8月に読んだ本は7冊(図書館6冊・購入1冊)でした。
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<満足度> ★★★ オススメ ★★ 面白い ★ 収穫少なめ
※以下、満足度順
『源氏将軍断絶』 坂井孝一(PHP新書 2021.1)
【満足度】★★★
【概要・感想】 来年の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の時代考証の坂井氏の著書。源氏将軍の誕生という観点から頼朝を取り上げ、次に頼家、そして北条氏に擁立された実朝と、鎌倉幕府の3代将軍について書かれています。その昔は頼家、実朝の政治家としての評価は低かったと思いますが、近年は変わってきたとのこと。また、実朝の暗殺により源氏の将軍が途絶えたあとも鎌倉幕府の将軍は続いていたのも意外と知りませんでした。さて、実朝がそのまま生きていたらどうなったのでしょうか。
【ポイント】
*十三人が一堂に介して合議したという資料は一件もない。(p.109)
*実朝は、和田義盛や朝盛と個人的に親しい関係にあった。しかし、御家人たち全体の主君である将軍
という立場に立てば、=中略= 将軍親裁をともに推進してきた義時と一体となり、和田勢を倒さなく
てはならなかったのである。(p.194)
⇒和田氏は義時ら北条氏にとって強力なライバル
*和田合戦は将軍御所が焼け落ち、千数百人もの死傷者を出した激戦だった(p.195)
⇒義時が実朝を補佐する形から両者が互いに補完・協調しつつ幕府を発展させる関係への転機
*出家数の多さは、=中略= 実朝が、いかに御家人たちから慕われていたか、いかに大きな存在で
あったかということを客観的に示す証拠(p.292)
*平家都落ちの直後「三種の神器」なくして践祚し、壇ノ浦で宝剣を失った後鳥羽は、常に天皇としての
正統性にコンプレックスを抱いていた。そこで、多方面にわたる抜群の才能によって自らの正当性を
証明し続けていた。(p.296)
*後鳥羽が目指したのは討幕ではなく、あくまで義時追討(p.297)
⇒幕府本体の軍事力を実朝を通じて支配下に置きたかった。義時が意に沿わないことが明らかに。
『気持ちよく「はい」がもらえる会話力』 谷原 誠(文響社 2017.12)
【満足度】★★
【概要・感想】 弁護士の谷原氏の著書。交渉系の本は谷原氏の著書が一番しっくりきます。すでに既刊本を読んでいるため目新しい知見はありませんでしたが、それでも復習には十分。テクニックを使えば、すぐイエスが引き出せる、という内容ではないあたりが親切です。本当に解決すべき課題について交渉しているか?であったり、目先のイエスではなく、別の解決策も考慮するといった、百戦錬磨の弁護士ならでは。イエスという権利は100%相手が持っている以上、相手の感情に十分、配慮して交渉をまとめる、その極意が学べます。
【ポイント】
*企画を必ず通す方法(p.136)
両者の関係を「企画を通す側」と「拒絶する側」の対立関係ではなく、「それに協力する人」の関係にする
⇒ノーと言われたら、どう改善すればいいのか詳しく聞かせてもらえないか?と理由を質問する
*ラべリングによって人を動かす(p.155)
ex.期限に遅れたことがあったとしても、「いつも期限内に仕上げてくれて助かる」と言う=ラベリング
*行動をかえてもらうことが目的なのであれば、=中略= 相手の自尊心に配慮する(p.184)
①相手の今までの行動を肯定する。 (みんな挨拶は出来ている)
②相手が悪いからではなく別の理由で変化を依頼 (課の方針で強化することになった)
③変化後の行動を称賛する。 (強化したら、社内の雰囲気がよくなったから、このままでいこう)
*「私の力ではとてもできないから助けて欲しい」「あなたにしかできない」という言葉は、言われた人の
自尊心を大いに満足させます。(p.189)
*相手に聞く耳を持ってもらうためには、まず相手が言いたいことを全て言い切った状態にすることが
重要(p.194)
⇒言いたいことを言いきって気が済めば、聞いてあげようかと余裕がでてくる。よく質問する。
*反論せずに反論する(p.201)
相手の意見をひとまず認め、「だからこそ良い」という形で展開する。
ex.デザインが派手→だからこそよい、きらびやかなものを身につければ見た目も若くなる
*論理的にイエスを引き出す方法(p.216)
①そもそも○○に同意するか?(価値観:○○すべきだよね?)
②ところで○○に同意するか?(自分の事情:私はこうしているけど)
③だとすると○○ではないか?(①と②に同意するなら、③じゃない?)
*一貫性の法則を利用し、あるルールを守って欲しいなら、「○○してもらえますか?」と聞き、イエスと
言わせる(p.243)
⇒○○してくださいね、ではなく。
『建築家になりたい君へ』 隈 研吾(河出書房新社 2021.2)
【満足度】★★
【概要・感想】 最近、立て続けに本を出している隈研吾氏。本書は「14歳の世渡り術」シリーズですが、特に子供向けというわけでもなさそう。「ひとの住処 1964-2020」や「変われ!東京」に同じく、本書も自叙伝です。学生時代のアフリカ旅行・アメリカ留学・伊豆の家・石の美術館・竹の家のエピソードなどが語られていました。新国立競技場で知名度が上がった隈研さんですが、大成建設と一緒にやった「アオーレ長岡」の評判がよく、新国立競技場の建築デザインの話が舞い込んだらしいです。今後、コンクリートや鉄に代表される「大きなハコ」は解体し、「小ささ」の先に新しい日本、新しい建築があります、との主張でしたが、実際、社会全体でちょっとづつ、そんな流れも出てきていますよね。
【ポイント】
*デザインの後ろには、必ず社会や政治の複雑な情勢が控えている(p.68)
ex.白い壁(=衛生を重要視する背景) ・整然計画された都市(=不潔な街はペストの温床)
*建築設計の授業では、過去の正解と同じものを提出した人間は、人マネしかできない、能力のない
人間として、最低の評価をもらう(p.85)
⇒過去の正解を否定する勇気
*設計の仕事(p.104)
①基本設計(間取りを決める) ②実施設計(詳細な図面・材料・ディテール・構造設計や環境設計)
③現場監理(工事が図面通りに行われているかチェック)
*建築“家”(p.137要約)
建築設計者というと施主の言うことを素直に聞いて、それを形にするエンジニア。大手設計事務所や、
建設会社の設計部に勤めている人は自分のことを建築家と言わない
*建築家と呼ばれる人は、オーケストラで言えば指揮者のようなもので、全体をリードするのが役割
(p.164)
⇒その下に意匠設計・構造設計・環境設計(どういう環境システムが最適か決定する)というチーム
*1990年代までは、=中略= 必ず誰かの紹介という形をとって、設計を依頼されました。(p.194)
⇒信用のある紹介者。岸田氏の弟子は気に入られるために日本舞踊を練習した。
*僕と職人さんで直接、膝をつき合わせて話すと、材料の新しい使い方を思いついたり、今までに
なかったような解決方法を見つけることができます。(p.202)
⇒ゼネコンはスケジュールとコストを自分ですべてコントロールしたいので、設計者と職人の直接の
対話を嫌う
*公共建築の場合、設計者を選定するためのコンペの際に、「類似の建築物の実績」という項目の
提出が求められ、実績があればあるほど高い点数が付く仕組みになっています。(p.209)
⇒コンペという形は取るけど、馴染みの大手設計事務所と仕事したいという行政の下心
『陰翳礼讃』 谷崎 潤一郎 (パイインターナショナル 2018.1)
【満足度】★★
【概要・感想】 谷崎の「陰翳礼讃」の全文を写真家の大川裕弘の作品とともに掲載。読みにくいのかと思ったら、エッセイなのでとても読みやすい。文章として読むと、「薄暗さの中の美」は本当によくわかります。暗い光なのに「昼光色」の電球を使ってみたり、間接照明を好んだり、そういった傾向も日本人としての美意識のルーツからきているのかもしれません。
『改訂版!人生で大切なことはみんなマクドナルドで教わった』 鴨頭 嘉人(かも出版 2021.1)
【満足度】★★
【概要・感想】 著者は元マクドナルドのアルバイトで、社員登用後、店長、SVになり、その後、独立起業したYouTube講演家(?)。 2012年に出版した著書の改訂版です。経営者が語るマクドではなく、アルバイト=現場目線から語られる会社の話は興味深く、面白かったです。ただ、現在、経営者になっているほどの著者なので、そもそもの資質は全然、普通の人ではなく、その日常はいちいちドラマティック。20数年前のマクドに入社したエピソードから退職に至るまで語られていて、読み物として読むのが良いのかなと。
【ポイント】
*仕事を任せるときに、“その仕事の価値を伝える”ことで、責任はモチベーションへと変換される(p.116)
*共有すべきはアクションではなく、目的とゴール(p.123)
⇒自分の作業指示と、マクドナルド体験を良いものにすることを同時にクリアできる提案を。
*部下の声にならない声を聴けるようにならんと、上司はお払い箱(p.285)
⇒部下をよく観察して、洞察力を働かせ、小さな変化を見逃さない
『考え続ける力』 石川 善樹(ちくま新書 2020.5)
【満足度】★★
【概要・感想】 前著「問い続ける力」の続編で、創造的に考えるとはなにか?がコンセプト。異なる分野で創造性を発揮している日本人を条件に、元パナソニックの技術者、日立の技術者、ヤフーのCSO安宅和氏など5名と対談集。
【ポイント】
*「幅広い知識や経験を備えたシニア」と、「カッティングエッジな知識を持つ若手」の組み合わせこそが、
最も破壊的なイノベーションを起こしやすい。(p.40 永山・法政大准教授)
*「思考とは何か?」というような茫然とした問題は、小さく分けて考える。(p.63 石川)
ex.思考とは入力を出力につなげること。
『人と組織のマネジメントバイアス』 曽和利光, 伊達洋駆 (ソシム 2020.4)
【満足度】★
【概要・感想】 「物理学を知らないエンジニアはいないが、組織論や行動科学を知らない人事やマネージャーはたくさんいる」という序文には期待大だったのですが、各見出しがわかりにくいことでとても読みにくい内容になっている気が。働き方改革は社員のやる気を引き出すか?といった実務上に見られる一般的に良しとされる、人と組織の常識が本当に正しいのかを学術的な切り口で考察していて、その点は面白かったと思います。
【ポイント】
*ブランドハップンスタンス理論(p.19)
個人のキャリアの8割は予想もしていなかった出来ごとによって決定されるから、偶発性を受け入れる
*上司との関係性が良好だと部下は自らフィードバックを求める傾向がある(p.108)
*会社は、組織の愛着や一体感を高める施策よりも、まずは社員たちが働きやすい環境を整備し、仕事
そのものを面白く感じられるようにするほうがいい。(p.208)
*ワークエンゲージメントを高めるには、個々人の差異に応じて、人事施策やサポートを変えていくことが
重要(p.243)
⇒ふだんから周囲と会話を交わして、個々人の価値観や志向性を押さえ、その上で適切な仕事や
支援が求められる。(人によって捉え方が変わる)
◆ワークエンゲージメント・・・働く個人と仕事の関係→仕事そのものを面白く感じる状態
◆従業員エンゲージメント・・・働く個人と会社の関係