読書10月 牟田口廉也とインパール作戦/辻政信の真実/服部卓四郎と昭和陸軍 | 読書日記

読書日記

自分用の読書備忘録。
なので、よほどのことが無い限り画像とか一切無いです。
そしてアップはけっこう遅延しがち。

10月に読んだ本は6冊(図書館本6冊)でした。

今年度?の太平洋戦争シリーズ読み収めです。

+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

<お気に入り順>★★★ オススメ ★★ 面白い ★ 収穫少なめ 

 

本『極楽征夷大将軍』垣根 涼介(文藝春秋 2023.5)
【満足度】★★★
【概要・感想】直木賞受賞作です。足利尊氏・直義の兄弟とその執事の高師直などの視点から室町幕府成立を描いた時代小説。549ページ、しかも1ページ2段構成という超大作。一般的に鎌倉末期~室町は歴史好きでなければ地味でマイナーな時代ですが、登場人物それぞれのキャラを立てているから面白いし、かなり読みやすかった。ドラマ化して欲しいなぁ。

 

メモ『牟田口廉也とインパール作戦』関口 高史(光文社新書 2022.7)
【満足度】★★★
【概要・感想】牟田口司令とインパール作戦を徹底検証した内容ですが、世間一般のイメージとは逆に、当時の陸軍が任務重視型軍隊という有り方を考えれば、牟田口の評価は必ずしも悪いとは言い切れないのではないか?というのが本書の主張です。そもそも牟田口はインパール以前、「常勝将軍」として日本軍の勝利に貢献してきた人物。インパール作戦自体は、その必要性と可能性の検討が十分になされ、正規の手続きで認可されたもので、マジメな牟田口自身として与えられた条件でやるしかないと腹を決めていただけではないかという説にも説得力がありました。上層部も適切な作戦計画をしていないが、一方で指揮官だった牟田口に責任が無いとは言っておらず、インパール作戦=無責任の総和と結論づけていました。ただ、あれだけの犠牲を出した作戦の指揮官が戦後、普通に生き延びていたのには違和感が。

【ポイント】

*インパール作戦で、その責めを負うべきなのは牟田口の上に立つビルマ方面軍司令官、つまり 

 河邊正三中将である。(p.5)

*あらゆる努力は階級に集約される =中略= 階級上位者が戦略、作戦あるいは戦術能力も

 高く、人間的にも優れているということだ。(p.25)

戦意高揚の一環として、臆病と見られることを恐れ、恐怖心を克服するために楽観的な見通し

 を立てる(p.36)

 ⇒任務遂行型であるが故に消耗が激しい。それを有形戦闘力の不足を精神力で補おうとした。

*牟田口は =中略= 陸軍省や参謀本部での勤務が長かった。そのため、=中略= 部隊運用

 の基本的事項を、身をもって学ぶ機会を逸していた。(p.71)

*河邊が盧溝橋事件を、突発的な事故として事態収収拾を図ろうとしていたにもかかわらず、

 牟田口がまた事態を拡大へ向かわせた(p.91)

 ⇒牟田口が庶務課長時代の参謀次長で関東軍司令官・植田大将の意思に大きく影響

*日本はビルマ防衛のため、そして何よりも太平洋での戦局悪化を懸念し、カンフル剤の役目を

 インパール作戦に期待するようになった(p.148)

 ⇒ミッドウェイ、ガ島での敗退による国民の動揺を抑え、攻勢で華々しい戦果を得たい。

*可能性の検討を通じ、実行者である牟田口唯一人に作戦の判断が集中していく(p.158)

 ⇒作戦の可能性を高めるか、低いなら作戦を中止するかの選択肢が採られらなかった。

*稲田副長は上級司令部の参謀として隷下部隊指揮官である牟田口と何度も意見を交え、

 間違いがあったら正すべきではなかったか。(p.169)

*河邊中将も首相の意見に同意を表明する。河邊と東條は在スイス、ドイツ時代からの盟友

 =中略= 河邊中将もインド施策に対する強い意欲を胸中に秘めてビルマに赴任(p.196)

*山田(作戦主任)参謀は実行部隊である第十五軍の参謀や師団の参謀たちが、この作戦に

 心から同意していない実情を知った。山田参謀自身も、かねてからこの作戦には同意しかねて

 いたのだった。(p.228)

 ⇒必勝の信念が無く、補給に無理なところが多い

*そもそも太平洋戦争は中国との戦争に必要な物資を南方で獲得しようとして始まった(p.269)

*大本営あるいは南方軍は本作戦のあらゆる時期ににおいて、=中略= 潤沢な戦力を集中

 させることはなかった。=中略= これこそ、本作戦が無謀な作戦と呼ばれる由縁であり、

 悲劇的結末を迎えた最大の理由(p.316)

 

メモ『辻政信の真実』前田 啓介(小学館新書 2021.6) 
【満足度】★★★
【概要・感想】元・陸軍参謀の辻政信大佐の実像に迫る本格評伝。新書で430ページ、そのうち終戦後の辻に関する記述も1/3ほどあり、人物像に迫ります。半藤一利氏いわく「辻政信=絶対悪」といった悪いイメージしか聞かない軍人です。しかし一方で、戦時中は「作戦の神様」ともて囃され、東條から「国家の至宝たり得る人物」と呼ばれ、終戦後は衆院選に立候補、何度も当選を果たしています。まさに毀誉褒貶の人。そして58歳で突然の失踪。つくづく不思議な人物・・・。各戦場で武運に恵まれ、人に恵まれ、もし稲田が罷免を求めた際、板垣陸相が見限っていれば軍人として終わっていたはずが、不幸にも大きな舞台に進んでいきます。頭が良く、我が強く、強気。それ故に「独断専行」(が、無鉄砲ではなく、事前に緻密に調査する)。現代の組織においてもそれに近い人を見かけることがありますが、そんなイメージの人でしょうか。

【ポイント】

辻の評価のもとになったのが、この前線での勇猛果敢さであったことは間違いない。(p.161)

 ⇒辻の激励を受けると越権行為でも感動してしまう。それが免罪符となった面もある。

*対ソ不拡大の方針から逸脱し、決戦の覚悟を決めつつある関東軍に対し、=中略= 特に

 危機感を持っていたのが、=中略= 陸軍軍事課長の岩畔豪雄だった。(p.177)

*稲田(正純)は、タムスク爆撃直後から、辻を関東軍から外すよう多方面に働きかけを行う。

 (p.187)

 ⇒積極果敢に突き進んでくれるが、やりすぎる

「辻心酔者が、ここに百人あるかと思えば、彼を憎悪する人も、そこに百人あるという人物

 なのである」(p.219 池谷半次郎)

*辻の清廉潔白や有言実行は、同じ環境、同じ価値観を持った軍隊の中で最も効果的だった。

 (p.376)

 

メモ『服部卓四郎と昭和陸軍』岩井 秀一郎(PHP新書 2022.6)
【満足度】★★
【概要・感想】陸軍作戦課の服部卓四郎についての評伝。服部は作戦課長として大東亜戦争の始めから終りに近い段階まで参謀本部の中枢にいて、ノモンハン事件の際は関東軍の作戦主任参謀として、そしてあの「辻政信」が大変慕っていた人物。戦後、彼がどうなったのかは全く知らなかったのですが、実はGHQからの信任が厚く、その庇護の下、戦史編纂事業に従事することになり、予備隊の幕僚長候補にまでなっていたと知りました。陸軍の中枢にいた人物が責任を取らず、戦後も表舞台に近いところにいた事実には驚きました。服部評を通じて、陸軍(というか日本軍全般)の組織的な欠陥についても斬り込んでいます。
【ポイント】

*服部は、同じく関東軍で少佐だった片倉衷に対し、=中略= 石原を失った代わりとして、

 辻を呼び戻したいと訴えている(p.24)

*当時の関東軍には国境侵犯に対して強硬姿勢をとる雰囲気が漂っていたとみて間違いがない。

 (p.40)

 ⇒辻の強力な牽引力は事実として司令官の植田の態度も問題。若手参謀が勢いづくのは当然

*服部は、自分から何かを率先して主張することはあまりなかったが、=中略= 「賛同者」

 として強硬論に与することが多かった。(p.54)

*関東軍の作戦参謀らは、この「前提条件が変わる」可能性を考慮に入れていなかったという。

 (p.58)

 ⇒ノモンハンでは「トラック」ではなく「大八車」という手段での想定

*服部は外面人当たりがよく、一見すると温厚な人物として認識されていた(p.78)

 ⇒だからこそガ島の失敗にも関わらず、参謀本部の中枢に返り咲いたのではないか。

*東條のもとで日米交渉妥結のために奔走し、開戦を要求する参謀本部と交渉にあたったのは

 軍務局長の武藤章であった。(p.84)

*大本営とは戦時に際して設置される陸海軍の統帥機関(p.90)

 ⇒日露戦争以来、昭和12年の盧溝橋事件後に設置。

*海軍側で服部の地位に相当するのは軍令部第一部第一課長の富岡定俊大佐(作戦部長)

 である。(p.93)

 ⇒海軍大学校主席卒業のエリート。ポツダム宣言調印式の海軍代表。服部との関係は良好。

参謀本部の中でも中心は「作戦部-作戦課」であり、その優越的地位は他の部局を圧倒して

 いた。(p.132)

*服部の部下だった高山信武ですら陸軍の敗戦の責任について「主として作戦課が負うべきで

 あろう」と述べている。(p.184)

 

本『すごい言語化』木暮 太一(ダイヤモンド社 2023.6)
【満足度】★
【概要・感想】言語化しないと伝わらないという当たり前の事例が延々書いてあり、期待

はずれでした。タイトルからコミュニケーション全般の内容かと思いましたが、プレゼンや営業トーク系、しかも初級の人向け。言語化のノウハウというより、何事も具体的に伝えましょうというだけの話でした。

 

本『自衛隊の闇組織 秘密情報部隊「別班」の正体』石井 暁(講談社現代新書 2018.10)
【満足度】★
【概要・感想】TBS日曜劇場「VIVANT」の原案で、身分を偽装した自衛官が国内外でスパイ活動を行う「別班」について取材したノンフィクション。結局、「別班」の詳細を知っている自衛官がその秘密をペラペラ話してくれる訳もなく、「別班」の全貌はもちろん、実際に何に関与したのか全く不明で、単に「闇組織」取材の苦労話が書かれているだけでした。さらに言えば、そもそも元○○のA氏など、そういった発言の信憑性もよくわからず、ほとんど宇宙人がいる、いないの話と変わらない気が・・・。