プロレス人間交差点 佐藤光留☓サイプレス上野 後編「幸村ケンシロウを語る会」 | ジャスト日本のプロレス考察日誌

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「人間は考える葦(あし)である」



これは17世紀 フランスの哲学者・パスカルが遺した言葉です。 人間は、大きな宇宙から見たら1本の葦のようにか細く、少しの風にも簡単になびく弱いものですが、ただそれは「思考する」ことが出来る存在であり、偉大であるということを意味した言葉です。


プロレスについて考える葦は、葦の数だけ多種多様にタイプが違うもの。考える葦であるプロレス好きの皆さんがクロストークする場を私は立ち上げました。



 

さまざまなジャンルで活躍するプロレスを愛するゲストが集まり言葉のキャッチボールを展開し、それぞれ違う人生を歩んできた者たちがプロレス論とプロレスへの想いを熱く語る対談…それが「プロレス人間交差点」です。

 
 
 

 

これまで2度の刺激的対談が実現しました。




プロレス人間交差点 棚橋弘至☓木村光一 


前編「逸材VS闘魂作家」  

後編「神の悪戯」 

 




3回目となる今回はプロレスラー・佐藤光留選手とラッパーのサイプレス上野さんによる対談をお送りします。

 

 

 

 

 

(この写真は御本人提供です)




佐藤光留

 1980年7月8日生まれ。岡山県岡山市出身。173cm 93.10kg 

主要タイトル歴:世界ジュニア、アジアタッグ、IJシングル 

スポーツ歴 :レスリング、柔術、墓石麻雀5級 

得意技: 蹴り、関節技、北斗百裂アウトレイジ野球 趣味・特技:釣り、きもちく拳法 

好きな有名人: 来栖うさこ、岬恵麻、エロマンガパンチ 

好きな食べ物: sio

 会場使用テーマ曲: 「俺ら代表取締役辞任するだ」鳥羽周作


1999年にパンクラスに入門。総合格闘技で腕を磨き、2008年よりプロレス参戦。以後、DDTや全日本プロレスで活躍、 全日本ジュニアに強いこだわりを持ち絶対的な中心を自負する。ミスター・天龍プロジェクトの異名も取る。'23年3月開催のジュニアの祭典では田口隆祐&今成夢人と変態トリオを結成。8月の自主興行ではエル・デスペラードと一騎打ち。〝現在進行形のU〟と称される大会「ハードヒット」のプロデュースも行っている。 




 

 




(この写真は御本人提供です)

 


サイプレス上野


サイプレス上野とロベルト吉野のマイクロフォン担当。通称『サ上』。

2000年にあらゆる意味で横浜のハズレ地区である『横浜ドリームランド』出身の先輩と後輩で、サイプレス上野とロベルト吉野を結成。"HIP HOPミーツallグッド何か"を座右の銘に掲げ、"決してHIPHOPを薄めないエンターテイメント"と称されるライブパフォーマンスを武器に、大型フェスやロックイベントへの出演、バンドとの対バンなどジャンルレスな活動を繰り広げ、ヒップホップリスナー以外からも人気を集めている。


2020年にはサイプレス上野とロベルト吉野として結成20周年を迎え、2022年3月16日には漢a.k.a GAMI、鎮座DOPENESS、TARO SOUL、KEN THE 390、tofubeats 、STUTSらが参加する7枚目のオリジナルフルアルバム「Shuttle Loop」をリリース。


現在、サイプレス上野は、テレビ東京「流派-R SINCE2001」、FMヨコハマ「BAY DREAM」にレギュラー出演中の他、TVCMナレーションなど、越中詩郎級の『やってやるって!』の精神で多方面に進撃中。


公式HP  http://sauetoroyoshi.com/






佐藤選手、上野さん、進行を務めた私も1980年生まれのプロレス者同士です。お二人のプロレスとの出逢い、1990年代のプロレスについて、好きな名勝負、今後について…。最高にディープでマニアックで、最初から最後までずっとゲラゲラ笑いながらプロレスを語らう対談となりました。この記事を読んでストレス発散やフラストレーション解消になれば幸いです!


 

是非ご覧下さい!


プロレス人間交差点 佐藤光留☓サイプレス上野 前編「1980年生まれのプロレス者」 





プロレス人間交差点 

「変態レスラー」佐藤光留☓「LEGENDオブ伝説」サイプレス上野

後編「幸村ケンシロウを語る会」









「僕、ヒップホップが好きなんですよ。ラッパーさんは自分が生きてきた道を歌うじゃないですか。これはプロレスラーも同じ(中略)面白いプロレスはもちろん大事なんですが、面白い人間がやらないとプロレスって全く意味がないんです」(佐藤選手)





──1980年生まれのプロレス者対談、ディープに盛り上がっています。ここから後半戦に突入です。佐藤選手、上野さん、よろしくお願いいたします。


佐藤選手 よろしくお願いいたします!


上野さん よろしくお願いいたします!


佐藤選手 突然ですが、今回上野さんとじっくり話すことができるので、音楽とプロレスの共通点について考えてきたんですよ。


上野さん おお!それは気になります!


佐藤選手 実は僕、ヒップホップが好きなんですよ。ラッパーさんは自分が生きてきた道を歌うじゃないですか。これはプロレスラーも同じなんですけど、例えばムーンサルトプレスは誰でも使うけど、武藤敬司さんが自分の肉体の一部を引き換えにしながら打ってきたムーンサルトプレスと他の人のムーンサルトプレスとはどんなに形が綺麗でも違うと思うんですよ。ヒップホップもすごくいい歌があっても、その人以外の人が歌うと違うものなんですよ。僕はずっと興行を手掛けてますけど、面白いプロレスはもちろん大事なんですが、面白い人間がやらないとプロレスって全く意味がないんです。「コイツ、面白いな」「めちゃくちゃな生き方をしているな」とかプロレス界じゃないと見れない人間に僕は会いたいんですよ。アイアンメイデン以外が弾いているアイアンメイデンの曲は、アイアンメイデン感がないじゃないですか。


上野さん めちゃめちゃ分かります!ラッパーは、自分たちが生きてきたことをちゃんと楽曲として伝えなきゃいけないんですよ。俺たちみたいなちょっと歳を取った世代の人間でも若い世代に「これくらいはできるよ」と生き方を見せないといけないし、俺たちの先輩であるZeebraさん、スチャダラパーさん、RHYMESTERさんが歌ってることとか重みが違いますし、それは武藤さんのムーンサルトプレスのような年輪と重みと似ているのかなと思います。プロレスラーの方々は自分の身を削るようにリングに命を捧げて闘っています。ラッパーたちも、言ったことに責任が問われることが多いと思います。J-POPで恋愛の曲を歌うのは、歌手としてはそれでいいかもしれないし、俺もすごい好きです。でもラッパーは何かと「自分が言ったことにちゃんと責任を持てよ」と言われる文化なんですよ。




「ハッピーエンドもバッドエンドも意味の分からない終わり方があるのがエンターテインメントなんですよ」(上野さん)



──ヒップホップはその人の生き方が問われるジャンルですよね。


上野さん そうなんですよ。その部分がプロレスとヒップホップは似ていると思います。MCバトルは総合格闘技的な見方をされるんですけど、背負っているものが違うし、色々な闘い方があるんです。俺はMCバトルに、初期UFCに出ているプロレスラー代表というスタンスで関わりたいですね。


──「ザ・ビースト」ダニエル・スバーン的な感じですね。


上野さん ハハハ(笑)。UFCJAPANのトーナメントを優勝して「プロレスラーは本当は強いんです」と名言を残した桜庭和志選手をイメージしていたんですけど(笑)。正攻法で来る奴らがいる中で、頭に有刺鉄線をグルグル巻きにしてMCバトルで闘いたいわけですよ(笑)。


佐藤選手 ハハハ(笑)。いいじゃないですか!


──それは「ミスターデンジャー」松永光弘さんですね(笑)。


佐藤選手 最高ですよ。上野さんの心意気は好きですね!僕は映画が好きなんですけど、同じセリフでも俳優によって重みや説得力が違うじゃないですか。そういうところにも心をグッと掴まれることがありますね。今、全日本のエース・宮原健斗、新日本のエースで社長の棚橋弘至さんとか、お客さんに興行で満足してもらって笑顔で帰すエンターテインメントとか言っているけど、もちろんそれは大事。でもみんなが笑顔を帰って盛り上がるだけのエンターテインメントって凄く底が浅いような気がするんです。色々な価値観があるからこそエンターテインメントの奥深さが出るわけで。




──確かに!


佐藤選手 ヒップホップは友達が死んだ曲もあれば、友達が刑務所に入ったことを曲にしたり、自分の失恋話を曲にしたり、人生でなかなかうまくいかなかったことがあるから今があるというメッセージがあるじゃないですか。笑顔を帰すことがエンターテインメントみたいなことを言っているプロレスラーはインディーを見ていないと思いますよ(笑)。


上野さん 間違いないですね(笑)。ハッピーエンドもバッドエンドも意味の分からない終わり方があるのがエンターテインメントなんですよ。「今日はよかったな」だけじゃなくて、俺の友達も捕まって刑務所に行っていて、「そいつが帰ってくるまでは俺たちが曲とかライブで温めていくぜ」という気持ちで活動してますよ。


──ラジオに自分の音源を流すことで、刑務所にいる友達に届けるんだというラッパーさんもいますよね。


上野さん 全然いますよ。「少年院であなたの曲を聞いて元気が出ました」とか接してくれる人もいて嬉しいですよね。    

 



──プロレスラーもラッパーさんも色々な人の人生を変えてしまうほどの影響力があるんですね。


佐藤選手 そうですね。あとプロレスラーもラッパーさんも世間からの偏見と闘っていると思うんです。プロレスは「あんなの八百長じゃないか」、ヒップホップは「結局、ダジャレでしょ」とよく言われている。どんなものでも人の心が動くかどうかを主としていないのはプレイヤーだけで、外から見ると「あんなの」という世界なんですよ。




「自分が思った本音は人を動かす力があるんだなと田上VS川田で感じました」(佐藤選手)




──ありがとうございます。では次の話題に移ります。お二人が語ってみたいプロレス名勝負があればお聞かせください。


佐藤選手 これは名勝負かどうかは分かりませんが、色々と考えさせられたのが1991年1月15日全日本・後楽園ホールで行われた田上明VS川田利明(田上明・試練の七番勝負 番外編戦)です。この試合は深夜のリアルタイムで見ていて凄い面白い試合で、川田さんが勝つんですよ。田上さんが負けて「チクショー!」とかなっていて、試合後に握手とかノーサイドになるのかと思いきや、田上さんがヒザをついて倒れている川田さんの顔面を蹴り上げたんですよ。すると会場がとんでもない空気になって(笑)。


──ハハハ(笑)。


佐藤選手 これは空気が読めないということなのかもしれませんが、こんなに30年以上前の話なのに印象に残っている。自分が思った本音は人を動かす力があるんだなと田上VS川田で感じました。


──あの試合は異質でしたよね。また田上さんがファンからブーイングを浴びていた時期で、ダニー・スパイビーに6分で敗れたりとか。


上野さん めちゃくちゃ懐かしいですね!


佐藤選手 あの頃の田上さんは嫌われてましたね。「不屈のプリンス」ってどういう意味やねんと思ってました(笑)。


上野さん ハハハ(笑)。プリンス感が全然ない!


佐藤選手 ひと回り小さい馬場さんみたいだったんですよ。川田戦で田上さんのファンになって、四天王で三沢さん、川田さん、小橋さんには黄色い声援なんですけど、田上さんだけ野太い声援が多くて。


──田上さんのファンはほとんど男性だった記憶があります。


佐藤選手 和田京平さんが「田上が三冠王者になってから日本武道館大会のチケットが売れ残り始めた」と身も蓋もないことを言ってましたよ(笑)。


上野さん ハハハ(笑)。


佐藤選手 田上さんは本当についてない人でそういう立ち位置だったと思うんですけど、大人になってみると、田上さんの存在がひとりいるだけで全然違うんですよ。


──田上さんが投げっぱなしジャーマンをやると、みんな驚くじゃないですか。「田上がまさか!」となるわけで、そういうプロレスラーは必要ですよ。


佐藤選手 あの人、スープレックスする気がないですよ(笑)。上に放り投げているという感じですから。いわゆるいい試合はたくさんありますが、語るとなると何か消化しきれないものを口に入れてしまった感覚に陥る試合はどうも忘れられないんです.。



「俺は辻さんや福澤さんの実況を聞いて育ったので、叩かれる理由が分からないんですよ」(上野さん) 



──ありがとうございます。では上野さん、よろしくお願いいたします。


上野さん これはどうでもいいかしれませんけど、1990年4月13日東京ドームで行われた『日本レスリングサミット』の天龍源一郎VSランディ・サベージですね。「イカ天とはイカす天龍のことであります!」でおなじみの(笑)。


──若林健治アナウンサーの名実況ですね。


上野さん あれは大喜利みたいなあいうえお作文があるんだと(笑)。一年後にSWSで二人は再戦しているんです(1991年4月1日神戸ワールド記念ホール)。そこのテレビ中継でナレーターの木村匡也さんが「天龍の顔面キ~ック♪」と叫んでいて、「イカ天」も木村匡也さんのナレーションもどちらもトラウマみたいな感じになりましたね。兄貴は木村さんのナレーションにブチ切れてましたよ(笑)。


──ハハハ(笑)。木村匡也さんは『めちゃイケ』のナレーターとして有名ですけど、ちょっとあの時代のプロレス中継に関わるのは早かったかもしれませんね。


佐藤選手 僕らは古舘伊知郎さんの実況をほぼ聞いてなくて、福澤朗さんが「ジャストミート!」と言ったり、『プロレスニュース』をやったりして古参のプロレスファンから叩かれる意味が分からなかったんです。めちゃくちゃ面白かったじゃないですか。


上野さん 同感です!辻よしなりさんが実況で「ヒャッホー!」と叫んで一部から批判されていて、これも兄貴が「だからお前はダメなんだ!」とめちゃくちゃ怒ってました(笑)。


佐藤選手 ハハハ(笑)。


上野さん でも俺は辻さんや福澤さんの実況を聞いて育ったので、叩かれる理由が分からないんですよ。


──ちなみに辻さんは未だにSNSで叩かれてますよ。


上野さん ハハハ(笑)。ヒドいなぁ。


──辻さんは古舘さん以降の新日本テレビ史を支えた功労者だと思いますよ。物議を呼んだ実況も個人的にはありだなと思ってましたから。




佐藤選手 1990年代の新日本・東京ドーム大会は辻さんの実況がメインでしたから。だから猪木さんの引退試合の実況を古舘さんが担当することになって、「なんで辻さんじゃないんだ⁈」と思いましたよ。


上野さん 俺もそう思いましたよ。


佐藤選手 僕らの世代はスティングが登場して「カッコよすぎる!!アメリカしてる!」とという辻さんの実況が馴染んでいるんですよ。


上野さん そこで古舘さんに変わるというのが辻さん、可哀想ですよね。

 


  

「俺が主催している興行『ENTA DA STAGE』で今年もYOKOHAMA BAY HALLでやる予定なので、その大一番のために準備する一年になりそうです」(上野さん)

「僕は全日本とは年間契約、専属契約どころか、毎月『来月空いてますか?』と1試合ごとにオファーをもらっていて、これを15年続けているんです。未だに1試合ごとのファイトマネーでやってますよ」(佐藤選手)



──古舘さんが猪木さんの引退試合を実況したのは猪木さんの願いで、二人の約束だったという話は聞いたことがあります。ではお二人の今度についてお聞かせください。


上野さん 今年はアルバムを出すのでそれに向けて動いているのと、俺が主催している興行『ENTA DA STAGE』で今年もYOKOHAMA BAY HALLでやる予定なので、その大一番のために準備する一年になりそうです。


──今年も上野さんは興行師として勝負をされるんですね。


上野さん そうですね。俺はインディー団体をたくさん見てきたので、それこそガラガラの大日本プロレス・川崎市体育館大会で、見ているヤツが対面にいる人しかいないという記憶もあるんです。今はガラガラでも、インディー団体を見てきた人間からするとこれは伸びしろでしかないので、興行主として今年はYOKOHAMA BAY HALLを満員にしたいですね。


佐藤選手 僕は全日本プロレスを守るだけです(笑)。


──ハハハ(笑)。ちなみに佐藤選手は全日本とはフリー契約ということですか?


佐藤選手 僕は全日本とは年間契約、専属契約どころか、毎月「来月空いてますか?」と1試合ごとにオファーをもらっていて、これを15年続けているんです。未だに1試合ごとのファイトマネーでやってますよ。契約見直しの話し合いをもつこともなく(笑)。



対談延長戦!!〜プロレス者同士のフリートーク〜



──その契約形態の選手が全日本ジュニアの中心にいるんですよね。これで対談のお題は以上となりますが、ここから少しフリートークで行きましょう。私と佐藤選手は2022年11月に高円寺パンディットでトークイベントをさせていただきましたが、この時に佐藤選手が話してくださったリアルジャパンプロレス(現・ストロングスタイルプロレス)に参戦した経緯の話が最高に面白いので、この場で再びお聞かせいただいてもよろしいですか?


佐藤選手 あれはIGFに出た次の日に要町のパンクラス事務所に行って、帰りに駐車場に行こうと思ったら急に車が出てきて「危なねぇよ」と思っていたら、その車が僕と目が合った瞬間にバーっと走り出したんですよ。これは交通事故なので、車を停めて運転手を引きずり降ろして「ふざけんな!」と言ったら、向こうが「警察を呼んでくれ」と言うので、二人で目白警察署にいくことになったんです。


上野さん はい。


佐藤選手 警察に行って僕は「絶対にあいつを許さない」と12時間、籠城をしたんですよ。なかなか帰らない僕に警察の人が連絡して呼んできたのが新間寿さんだったんです。午前6時に新間さんが現れて「お前、佐藤光留だろ。IGFで見たぞ。もう帰るぞ」と言われて帰らさせられて、初めて会話する新間さんを軽自動車で家まで送ったんですよ(笑)。


上野さん ハハハ(笑)。


佐藤選手 それで新間さんから「次のプロレスの試合はいつだ?」と聞かれて、「DDTに出ます」と答えると「俺はあの団体は知らないから、お前、佐山(聡)の団体(リアルジャパンプロレス)に出ろ」と。そこから急にリアルジャパンの平井代表から電話がかかってきて、「新間会長から言われたので無理やり1試合ねじこむことになりました」と言われリアルジャパンに参戦することになったんです。


──こうして2009年9月11日後楽園ホール大会の和田城功戦でリアルジャパン初参戦を果たしたわけですね。


佐藤選手 リアルジャパンは和気あいあいとしていたDDTの控室とは違ってみんな怖いんですよ!あと乗り越えなきゃいけない問題があって、当時の僕はメイド服を着て入場していたんです。「本物のプロレスを取り返す」と謡っているリアルジャパンでメイド服で入場していいのかを当時の現場監督・折原昌夫さんに聞きに行くと「佐山先生に直接聞いてくれ」と言われたので、「佐山総統」と書かれた佐山先生の控室をにメイド服を着て行ったんですよ。


上野さん それは地獄だ!


佐藤選手 「失礼します」と控室に入ると、奥に佐山先生が立っていて、その後ろに桜木裕司と瓜田幸造がいて格闘技の話をしてました。僕の姿を見た桜木と瓜田は「えっ」という顔をして、佐山先生は全然驚いてないんです。僕は「佐藤光留と言います。今日、急遽出場することになりましたが、この恰好(メイド服)がこの団体に相応しいのか佐山先生に判断していただきたく控室に来ました」と言うと、佐山先生が二回頷いて、桜木と瓜田に「お前ら、これぞ武道だ!」と言ったんですよ(笑)。


上野さん ハハハ(笑)。


佐藤選手 言われた方も「これが武道じゃないだろ!」と思いながらも、佐山先生が「これは宮本武蔵の『五輪書』にもある何々の兵法で…」と語り出して、桜木と瓜田が「押忍」と敬礼して、そのまま僕は入場しましたよ。新間さんは僕がメイド服で登場して驚いたらしいですけど、試合はよかったので、そのままリアルジャパンにレギュラー参戦するようになりました。


上野さん スゲェ話ですね!!お客さんの反応はどうだったんですか?


佐藤選手 最初は「なんだこいつは⁈」という反応でしたが、試合をすると「なかなかやるじゃないか」と。基本的にリアルジャパンのファンはみんな上から目線なので(笑)。リアルジャパンは今のプロレス界では珍しいインディー感満載のエピソードがたくさんあって、話し出したら止まらないですよ(笑)。以前、リアルジャパンの控室で長州力さん、天龍源一郎さん、藤波辰爾さん、長井満也さんと一緒で、早々に長井さんは「こんな控室に居られないよ」と出て行って、僕はこの三人と同じ控室になんて一生に一回しかないなと思ったので残ったんです。


──一生の記念にはなりそうですね!


佐藤選手 長州さん、天龍さん、藤波さんは明らかに「なんでこいつがいるんだ」という顔をしながら、会話していてたんですけど、マジで3人共、何を言っているのか聞き取れな

かったんですよ(笑)。


上野さん ハハハ(笑)。


佐藤選手 三人と同じところで笑っているから会話は成立しているようなんですけど。


──テレパシーで会話しているんですよ。


上野さん 肉体言語ですよ(笑)。


──リアルジャパンのような団体があるからこそプロレスの多様性は示しているような気がしますよ。


佐藤選手 そうなんですよ。いいプロレスばっかり見て育ってもしょうがないんですよ。今のプロレス界は新日本と新日本を水で薄めた団体しかない。だってカナダ人のアブドーラ・ザ・ブッチャーとタイガー・ジェット・シンが「スーダン出身」「インド出身」と言われるのがプロレス界の素敵なところじゃないですか。でも今、スーダンもインドも含めて世界各国のプロレスはほとんどWWEが占めている。そう考えるとインターネットは必ずしもプロレスにプラスをもたらしているわけじゃないんだなと思いますね。プロレスはもっと自分が歩いてきた道や血筋を大事にしていくともっと面白くなるんですよ。今後、その価値観を戻していければいいですね。


──それを全日本で戻していってくださいよ。


佐藤選手 それは無理です(笑)。


──佐藤選手には全日本以外にもハードヒットという城がありますからね。


佐藤選手 そうですね。今年の川崎球場(富士通スタジアム)大会は構想では本当にヒドい内容になると思いますよ(笑)。


上野さん 白馬で入場とか見たいです(笑)。


佐藤選手 IWAジャパン川崎球場大会ですね!白馬に乗ったテリー・ファンク、かっこよかったんですよ!以前、天龍さんに来てもらったことがあって、リリーフカーに乗って登場してもらうために天龍プロジェクトで身体を張った試合をやってました(笑)。でもリリーフカーがなくて、川崎のトヨタが持っている西城秀樹さんが乗っていたオープンカーがあって、当日に車のナンバーを見ると「708」で僕の誕生日で、天龍さんの娘さんの紋奈さんの誕生日だったんです。それで紋奈さんが「これは私が運転するしかない」と運転して『サンダーストーム』に乗って天龍さんが入場したんです。30キロくらいのスピードでスタジアム内を2周してましたね(笑)。またこんな感じの無茶苦茶なトークイベントでいつか高円寺でやりましょうよ!


──いいですね!その時は上野さんも一緒にやりましょうよ!


上野さん いつでもお声掛けいただければ行きますよ!


佐藤選手 そのイベント名は「幸村ケンシロウを語る会」にしましょう(笑)。


──ハハハ(笑)。素晴らしい締めくくりになりました!佐藤選手、上野さん、本当にありがとうございました。お二人のご活躍を心からお祈りしております。


(プロレス人間交差点 佐藤光留✕サイプレス上野・完/後編終了)