漫画を読んで泣いた最初は、たぶんあれ。
当時「キャンディ・キャンディ」という少女漫画が流行っていて、私はコミックスで途中まで読み、その後ハマって毎月雑誌を楽しみにするようになった。
世代の方は、お、それなら泣いたのはあそこだろう、いやこっちかも、と思い当たる場面がたくさんあると思う。
初恋の相手アンソニーが落馬して死んだところとか。留学先で無念の別れ方をしたテリィと何年もかかって再会したのに別の女に取られてしまったときとか。陽気な幼なじみのステアが戦死したこととか。
どれも確かに泣いた。
けれど、私はひねくれ者なのだろうか、最初に泣いたのはもっとマイナーな場面だった。
この「キャンディ・キャンディ」は、主人公の、意地悪に屈しない元気さと明るさが有名だけど、女性の生き方を考えさせられる大河漫画でもあったと思う。
全9巻の後半では彼女が看護婦(当時はこの呼び方だった)を目指す職業物の側面もあった。
で、その見習いだった頃、最初に担当したのがマクレガーさんという患者。わがままで無茶難題を吹っ掛けまくる頑固じじいだった。最初は振り回され、へとへとになるキャンディだったが、持ち前の明るさとタフさで負けじと張り合い、ついには打ち解ける。
元気になったらやりたいことを2人で話し合った。ピクニックとか魚釣りとか。
その直後だった。マクレガーさんが静かに亡くなったのは。
明日の部活とか、もういくつ寝るとお正月とか。普通にくると信じている未来が、断ち切られてしまうことがあるのかと衝撃を受けた。
その、すぐ先の未来の絵図が、コミカルで楽しそうに描かれていたのにも、余計胸が苦しくなった。
元気になったら。元気になったら。
このナレーションで涙が止まらなくなった小学生の頃の私。ショックが大き過ぎてしばらくはそのページを読み返せなかった。
そこが好きな場面だったというわけではなかったが、私には印象が強くて忘れられない。
キャンディが看護婦の覚悟を決める重要なエピソードなのだけど、書き手からすれば、そこじゃなくてむしろその後が見せ所だっただろう。
今思うと、とてもたくさんの要素が詰まった、いい漫画だった。
「なかよし」の連載だったから、小学生の女子向きだったはず。
入り口は確かに女の子同士の意地悪合戦とか、外国のお金持ちのキラキラドレスや生活とかで、その年頃の子の興味や憧れをそそった。素敵な王子様との恋愛もあった。
でも、それだけじゃなく。
キャンディが成長するにつれ、人生を自分で考え、選び、歩いていく。その間にかかわった人達との葛藤や、生死についてもしっかり描かれていた。
背景に第1次世界大戦があって、従軍看護婦になるかどうかの迷いや、幼なじみが志願兵として出兵するという辛さも胸に迫った。
今の小学生にも読んでほしいし、昔ながらのファンだって読み返したい上物。なのに、単行本化も再販もされないというもったいなさ。
原作者さんと漫画家さんとの確執がちょっとエスカレートしてしまった結果らしいけど。
とても残念。
小学生の頃ああいう良質な漫画に出会うと、学ぶことはたくさんあるのに、と思う。
(了)
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