最近、M&Aを繰り返して、短期間で事業を拡大していく会社が増えています。
上場支援の仕事をしていると、上場準備中のフェーズであっても、立て続けにM&Aをされている会社を目にすることがあります。
上場準備中にM&Aが行われると、会計士として検討すべき論点も当然増えていきます。
特に負担が大きくなってくるのが、連結財務諸表に関する論点です。
例えば、
・のれんの評価方法や償却期間
・グループ法人税制
・みなし取得日の決定
・連結の範囲
などなど、単体の財務諸表だけを見ている場合には出てこない、連結固有の論点が次々と出てきます。
ただこれらは難しい論点ではありますが、会計的には、M&Aを行えば当然に検討することになる「定型的な論点」です。
ただ、たまに見かける少しやっかいなのが、子会社を連結の範囲から外すことを意図した取引です。
いわゆる「連結はずし」です。
<「連結はずし」とは?>
例えば、M&Aによって子会社を買収したとします。
ところが、買収後になって、
・実は過去から不正取引を行っていた
・訴訟問題を抱えていた
・実は債務超過だった
・資金繰りが厳しく、破綻寸前だった
・売上は増えているものの、利益は毎期赤字だった
など、買収前には十分把握できていなかった問題が次々と発覚するケースがあります。
そうなると親会社としては、
「この会社、連結したくないな……」
という話になるかもしれません。
そこで、連結から外したい子会社の株式を、親会社の社長個人などに売却しよう!と思いつくことがあります
形式的には、
親会社 → 社長個人
と株式の所有者が変わるので、
「もう親会社は、その子会社を支配していません」
という形を作るわけです。
これが、いわゆる「連結はずし」に該当する可能性があります。
もちろん、株式を売却したことだけをもって、直ちに「連結はずし」と判断されるわけではありません。
問題となるのは、その売却によって、本当に親会社の支配がなくなったのかという点です。
<なぜ「連結はずし」が問題なのか?>
そもそも、なぜ連結から外したいのでしょうか。
一番分かりやすいのは、子会社の悪化した業績や財政状態を、親会社の連結財務諸表に取り込まなくて済むという点です。
例えば、買収した子会社が、
「売上は大きいけれど、毎期赤字垂れ流し」
だったとします。
その会社を連結すれば、当然、その赤字も連結財務諸表に反映されます。
ところが、決算直前にその会社を形式的に親会社の支配から切り離して、
連結対象から外すことができてしまったらどうでしょうか。
親会社の連結財務諸表だけを見る投資家からすると、
「このグループはこれだけの売上・利益を上げています」
と見える一方で、実際にはグループとして抱えている赤字会社の業績が連結財務諸表から抜け落ちていることになります。
これは、連結財務諸表が本来表そうとしている企業集団の財政状態や経営成績を適切に表示するという趣旨からすると、
大きな誤解を招くことになります。
だからこそ、連結の範囲は単純に「株式の名義が誰になっているか」だけで決めることができません。
<連結の範囲は「実質的な支配」で判断する>
「連結財務諸表に関する会計基準」において、親会社と子会社の関係について支配力基準が採用されています。
簡単に言えば、
「株式を何%持っているか」
という形式だけではなく、
「実質的にその会社の意思決定を支配しているのか」
という観点から、子会社に該当するかどうかを判断します。
そのため、
「親会社が子会社株式を売却した」
という事実だけで、必ず連結から外せるわけではありません。
例えば、親会社が保有していた子会社株式を、親会社の社長個人に売却したとします。
形式的には株式の所有者は変わっています。
その結果、親会社社長がその子会社の意思決定を行っていることとなりますが、
結局は「親会社(=親会社社長)がその子会社の意思決定を行っている」のであり、支配の実態は従来と変わらないと捉えます。
よって「株式を社長個人に移したので、連結から外します」という処理は認められません。
要するに、連結の範囲は「誰の名義になったか」ではなく、「実際に誰が支配しているのか」が重要ということです。
<決算日直前に株式を売却するリスク>
さらに分かりやすい問題として、
「決算日の直前に子会社株式を社長個人などに売却する」
↓
「その子会社を連結から外す」
↓
「翌期になったら、また親会社が買い戻す」
というようなケースです。
こうなると、
「なぜ決算日の直前に売却したのか?」
という疑問が当然出てきます。
特に、
・決算期末だけ売却する
・翌期になったらすぐ買い戻す
・売却後も実質的に親会社側が経営をコントロールしている
・そもそも売却する経済合理性が乏しい
といった事情が重なってくると、その取引によって本当に支配関係がなくなったのか、慎重に検討する必要があります。
もし実質的には支配関係が続いているのに、決算数値を良く見せるためだけに一時的に株式を移しているのであれば、
「本来連結すべき会社を、不当に外しているのではないか。」
という、連結財務諸表そのものの信頼性に関わる問題になります。
このあたりが、「連結はずし」が会計士としてやっかいだと感じるところです。
<まとめ>
本日のまとめスライドです。
M&Aを繰り返すことで、短期間で売上規模や事業領域を大きくすることは可能です。
ただ、会社を「買う」ことと、その会社を「グループ会社の一員としてうまく統合する」ことは、全く別の話です。
企業文化や人事制度、業務システムなど、それぞれ異なる会社を一つのグループとして機能させていくには、相応の時間と労力がかかります。(こうした買収後の統合プロセスは、「PMI(Post Merger Integration)」と呼ばれますが、本記事ではこのあたりは割愛します。)
そして、買収した後になって想定外の問題が発覚したからといって、
都合の悪い会社を決算上だけ切り離せばいい、というものでもありません。
今回の「連結はずし」の話もそうですが、会計では、形式的な取引の形だけを見るのではなく、
株式の移動によって、実態として子会社の支配関係は変わったのかを見ることが重要です。
M&Aというと、どうしても「会社を買って、売上を増やして、規模を大きくする」という部分に目が行きます。
会計士としても"のれん"など、複雑な会計処理に目が向きがちです。
ただ、M&Aの本当の難しさは、
会社を買った後に、その会社を含めて一つの企業グループとしてどのように運営していくか、
というところにあるのかもしれません。
そして、そこで問題が発生したときに、
「都合が悪いから、連結から外してしまおう」
ということではなく、その会社をグループとしてどう立て直していくのかまで含めて考える必要があります。
M&Aは「買って終わり」ではなく、買った後からが本番。
会計士としてM&Aに関わっていると、そんなことを感じる場面が多々あります。






































