友人たちの進路希望表の内容を聞いたところ、呆れられてしまった。

「二人とも、まだ出してなかったの?」
「アタシはその日のうちに出したよ」
「あたし? あたしは一昨日」

 口々に言われてしまう。

「みんな早いのね、」

 やりたいことが、ちゃんと決まっているのだろう。

(わたしは何がしたいのかしら?)

 傍らの水藍を見る。

(水藍は?)

 彼女のやりたいことは何だろう?

 わたしは。水藍の親友などと言いながら、彼女のやりたいこと、なりたいものを知らない。

 そもそも。

(知りたいと思った?)

 当たり前のように傍にいて、わたしはずっとこうして行くのだと漠然と思っていたのではないか。

『別々の人間で、別々の人生なんだから』

 思い出してギクリとした。

 昨日の紫藤の言葉だ。

 諭すような彼の口調。

 水藍とわたしを似ていると、彼は言った。

 彼の眼に、わたしたちはどんな風に映っているのだろう。

 水藍がわたしを呼ぶ。

「菖蒲(あやめ)」

 わたしは、彼女がわたしを呼ぶ時の柔らかい声が好きだ。

 水藍は「帰ろうか?」と微笑する。

 わたしは頷き、鞄を取り彼女の隣に並ぶ。

「明日みんなの志望、聞いてみる?」

「そうだね」

 水藍はクスリと笑う。

「何?」

 彼女は「内緒ね」と苦笑を浮かべる。

「失礼だって思うケドさ、」

 前置きをする。水藍は「菖蒲だから言うんだよ」と小声になる。

「紫藤先生がさ、私たちに声をかけたわけでしょう? 探していたのかな?」

 水藍は「みんなはさ、」と続ける。

「みんなは、もう提出しているってことでしょう?」

ちょっと意外だった、と感心したように言った。

「あはは、ホント失礼」

 わたしが笑うと彼女はまた「内緒だからね」と念を押す。

 友人たちの顔が浮かぶ。

 今日も会って話したというのに、進路やこれからの話をしたことがあっただろうか。

 水藍の横顔が視界に入る。

 彼女とも、そんな話をしただろうか?

 違うかもしれない。

 水藍の気持ちが、海であれ紫藤であれ、誰かにあるのなら。わたしは、実は嫌なのかもしれない。

 だから今まで指摘して来なかったのかもしれない。

 わたしが指摘したことによって、彼女が気付いてしまうかもしれないから。

(水藍には幸せになって欲しい)

 それなのに。

 わたしは水藍がわたしから離れるかもしれないことが嫌なんだ。

(寂しい?)

 そうかもしれない。

 けれど、違うかもしれない。

(紫藤先生なら、やっぱり反対だわ)

 彼は教師だ。

 海なら、やっぱり反対するかもしれない。

(水藍を誰かの代わりにするのは許せない)

 彼らでなければ良いのかしら?

 水藍が良ければ、良い気がする。

(でも今のところ、水藍のことを解っているのは、あの二人くらいだわ)

 今はまだ、わたしたちの世界が狭いからだろうか?

 『時間なんてあっという間』と紫藤は言った。

(本当に?)

 時間があってもあっても足りない。

 わたしには、そう思える。