)
出資者自ら組合の事業運営や組合利益の計算に直接関与するような場合に適した方法


実際の投資においては様々なシチュエーションが想定されるので、投資の多様な実情を踏まえ、任意組合出資の契約内容の実態等を考慮し、経済的実態を適切に反映するための会計処理方法を、上記3つの中から選択することが求められています。(金融商品実務指針308項)

なお私がこれまで見てきた実務では、会計処理①を採用している会社がほとんどです。
現実的に各出資者は自身の本業等で忙しいので、組合の事業運営には直接関与せず、利益分配を受ける目的で資金提供を行っているにすぎないような実態が多いと考えられます。

【仕訳数値例】
以下で、簡単な事例を用いて、A社側の仕訳について解説します。

<事例>
・2022年4月、A社及びB社は任意組合であるCに対して、計5,000を出資した。
・A・B社、及びC組合ともに3月決算
・A社のC組合に対する出資割合:40%
・2023年3月(決算)時点のC組合側の最終利益:500。出資割合に応じて最終利益を組合員A・Bに分配する。
・2023月5月:A社は200の現金配当を受けた。

<(1)2022年4月:出資時>
(借)出資金 2,000  (貸)現金 2,000(*)

 

(*) 5,000×40%

任意組合出資を行っている会社の会計処理は、たいていの場合この仕訳(1)止まりです。

特に経理体制の整備や会計リテラシーが十分でない上場準備会社では、(2)以降は多くの場合未処理と思われます。
というか本件はかなり特殊な会計処理なので、おそらく会計士でもみんながみんな知っているわけではないと想定されます。。

<(2)2023年3月:決算時-損益分配>
(借)出資金 200  (貸)出資金運用損益(*2) 200(*1)
(*1)500×40%(A社出資割合)

(*2)出資の成果としての損益の勘定科目は、特に明確な規定はありません。適切な実態を表す勘定科目を使いましょう


C組合側で発生した利益500のうち、A社の持分相当額200を、A社の決算書に利益として取り込みます。
当初2000の出資金に対して200取り込む(=増加させる)仕訳を計上します。
結果、損益分配後の出資金残高は2,200(2,000+200)となり、損益分配により投資価値が増えました。

なお本仕訳は、上記会計処理方法①に基づいています。この仕訳は連結決算でいう「持分法適用仕訳」と同じようなイメージといえます。
 

※持分法に関連する記事:持分法 第3回:持分法の適用手続 | 解説シリーズ | 企業会計ナビ | EY Japan

なお、この損益分配は有価証券の時価評価における「含み益」と同じイメージですが、会計・税務上は共に含み益ではなく、実現した収益として認識されます。

<(3)2023年5月:現金分配※>
(借)現預金 200  (貸)出資金(*) 200

(*)PLの「受取配当金」勘定は使いません!

出資者は組合の計算期間にて発生した利益分の現金分配を実際に受けたことで、A社側の出資金簿価を200減額します。

その結果、出資金の価値はもとの2,000に戻ります。

※現金分配時の源泉所得税を考慮しないものとします

【参考】
本テーマの会計処理の根拠条文は【金融商品会計に関する実務指針132、308項】になりますので、興味のあるかたは参照ください!
https://jicpa.or.jp/specialized_field/publication/files/2-11-14-2-20160325.pdf