昔から、喫茶店で物を書く、というスタイルに憧れていた。
作家さんとか漫画家さんとかが、お店でコーヒーの追加注文をしながら創作する、というあのイメージ。創る物語のレベル差の話は置いておいて、そういう格好だけは真似してみたい年頃だったわけです。
もちろんそれ以外にも理由はいろいろあって。
家で黙々と書いていると、テレビやら電話やらゲームやらでやたらに気が散る。その上、真夏や真冬は耐え切れず一人エアコンとなる。
喫茶店創作は、気分転換になる。そうすれば集中力も上がる。その上節電にもなる? と思った。
でも、「よし、やるぞ!」とそれを実行に移そうとした当時、私は書くことをワープロに頼り切っていた。
まだ今のような小さくて軽いパソコンがなかった頃の話である。ワープロがパソコンソフトとしてではなく、機器一つで独立していた頃のことである。
外出して書く、ということは、=ワープロを持って行くということである。その頃のワープロはでかくて重くて、まずそのでかさに対応できて、しかも安全に持ち運べるバッグが必要だ。それを見つけるのに手間取った。更に参考資料、筆記用具、文具なども持って行きたい、となるとサンタのような大荷物である。めんどくさくなって何度先延ばしにしたことか。
どうにかそれをクリアしてようやく実行。といっても近所のファミレスに入っただけのことだが。
今のように外でパソコンを打つ人などいなかった時代である。ファミレスとは腰を落ち着けて井戸端会議する場所だった頃である。一人客で、そんなバカでかい機器を広げ、しかもキーを叩く音が相当にうるさい。トイレに立つときも、広げっぱなしだと気が引け、ワープロを抱えて行ったりして。店員や他の客から奇異の目で見られるばかりだった。
結局集中力が増すどころか、周りが気になってドキドキしまくり、1時間もとどまることができなかった。
で、でも。慣れれば何とかなるよね。と、その後も何回かトライはした。
が、あるとき。あまりに天気がよかったため、布団を干しっぱなしにして出た。それが、店を出たら道路が濡れている。通り雨があったらしい。帰ったら布団はぐしょぐしょ。……これ、結構なショックで事後処理に相当に疲れた。
以来、外でワープロ(今ではさすがにパソコン)作業をすることはやめた。しようと思えば、当時よりはるかに楽にできはする。でも、何だか自分には合っていないようだ。
外出するために資料などを詰め込むこと自体が面倒だと感じるから出かけない。必要な都度家のあちこちに散乱したそれらを拾い歩きながら、自分でコーヒーを好きなだけ淹れて飲む。テレビやゲームに阻まれるのは相変わらずだが、これが自分には一番捗るし、集中できるスタイルのように思う。
ちなみに、好きなBGMを流しながら書くという作家さんも多いイメージがある。だから憧れた。けれどこれも自分には合わないとわかった。歌に聴き入ってしまうのである。集中力が、歌詞とかメロディとかに持って行かれてしまい、全然創作が進まないのである。
とある人気作家さんは、部屋の隅のちゃぶ台でパソコンを打つそうである。喫茶店じゃないのか……と、ちょっとホッとした。
創作スタイルは人それぞれ。個人個人で集中できるやり方は違う、というわけで。
でも、やっぱり憧れる。喫茶店での創作。優雅なBGMの中での創作。自分にできないとわかったからこそよけいに。
(了)