桜真っ盛りの先日、いつも通る道沿いがピンクいっぱいで、楽しみながら自転車を漕いでいた。
小さな交差点で一旦途切れ、越えると並木はまた続いていたのだけど、その再開の一番手の樹が気になった。
3メートルより高くはないと思うのだけど、かなり上の方に明らかに妙な具合の枝がある。元々はググっと横に伸びてたであろうかなり大ぶりのそいつが、くたっと折れ曲がり、ぶらぶらしていたのだった。
さてこれ、どんないたずらっ子がどうやってこんな仕打ちを……。
頑張って木登りして折ってる途中で大人に怒られ、逃げてった?
子にせがまれた親が代わりにバキッとやった?
それとも枝切ばさみでチョッキンしようとしたけどキレが悪かった?
……私の妄想、どれもこれも、面白くないが。
でもそう、何か妙なことがあった場合、物を書く人は誰でもそこからとにかく妄想するんだろうと思う。
例えば、桜にはどの樹にもそれぞれ妖精がいて、不届きなことをされれば毛虫を落とすし、美しいと褒められれば少しでも長く見てもらおうとあれこれ工夫する、なんて妄想。だから枝を切ろうなんてけしからん奴と戦いの末、自分も手負いになった、とか。
または、その桜が散ってしまったときに花びらを数えなくてはならない役目の人がいて、余りに面倒なので自分の当番でない日に散ってしまえと樹を揺すって他の当番人にお鉢を回そうとしたとか。で、うっかり枝1本折ってしまった、とか。
まあこれらが面白いかどうかはさて置き、とにかくそんな風に妄想する。とっかかりを見つけたら妄想。もう癖になってしまった。
ただ、これまでものすごい数の妄想をしてきたけど、9割は物語の形にたどり着かなかった。単なる妄想の域から出ないままつゆと消えてった。……ように見える。
でも、こういうタネを拾っておくと、何年も後になって、全然関係ないこととつながって芽が出て膨らんで花が咲いちゃう、という……つまり突然一つの物語ができてしまうことがある。
この桜の謎の枝から私は、メルヘンチックだったりズル休みを連想したけれど、もしかしたらそんな些細な妄想が、将来とてつもない硬派な社会問題とつながったりすることもあるかもしれない、ということなのだ。
メモしても、メモしたことすら忘れてしまうくらいの遠い将来に、あれがこういう問題とくっつくかも、とヒョッコリ思い出す。そうだ、昔こんなアホな妄想をしたっけ、と。
つまり、忘れても何かのスイッチが入ると、頭の中の開かずの引き出しが突然飛び出てきたりするわけで。どうでもいいバカバカしさ120%の妄想でも、意外と無駄にならない。
ところで、最初の桜の枝の話だけども。
数日後にそこを宅配便のトラックが通っているのを見た。道が細くて曲がるときに枝ぶりのいいその桜を引っかけてしまっていた。折れていたのはそういうわけで……いたずらっこでも妖精でもズル休みでもなかった、という事実判明。
(了)
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