A8000を買ってからもう4か月が経ちました。
去年のポタフェスの日にその音に惚れ込んでからは,、もう10か月も経ちますね。
書こう書こうと思いつつ、非常に難しい題材だということも感じていましたので遅くなってしまいました。
もうSNSでの話題も随分落ち着いて、また自分の中でもしっかり聴き込んだのでレビューにまとめようと思います。
final A8000
ステンレスの鏡面仕上げが美しく、シンプルなデザインです。
<オススメ度>☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 10 (購入済)
【製品概要】
finalとは、元々高級ホームオーディオの会社でした。
非常に独特なコンセプトや技術を持っており、いわゆる「一風変わった製品を作る会社」として一目置かれていたようです。
そんなfinalは今やイヤホン業界でEシリーズ、Bシリーズ、Piano Forteシリーズ、Heavenシリーズ、MAKEシリーズ等…非常に多様なイヤホンを作るメジャーなメーカーとなっています。
そんなfinalが発表した「Aシリーズ」の一番槍がA8000です。
A8000は「トランスペアレントな音」というコンセプトで作られました。
距離が離れたところに定位した音が明瞭であるという音の印象、という意味です。
例えば、空港の中でピアノの音が聴こえた時に、それが「生のピアノだと分かる音」。
コンサート等の「遠いのに明瞭に定位が分かる音」を目指しています。
お値段は20万円。今でこそJH AUDIOや64 Audio、Empire Earsといった超高級メーカーが有名なので驚く価格では無くなりましたが、finalがハイエンドのど真ん中の高級価格帯にいきなりイヤホンを投げ込んだ事で非常に話題になりました。
またA8000はイヤホンという製品ではまだ実用化されていなかった「トゥルーベリリウム振動板」を搭載。
同時期にDUNU TopsoundからLUNAという純ベリリウム振動板搭載機が発表されましたが、それまでは主にスピーカーで使われる素材でした。
ドライバーの素材は「硬くて軽い」事がとても重要です。
ベリリウムはその点で理想の素材と言われていますが、イヤホンドライバーのサイズで薄箔に成型する加工が難しく、近年ようやく実用化に至りました。
ベリリウムの有用性についてはA8000のページで解説があります。
これらの非常に斬新な技術、コンセプトから注目度は凄い事になっており、実際にポタフェス2019冬の会場では終始A8000の試聴列が伸びっぱなしでした。
2020年になってもSNSでは話題が尽きず、市場の評価も総じて高い事から「20万円台の定番」に定着しています。
【ケーブル】
付属しているのはfinalオリジナルのシルバーコートケーブル。
見た目が非常に綺麗で、取り回しも良くクセもつきにくい良いケーブルです。
ただA8000は堅牢性の為かMMCXコネクタが非常に硬いです。
付属のMMCX ASSISTを使用しないと外しにくく、また付ける時も結構力が要ります。
あまり着脱を頻繁に行わない方が良いでしょう。
【装着感】
A8000はBシリーズから形状を受け継いでおり、角のある形状になっています。
複数の角で耳に接地する事で安定した装着感を得るという事のようですが…
私は短時間の装着では一切問題は感じなかったのですが、家で長時間聴くようになってからこの形状の辛さを感じてしまいました。
ステンレス筐体で重いという事と、ケーブルの引張りが起きると点での接地の為ズレやすく、下部の角に荷重が掛かってしまう事があります。
そうするとなんとも言えない、じわじわとした痛さが出てしまいます。これはA8000の弱点の1つだと思います。
サイズの大きいイヤーピースで保持する事も試したのですが、サイズの大きい物を保持の為にしっかり入れるとイヤピース自体の反発で耳穴が痛くなる、という事も起きてしまい本末転倒に。
現在は体温で変形する熱可塑性エラストマー素材のイヤーピース「SednaEarfit XELASTEC」を使用しています。
イヤーピースで本体重量を支えるための保持力の強化、耳道に合わせた変形により本体の捻じれ・ズレを防ぐ効果があり、非常に有用でした。
まるでCIEMのように変形をするので密閉度も上がり、とても良いです。
【音の特徴】
<帯域バランス>
低域 ☆☆☆☆- 4
中域 ☆☆☆☆★ 4.5
高域 ☆☆☆☆★ 4.5
<印象評価>
低域 9.4
中域 9.1
高域 9.4
※評価環境として、イヤピースをSednaEarfit XELASTEC、ケーブルは純正ケーブルを使用しています。
A8000の音の特徴はすべての音の立ち上がりが非常に早く、残響が非常に綺麗です。
finalの目指す「トランスペアレントな音」は説明が難しいのですが、いきなりある一点に音が現れ、そこから広がるように自然な残響が伸びて消えるような非常に特殊な音がします。
ピュアベリリウムドライバーの高い硬度、軽さによる
「音の立ち上がりの速さ・反応の良さ」
「余計な歪み・響きの少なさ」
がしっかり効果を発揮していると思われます。
テトラチャンバー構造によって背圧もうまくコントロールされており、計算され尽くした音だと思われます。
ちょっと思い立ったので、測ってみました。
A8000のF特性(ピーク)
参考:SE846のF特性
SE846の10k以上の波形は倍音と共振によるピーク値で、実際はもっと減衰は早いです。
HeadfiにあるA8000とSE846の比較評にもSE846の方がA8000よりも早く高域がロールオフすると書かれています。
A8000の方が共振のピークがしっかり出ている為、やや明るく聴こえるようです。
計測中の物(上:A8000 下:SE846)
SE846の方が二次倍音が強いですね~。
高域の倍音・共振もA8000に比べてかなり大きく、この辺りは多ドラ(3way4BA)である事が影響しているかも知れません。
複数のドライバから別の音が出る故の音の濃さ、分解能が影響していそうです。
低域は比較的大人しいと思われがちですが、実は結構よく出ます。
音圧はほどほどで、響きのある音はしっかり空気を震わせるように出ます。
低域の深さがしっかりしており、非常に質がいいです。というか全体的にそういった「音の質感」の良さがこの機種の肝だと感じています。
量としては十分出ていますし、音量とは別に「トランスペアレント」な部分、遠くから良く聴こえる音が安定した低域の主張を支えています。
ブンブンと圧と量を出す低域とはまた別のベクトルですね。音像はスマートなのに実に良く聴こえます。
中域は音が多く重なる帯域ですが、分離感の高さが群を抜いているおかげで非常に高解像度。
特にクラブサウンドは中域・中高域に音が集中しつつ、音数も多いです。
A8000の場合はそういった複数の音が全て別の点から出ている感覚になります。
ボーカル、生音、電子音、サンプリング、エフェクト、シンセパッドといった質も全く異なる音が実に各音完璧な解像度で振り分けられていて、これは他の高解像度のイヤホンとは全く違う、A8000特有の聴こえ方だと思います。
高域は響き方もそうですが、響きが滑らかな事で非常に立体感のある音に感じます。
音の濃さや厚みに該当するイメージかもしれませんが、1枚の布のような抜け感・質感なので音の存在感がしっかり感じられます。
また、刺すような刺激的な音もかなり上手にこなしてくれます。
刺さるテスト曲をかけて「あ、この音が刺さるんだな」と判別はつきますが、若干耳障りで集中力が削がれるレベルまで達したことはほぼ皆無です。
音場の広さはイヤホンの域ですが、非常に広いです。ギリギリ頭外に定位を感じる事もできるかもしれません。
音像の定位が独特で、分離感が素晴らしい事は先に述べましたが、かなり自由自在に音像の定位を変えて音を出す事が出来る為、イヤホンのドライバから音が出ている感覚がしません。
頭の中心部の上下左右はもちろん、耳の上下左右からでも平気で音が出ます。
かなりあちこちから音がする為、気持ち悪い人も居るようですね。
ただ、これがクラブサウンドには実はかなり素晴らしい相性を誇っています。
クラブミュージックって、基本はDTMです。現実の音像の定位なんて存在しません。
もちろんパンや音の強弱で定位を動かして立体感のある音源を作られては居ますが、録音やライブ演奏の音源とは全く違う「構成された」音像です。
そういった種類の音楽ですので、音場が狭く上下にも広がりにくいイヤホンで聴くととても平べったく、パンを振られてもイヤホンの間を左右するだけだったりします。
A8000はそれらの「構成」された音像定位を余すこと無く表現し、拡張し、非常に臨場感・躍動感のある音場を構築してくれます。
やたらあっちこっちから音がする、というのを「音場がメチャクチャ変」と言って嫌っている方もお見かけしましたが、ステージで演者が演奏する楽器から音が出るジャンルですと、確かにそんな所に楽器は無いよとなるかも知れません。
でもクラブサウンドには一切関係無いです。ステージも演者も居ないし楽器も無いです!!
上記の理由から、A8000は実はクラブサウンドに非常に相性がいいのでは?と内心思っています。
総じて帯域のバランス・解像度・分離感・音場・音の質、全てが超トップクラスです。
あくまで個人の意見に過ぎませんが、私はA8000に文句が付けられません。
これは自分が所有しているから、高額商品だから。フラッグシップだから。そういった贔屓目は無いと思います。
一番最初に試聴した日からずっと1つも文句が出ないので。(装着感は別として)
<ドライ>----★0-----<ウォーム>
基本的にウォームな要素はあまりありません。キッチリした表現が基準かと思います。
が、ウォームな表現が出来ないものではありません。音源を忠実に演じる事に特化しているので、そういう表現の楽曲である場合はキッチリ演じてくれます。
ステンレス製ですが音に金属的な硬さも無い、非常にナチュラルな音です。
<薄味> -----0-★--- <濃味>
音の濃さや圧は8BA、10BAなんかの機種に比べるとそこまでではありませんが、10.8mmピュアベリリウムドライバーは十分にDDらしいパワーのある音を出します。
音場の広さ・音像定位の独特さはキャラクターとして濃い要素ですが、音自体はスマートでナチュラルな為、音の味付けという意味ではそこまで濃くは無いでしょう。
【総評】
A8000に対する評価として「究極の普通」「水のような自然さ」という評がよくあります。
確かに音のバランス、帯域の強さだけで言えばごく普通、ありきたりなフラットに聴こえるかも知れません。
しかしA8000の本当の評価点は決してフラットである事、特徴が無いことではありません。
空間表現、音源を分解して緻密に再構成する能力の高さ、音の立ち上がり・減衰の速さ。
これらの特徴の上に正確無比な解像度と帯域バランスの良さが乗っているのがA8000です。
解像度とバランスだけを評価してしまうと、確かに他にももっと安くて良い候補が居るつまらないイヤホンに感じるかもしれません。
「トランスペアレントな音」という表現は分かりにくいですが、音像定位・明瞭感の究極系を目指したイヤホンとして、A8000は紛れもなく最高峰に居ます。
このイヤホンが好きか嫌いかは全くもって個人の自由です。
ただ、一度はA8000をしっかり試聴することをオススメします。
A8000は超高価帯で絶賛されるイヤホンの中では、非常に売れている商品だと思います。
そういう商品をよく知る事で、他の終着点となりうるイヤホンの良さもよく分かるでしょう。
もはや久々のレビューとなるのが恒例ですが、A8000のレビューでした。
私の終着点となるイヤホンなので熱が入ったのもありますが、おおよそ書いてあるとおりの感想を実際に感じているのも事実です。
イヤホンに20万。馬鹿げていると思われるのは承知の上ですが、これにはそれだけの意味があると思います。
あとSP2000とはめっっっっっっちゃくちゃ相性が良いです。
極上の緻密さ・深さ・静寂さがA8000の音像定位をより引き立てます。耳がヤバい!
※余談
今回A8000で常用しているAZLA SednaEarfit XELASTECですが、final TypeEやSednaEarfit Light等の様々なイヤピを試した結果、本当にどうしようも無かったA8000の角当たり問題を解決してくれました。
シリコンイヤーピースでは、キッチリ密閉されているようで真円が歪んだ時に素材的にどうしても密着している箇所とそうでない箇所が出来てしまいます。
ウレタンイヤーピースだと、長時間付けると反発が強いので耳穴の方を変形させることにもなり痛みが出る事もあります。
熱可塑性エラストマーというとFenderのイヤピースで有名になりましたね。
体温で柔らかくなり耳穴に沿って変形することで密着するという画期的なイヤピースです。
横から見ると細長く変形していますね。
XELASTECはワンサイズ小さい物をオススメされる事が多いですが、今回のA8000のような問題の場合、本体を支えるのにイヤピースを使う事になるのでいつもと同じサイズで大丈夫です。
その方が保持力が高く、イヤホンが動きづらくなります。
また長期間使い込むと形状が変化したままになり、カスタムIEMのように耳穴の傾き・形に合った形状になります。
こうなると装着感抜群です。いろんなイヤホンにオススメですよ。
Amazonはここから各サイズ選べます。
さて、今回は以上となります。
A8000はもう散々ネットで語り尽くされた感がありますが、A8000を終着点とするに至った人間の1つの感想として見て頂ければ幸いです。
次回はヘッドホンから行きますね。では。
※追伸
Final DIRECT SHOP
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momji085
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お買い物の際にふと思い出したら、お願いしますね。
前回 → JH AUDIO THE SIREN SERIES ROSIE
次回 → final 「A3000」「A4000」