普段のごはんに「豚汁」が出てくれば、「ただの汁物」。

 

けれども、雪の降りしきる氷点下の寒空の下で

凍えているとき、

もし「豚汁」を差し出されたら……。

 

……あったかさが身にしみて、

「忘れられないごちそう」になるでしょう。

 

 

前回から間が空いてしまいましたが、

「私とタロットのお話」と題して書いてきた話の続きです。

 

 

このシリーズの一、二回目に書いたのは、

私が偶然、近所の小さな書店で植村直己さんの本を手に取り、

極寒の世界にすっかりハマっていったことでした。

 

 

※過去の記事は以下です

 

私とタロットのお話Ⅰ~気まぐれな運命の選択

私とタロットのお話Ⅱ ~なんの予兆もなかったこと

 

 

寒いのが大の苦手で、

雪国に行くのは、せいぜいスキーくらいだった私。

 

そんな人間が、北極圏をただひとり、犬ぞりで駆け抜けた植村さんの冒険を、夢中になって読んだのは、なぜなのかな。。

 

ところで、

偉大なことを成し遂げる方が必ず持っているもの。

 

それは「他者からの協力」を引き出す力なのだと思います。

 

 

どこに行っても、その土地に暮らす人たちの力を得なければ、

自分の目指す夢を成せないことを肌身で知っていて、

どう行動すべきか分かっている。

 

――植村直己さんもそういう方だったのだろうと、いろんなエピソードを読んで思いました。

 

 

でも、植村さんは自分の夢のため、という「打算」だけで、

人の協力を得ていった人では決してありません。

 

どんな生き方、どんな文化に対しても、

本当の「敬意」を持って接していた結果、

 

多くの方の協力が集まり、夢を叶えていかれたことが、

植村さんの著作にはハッキリと表れているよう思うのです。

 

 

たとえば、

アマゾンをいかだで下ったときに出会った原住民にも、

 

アフリカの山を登ったときに出会ったマサイ族にも、

 

エベレストに挑むために滞在したシェルパの村の人々にもそうでした。

 

特に、彼の著書の半分以上を占める北極圏の冒険では、

この「そこに暮らす人々への敬意」を深く感じました。

 

 

 

 

 

なにしろ、未開の極地に生きるイヌイットの人々の暮らしは

当時、まだ“文明”から遠く離れていて、

その暮らしぶりに対し、偏見や差別の目を向ける人が多かったのです。。

 

 

けれども、植村さんは、心からの敬意を持って彼らに学び、

彼らと打ち解け、本物の友情や承認を得ていきます。

 

現地では、「狩りや移動の道具」のように扱われていた犬たちにさえ、

深い深い愛情を抱いていく植村さんの温かい心。。

 

 

そんな彼の「あったかい魂」がね、

北極圏の厳しい自然の描写のなかでは、ひときわ際立って感じられて……。

 

そのことが、読み手の私の心を温かく、深く、励ましてくれたのです。

 

 

普段の生活のなかで、

まわりの人と仲良くしたり、犬を可愛がったりする人を見ても、

「いい人だな」と思いますが、「感動」には至りませんよね。

 

でも、生き方も生活習慣も価値観も、全然違っている人たちと

仲良くなろうと努める姿。

 

ペットではなく、人間が支配すべき動物とみなされている場所で、

その価値観に影響されつつも、

やはり犬たちと心を交わさせずにいられない姿。

 

……そんな植村さんの様子は、まさに、

極寒の厳しい世界に、差し出された豚汁みたいに貴重な温かさに感じられて。。

 

失礼な喩えかもしれません。

 

でも、そんなふうにしか、私が受けた感動を上手く説明できないのです。

 

 

素敵な本に出会わせてくれた近所の書店に感謝せずにはいられませんでした。。

 

もし、ひと月前に、ここに本屋が出来なければ、

たぶん、私は植村さんの本を一生、読まなかったと思うからです。

 

 

あの書店なら、また何か別の「いい出会い」を、もたらしてくれるかもしれないな……。

 

すべての冒険物語を読み終わったあと、

そんな期待を持って、私は再び、同じ本屋に向かったのです。

 

 

そして、いよいよ……。

 

「私の運命」が動き出したのでした。

 

 

……つづく。