「そして彼女はえんぜんと微笑んだ」
昔読んだマンガの一コマにあったセリフである。その「彼女」が中学生という設定と、絵がとても可愛かったせいもあり、「えんぜんと」(たぶん平仮名だった)というのがどういう意味なのか、ピンと来なかった。
それが、うん十年の長い歳月を経て、つい先月。ガツンときたのである。「これだ!」と一瞬で納得した。
宝塚の、男役トップスターさんの笑み。もう、ビックリするほどそれ。妖しくて魅力的で目をそらせない強烈な力を持った微笑み。それこそが「えんぜんと」じゃないかと思った。
婉然と=女性がしとやかで美しい様
艶然と=美しい女性が色っぽくにっこり笑っている様
(コトバンクより)
たぶん、私が読んだマンガは前者で、宝塚に感じたのは後者。微妙に違うが、今や私にとって「えんぜん」はもう「艶然」にしか思えない。
生まれて初めて宝塚の舞台を生で観たのである。華やかな美しさに目を奪われた。音楽や歌の迫力と心地よさに引きずられた。リズミカルなダンスに心が踊った。特に、ショーでの男役さん達群舞はキレッキレで壮観で、泣きそうになるほど気持ちを揺さぶられた。
こんな世界があったんだ……。知ってはいたけど知らなかった。頭では認識していたけれど実感はしていなかった。これが、宝塚。
そもそも、天海祐希さんとか真矢ミキさんくらいしか知らなかった宝塚ド素人の私。もう、誘ってくれた知人に大感謝である。
アラフィフにもなると、モヤモヤすることの多い、というより、毎日の殆どがモヤモヤ、ストレス。それなりに発散法は持っていたつもりだった。
でも、私の発散法と言えば、晩酌。飲み会。プロ野球観戦。げ。オヤジじゃないかっ! どうも最近、殺伐としてると思ってたんだよ……。
足りなかったのは、美しさとかキラキラ感とか、……つまり女子っぽいもの。ああ、いつのまになくしてしまったんだろう。いや、元々あんまりなかったのか……(汗)。
きらびやかでゴージャスな衣装。凝った舞台セット。美しいジェンヌさん達。そういうものを見るだけでこんなにも心が洗われると初めて知った。そして美しい男役さんがジェントルな所作でエスコートし、すさまじい目力を持って決めゼリフ。
白旗。ノックアウトです。
全く前提知識なく観劇した初心者だったがそうなった。その後、他の演目のDVDを手当たり次第見まくっているうちに……うわあ、どうしても目を引かれるジェンヌさんがいた!
彼女が踊って歌って愛に破れるたびに撃ち抜かれてしまう私。もう彼女しか見えません!
これが「ご贔屓さん」と呼ばれる「推し」というものかあ……。
この話、長くなりそうなので、また別の回に続きます。(了)