友人の何気ない言葉に、怯んだように見えた。

 それは、ほんの一瞬。

 次の瞬間には「そうだね」と、いつもの彼女に戻っている。

「とりあえず地元の大学を書いておこうかな」

 水藍が「ね、菖蒲」と同意を求めるので、わたしは頷いた。

『別々の人間で、』

 紫藤の言葉がちらつく。

(ちゃんと解っている)

 水藍も気付いていないフリをしているだけ。

 だから、友人の言葉に不意打ちを喰らってしまった。

 準備が出来ていなかったから。

 紫藤は、わたしたちがお互いを同一視していることを案じていた。

 それは、わたしにも解る。たぶん水藍も。

 だけど。

(どうすれば?)

 別々の人間だと解っていながら、同一視を演じている。

 別々だ、と気付かないフリをしている。

 水藍が「みんな、そう?」と問う。

 友人たちは顔を見合せてからそれぞれ答える。

「あたしは第一、第二希望は決まっているから、第三はテキトー」

「アタシは近くて希望の学部があるトコ。でも今の成績じゃマズイ」

「あたしは親の希望が第一、第二と第三は自分の行きたいところ」

 友人たちは質問者の水藍だけでなく、わたしにも答える。

「親の希望か」

 水藍が小さく呟く。

「何か言われているの?」

 彼女は首を横に振る。

「逆。何も言われない。基本的には任せるって感じ」

 友人が「菖蒲も?」と首を傾げる。

 わたしは「水藍ほどは、」と首を振る。

 水藍の両親は、彼女を信頼している。彼女もそれを解っているから今までも、信頼を裏切るようなことは決してしない。

「ウチはたぶん、地元が希望かな。家から通えるところ」

 友人たちは「あぁ」と納得している。

「じゃあ菖蒲はとりあえず地元の大学を書けば良いんじゃない?」

「あぁ、そうね」

 そして「じゃあ水藍も同じでしょう」と続く。

 ギクリとする。

 昨日の紫藤の姿が、再び頭を掠めた。

 友人が「マジメ過ぎなんじゃない?」とわたしと水藍を見比べる。

 わたしたちは顔を見合せる。

「あ~そうかも!」
「あ~!」
「確かに!」

 わたしは「そんなつもりはないケド、」と水藍を見る。彼女もわたしの言葉に頷く。

「いやいや、あるよ!」

「あるね。二人ともさ『書いたんだから、その通りにしなくちゃいけない』みたいなところがあるよね」

「あ~! 二人ともあるね、そういうところ」

 友人たちは「悪いところってわけじゃないよ」とフォローも入れてくれる。

でもさ、と続く。

「今、特に行きたいとことか決まってないなら興味があるってだけのところでも良いんじゃない?」

 興味、と友人の言葉を反芻する。

「興味が湧いたってことは自分の中の何かが引っ掛かったってことでしょう?」

「あ、そうだね! 何にもなければ興味が湧かないもんね」

 そうそう、と頷いている。

「そうだね。理由は後付けでも良いんじゃない?」

「ちょっと興味が湧いただけだったのに、調べてみたら『行ってみたい』に変わるかもよ?」

 わたしは水藍を見る。彼女もわたしを見る。

 そして友人たちの顔を見渡す。

 彼女たちは「ね?」と明るい顔をしている。

 彼女たちがそんな風に考えたりしていることも、わたしは知らなかった。