一夜明けて2006/1/17(火)
朝、タイミングを見て長男の幼稚園に電話した。
入院したこと、意識障害があること、
なんの病気かまだ分からず、退院の目途もつかないこと
…などを手短に話した。
卒園まであと二ヶ月を切っている。
長男は卒園式までに幼稚園に戻ることがあるのだろうか…。
この日も夫は休暇をとった。
朝から会社の携帯が鳴りっぱなしで、電話片手にパソコンをいじっている。
夫が休暇をとることなど滅多にないが、休みといってもいつもこんな状態だ。
結局この日も病院内にいるとき以外は夜まで仕事の電話が続いた。
面会時間は11時からだったから、朝は少し余裕があった。
私は翌日から次男を預かってくれるところを探していた。
夫もそう何日も会社を休むわけにはいかない。
区役所で相談し、保育園・保育所のリストを入手して、
一時預かりをやっている所に電話をかけまくった。
預かってくれる保育園はなかなかなかった。
公立はもちろん、私立の小さな保育室も園児がいっぱいで、
一時預かりは今はできないといわれるところが殆ど。
もともと子供の多い地域である上に時期が悪かった。
1月~3月は、次年度の待機児童が多いのだそうだ。
その中で一件、病院の割と近くの保育室が、こちらの事情を話すと
「それはお困りですね。では、午前の2時間だけなら…。」と言ってくれた。
面会時間は11~13時と16~20時の二回だ。
夕方からは無理だけど…とのことだが、午前だけでもありがたい。
病院から比較的近いだけに、この病院に勤務している看護士さんのお子さんなど預かることもあるそうだ。
病棟内に両親以外は入れないという病院の事情はよく知っていた。
午後からの預け先を別途さがさなくては…。
またあちこち電話して、午後預かってくれるところを探した。
やっと見つかったが、そこは車で20分くらいかかるところ。
夜も18:30が限界だそうだ。それでも仕方ないと思った。
とりあえず、翌日の次男の預け先を決めたところで、長男のいるS大学病院へ向かった。
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病室(集中治療室)に行くと、長男は目を覚ましていた。
”今日は意識がある!”
私は興奮した。嬉しかった。
「○○ちゃん」
話しかけたが、無反応。
「お母さん、分かる?」
と聞いてみたが、なんの反応もしない。
こちらを見るには見るのだが…。
看護師さんを見る目も、私を見る目も、自分の手を見る目も、全部同じ。
生きている。
もちろん呼吸もしてる。
朝ごはんも食べたそうだ。
けれどその目は死んだように動かない。
私は長男の頭をなでながら話しかけた。
「今日は目が覚めてるね。気分はどう?」
長男はなんの反応もしない。
昨日の朝は、一度救急隊の人に自分の名前を言ったのに…。
もう何にも言えなくなっちゃった……?
私は心の動揺を隠して笑顔でいくつか話しかけたが、
とうとう長男は何の反応も示さなかった。
いったん夫と交代することにした。
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夫と交代し、次男とともに病棟の前で過ごした。
12時前に夫が戻ってきた。
「今から昼食だって。俺は次男と待ってるから、食べさせてあげて。」
夫はつとめて何気ない様子で次男に
「よし、じゃぁ、今度はお父さんと遊ぶぞ!何する?」
と話しかけたが、
動揺していることはその表情で分かった。
「何か話した?」
と私。
「いや、何も。」
と答えた夫の声は暗かった。
再び私は長男の元に戻った。
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昼食が運ばれてきた。
「体起こせる?」
私が電動ベッドのボタンを押し、背もたれを起こすと、
長男はベッドの動きに合わせて体を起こした。
「自分で食べれる?」と聞いたが無反応なので、
スプーンですくって口に運ぶと、ちゃんと食べた。
こちらの言ってることがわかるのか、わからないのか知らないが、
こちらの動きに合わせて反応することはできるようだ。
食事はだいたい平らげてしまった。
美味しいのか、どうなのかは全くわからなかった。
面会終了の13時まではまだ時間があった。
私は持ってきた本を出した。
「お母さん、本を持ってきたよ。読む?」
長男は私の方を見た。少し頷いたように見えた。
私は本のページをめくり、朗読した。
『エルマーの冒険』
私は読んでいる途中途中で、意味がわかるか聞いてみたり、
「すごいね」「おもしろいね」などと感想を入れて、長男を見た。
長男は物語を理解しているのか、いないのか。
おもしろいのか、おもしろくないのか。
私にはまったく分からなかった。
長男はただ、本のページを見つめていた。
…全く邪魔されずにここまで読ませてもらえることなんて、これまでなかったなぁと思った。
普段は活発で「ずっと黙って人の話を聞く」なんてできない子だった。
お話を読んでも途中で感想を言ったり、言葉尻をとって話が脱線したりして、話がすすまないこともしばしばだった。
その子がこんなに大人しく聞いている……。
奇妙な感じがした。
やがて、面会終了の時刻になった。
「じゃあ、お話の続きはまた今度ね。お母さん、行くね。」
長男はまた頷いたように見えたが、相変わらずの無表情だった。
私は長男に背を向けると、作っていた笑みが自分の顔から抜けるのがわかった。
あの子の考えていることがまるで分らなかった。
まるで心をなくした人形のようだった。
胸がしめつけられる思いがした。
でも、感謝しなくちゃいけない。
長男が今日も生きていて、ご飯も食べてくれたことを。
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夕方の面会は16時~だった。その間に夫と次男と昼食をとった。
食事が終わると夫はすぐに外に出て、また仕事の電話をしていた。
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16時。夕方の面会時刻になった。
病室に行くと、長男は激しく痙攣を起こしていた。
酸素マスクをつけている。
なかなか痙攣がとまらない。
泡を吹いて、白目をむいて、今にも死にそうだ。
看護師や医師が忙しく立ち回っていた。
長男はやがて痙攣が治まると眠る。
眠ったかと思えば、また痙攣が始まる。
予断を許さない状況が続いた。
「後で、また来てください。」
と言われ、
私は高鳴る動悸を抑えながら、夫と次男の待つ病棟の外へと出た。
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そして、1~2時間たって、また病室を訪れた時、
思いもかけない変化が起こっていた。。。
【つづく】